110話 湖のほとりでひと休み (イタリアン)
あざみ野町を出てからランの背に揺られること二時間程。
イシルがランに休憩しよう、と、サインを送る。
丁度湖に差し掛かったところでひと休み。
サクラとイシルは木影に座り、ランは湖を背に岩に腰かける。
ランチタイムだ。
ランは既にアザミ野町の肉屋で買った子豚の丸焼きにかぶりついている。
ポルケッタというらしい。
塩とローズマリーを詰めて 皮がバリバリになるまで焼いたものだ。
「サクラさんには まずこれを」
渡されたのはサラダ。
「チョップドサラダ!」
アザミ野町の屋台にはこんなのなかった。
イシルが作ってきてくれたんだ。
……痛み入ります。
チョップ→叩く。すべての具材が細かく刻んであるサラダ。
スプーンