125話 タコライス
「実は、サンミのところでチリビーンズをもらってきまして」
ということで、今日のお昼はチリビーンズで
『タコライス』
決め手はサルサソース!
まずはサルサソースを作る。
サクラは玉ねぎををみじん切りにするために準備をする。
「サクラさん、なにやってるんですか?」
「ふへ?」
「……箸なんか咥えて」
サクラは咥えた箸を外して説明する
「いや、玉ねぎ切るとき箸を咥えると涙がでないっていうから……」
唾液が先に出るから、涙がでにくくなる、らしい。
イシルはふふっ、と笑う。
サクラの行動は突拍子もなくて面白い。
「貸してください」
イシルはサクラから玉ねぎをもらい、半分に切る。
繊維をつぶさないよう、上から丸みにそって斜めに包丁の刃を入れていく。
ヘタの部分を残し、刃先でチャッチャッチャ、と、縦線が入る。
真上からまっすぐ切るとどうしても細胞を破壊して お涙頂戴エキスが舞い上がってしまうからね。
90度回転させると、横から三ヶ所ほど切れ目を入れ、横向きになった玉ねぎを上から切る。
″ザクッ、ザクッ、″
「うお~」
ばら、ばらと玉ねぎがみじん切りにされていく。
「さすが、刃物の扱いがうまいですね」
よく切れる包丁、華麗なる手さばき、涙もでない。
あっという間に5ミリほどの幅のみじん切りが出来上がった。
水にさらしている間にピーマンも同じ大きさに刻む。
サクラはその横でトマトを1センチ角に切る。
「コリアンダー大丈夫ですか?」
コリアンダー、パクチーのことだ。
「はい、大好きです」
パクチーもみじん切り。
最近は便利よね、チューブのパクチーが売ってるのよ。
パクチー好きにはたまらない!
ワサビやカラシのように気軽に使えるなんて……
なんにでも入れられる。
冷たいソーメンや蕎麦に入れてプチアジアン気分にすぐなれる!
玉ねぎは5分ほどさらしたら水を切る。
これらをオリーブ油、レモン汁、砂糖、おろしにんにく、タバスコで味付けすれば、フレッシュサルサの出来上がり!
このサルサソースは、肉に、野菜に、魚にと なんにでもかけられる。
今日はサンミのところのチリビーンズがあるけど、挽き肉でタコライスを作る場合はケチャップやソースなど、家庭にある調味料で汁気がなくなるまで玉ねぎといっしょに炒めて、しっかりお肉に味を入れるといい。
カレー粉でインド風、豆板醤でちょい中華、ケチャップで洋風など、お好みの味でどうぞ。
あと、某コンビニでは パウチのサラダ系のところに 大豆タコミートてのが売ってるんですよ。
少し甘めでしたが、タバスコプラスしてオトナ味にできます。
お試しあれ。
お皿にレタスを敷き詰めてその上に雑穀米をよそう。
雑穀米の上に千切りキャベツ。野菜増量だ。
チリビーンズをのせ、チーズをちらす。
とろけるチーズでもいいけど、今日はパルメザン。
チーズの味が勝ちすぎないようにね!
カットトマトを添えたら 作りたてサルサソースをかける。
だめ押しで目玉焼き!
ビバ!タコライス!!
「「いただきます!」」
サクラは目玉焼きの白身にスプーンを入れる。
黄身はまだ!
レタスと一緒にご飯、チリビーンズ、チーズ、白身をすくうと 口にいれた。
「しゃくっ、もくっ」
パリッとしたレタスの食感。
しっかりとした味付けのチリビーンズと、チーズの旨味がよく合う。サルサソースが加わり、ピリッと華やかな味わい。
サルサソースのフレッシュなトマトの酸味。
レタスとぷりぷりの卵の白身のおかげで、あっさりいける。
ふわっとパクチーが香る。
サクラはタコライスは混ぜない派だ。
混ぜてしまうとレタスやキャベツがしんなりしてしまい、シャキシャキ感がなくなるから。
さてさて目玉焼き。
ぷるんとサクラを見上げる卵の黄身。割るのがもったいないけど……
″プツン″
黄身にスプーンを入れる
″とろ~ん″
ぐはっ!半熟卵……この見た目だけで食べたいという欲求を掻き立てられる。
勿体ぶりながら流れ出る黄身の誘惑……
「あぐん」
外見たがわぬ濃厚な舌触り。
黄身が具材を包み込んで閉じ込めてる。
咀嚼すると、口の中で混ざりあって、絶妙な味わいに!
濃いな!!白身のときとは別の顔。
黄身のまったりした中に チリビーンズのスパイシーさが顔を出す。
「んー!」
胃袋をがっつり鷲掴みされる。
雑穀米とチリビーンズって、合う。
麦やアワ、キビ、赤米などのもちっと弾力、しっかりした噛み応え。
パラパラと粘り気が少ないから チリビーンズとよくなじむ。
サクラはこれに、さらにパクチーを追加する。
パクチーマシマシで、これ、もう、パクチーサラダ!
パクチー苦手な方には申し訳ない。
「あぐん」
がっつり、パクチーと一緒にタコライスを頬張る。
強い香り。
主役がパクチーにかわる。
メキシカンから一気にアジアンへ。
これは病みつきになる味わいです!
美味しいランチと何気ない会話。
何気ないけど とっても美味しいイシルとの会話。
「村の様子はどうでした?」
「門の脇に 警備隊の屯所が出来てましたよ」
「もう出来たんですか?早いですね」
「ええ、ギルロスが呼んだ人達が集まりだしたので、急いで作ったみたいです」
飲み会の時に出た話だから、一週間もかかってないんじゃないだろうか……すごいな、ドワーフの技術って。
「バーガーウルフにも新しい人が増えてましたよ」
「アルバイトですか?」
「はい、オーガの村から。この時期麦農家が暇ですからね。ああ、リベラと一緒に来たようです」
リベラはラルゴが助けた巨乳の鬼っ子だ。
茶髪に金メッシュのストレートの長い髪を高い位置でポニーテールにした、カッコいい女剣士。
「リベラさんは入隊試験受かったんですか?」
「ええ、そちらは問題無さそうでしたね」
「そちらは?」
「バーガーウルフは、ちょっとおかしなことになっていました」
「えっ!揉め事ですか!?」
サクラはアイリーンの心配をする。
誤解を受けやすい子だから、新人さんとトラブったとか!?
「いえ、揉め事ではありません、むしろ、いい事……なんですかねぇ……」
「?」
イシルもどういったら良いのかよくわからないようで、歯切れが悪い。明日行けばわかると、かわされてしまった。
なんだ?アイリーンに恋人でもできたのかな?
貴族、ゲッツできたとか?
「メイ先生のところで 薬草もらえました?」
「いただきました。なんでも、新しい調合をシャナが教えてくれたようで、僕も勉強になりましたよ」
「へぇ、イシルさんでも知らないことあるんですね~」
「最新の技術には触れていませんでしたからね」
引きこもりでしたからね。うは。
あ!これ、いい機会かも。
イシルも忙しくなれば 距離が置ける。
「じゃあ、シャナさんにもっと教えてもらえばいいじゃないですか」
イシルのスプーンが止まる。
「……そうですね」
(あれ?変なこと言ったかな……)
◇◆◇◆◇
「じゃあ、シャナさんにもっと教えてもらえばいいじゃないですか」
サクラの言葉にイシルの手が止まる。
サクラは 何を考えてるんだ?
何も考えてないから出た言葉なのか?
好きだと伝えたわけではないが、イシルの気持ちは感じてくれてると思う。
サクラも憎からず想ってくれてるのかと感じていた。
実際 シズエにはヤキモチを焼いてくれたではないか。
それなのに、何故シャナをすすめるような言い方をするんだ?
「……そうですね」
返事を返すとサクラがきょとんとしている。
サクラは普通にすすめてくれただけだ。
自分が考えすぎてるだけなのかもしれない。
サクラの事になると過敏に反応してしまう自覚はある。
(シャナ、ね……)
今日イシルはまずサンミのところに寄り、サクラが体調が良くないことを伝えた。
バーガーウルフに新しいアルバイトが入ったので、大丈夫だと聞き、ローズの街の土産物を渡す。
アイリーンにあざみ野での話をしたあと、村の入り口の屯所にいるギルロスに会いに行き、近況の確認をした。
あれから貴族の来訪はないそうだ。
バーガーウルフの開店時間になり、ちょっとおかしな現場を見たあと、モルガンのところへ行き、ローズの街の酒を渡す。
モルガンはピューラーが完成し、量産を始めていた。
ようやくメイの治療院に行ったのは 12時の少し前だった。
モルガンの家にいた時に 11時を知らせる音楽が鳴ったからだ。
メイの治療院で、メイと一緒に薬の調合をしていると、途中で シャナが外へ出ていく気配がした。
「どうしたんじゃ、イシルさん」
「すみません、モルガンのところに忘れ物をしたようで……」
「ほっほっ、お互い歳はとりたくないもんですなぁ、行ってきなされ」
メイに断りを入れると、イシルはモルガンの家ヘ行く風を装い、シャナを追った。
(……いた)
シャナは 組合会館へと入っていく。
イシルは悟られないよう シャナを尾行する。
ラルゴはいない。
シャナは周りをうかがいながら 階段を目指している。
(地下へ行く気だ)
前回シャナが地下へ来たがった本当の目的は、本ではなく魔方陣の場所だったのだろう。
シャナは地下へ降り、魔方陣の前へ立つと 魔力を込めた。
シャナの魔力が膨らむ。
(魔力を押さえていたんだな)
″バチッ!″
「きゃっ!」
シャナが弾かれ、小さく悲鳴をあげる。
「駄目か……」
シャナは手のひらにおさまる大きさの水晶を取り出すと、誰かと話し始めた。
「ミケランジェリ、聞こえますか?」
″…………″
「はい。イシル……エルフは今村にいます。ですが、魔方陣に結界がはられていて、私には……」
″…………″
「あの、マーキスは無事なんですよね?」
″…………″
「……わかりました」
シャナが水晶をしまう。
帰る気配がしたので イシルはシャナより先にメイの治療院に戻った。
魔方陣にはイシルが結界をはっておいた。
勿論、森の中の家にもだ。
サクラが外に出なければ危険はない。
相手の声は聞こえなかった。
「ミケランジェリ」「マーキス」
ミケランジェリが黒幕で、マーキスが人質か。
やはり弱みを握られ 仕方なく指示に従っているようだ。
(もう少し、様子を見るかな)
今動くには 情報が少なすぎる。
イシルはメイと共に薬の調合を終える。
「ん?シャナ、どこか行っとったんか?」
帰って来たシャナにメイが声をかけた。
「組合会館へ 本を返しに……」
チラチラとシャナがイシルを気にする。
イシルはそ知らぬ顔でシャナに話しかける。
「シャナが教えてくれた調合、大変役に立ちました。時間短縮されるのですね、助かります」
「いえ、今はこれが主流なので。でも、本来のやり方を知った上でないと、途中で分離してしまうんですよね」
シャナは本来真面目な娘なのだろう。薬師としても優秀だ。
なんとか良い方法を探らなくてはな、とイシルはメイの治療院をあとにする。
″ぐにゃり″
(……なんだ?)
イシルは自分のかけた結界が歪んだのを感じた。
森の家の方だ。
破られたわけではない、歪んだのだ。
違和感を感じ、家へと急ぐ。
(サクラ)
家は、無事だ。
結界はとかれていない。
玄関の扉も開いていない。
誰も外へ出た気配はない。
サクラ……
サクラは……
「サクラ!!」
イシルはサクラの部屋に飛び込む。
だが、部屋にサクラはいない。
「ラン!サクラはどこに……」
ガチャリとランの部屋を開けてイシルはフリーズする。
(何故一緒に寝てるんだ!?)
近づいて、合点がいった。
ランは 子供の姿をしていたのだから。
ランが駄々をこねたのだろう。
(それにしても、駄目だろう!!)
寝顔は天使でも心は野獣。
イシルは、サクラを、悪夢から解放し、一緒にランチを食べる。
今日のランチは『タコライス』
サンミのところでもらった チリビーンズをつかって。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます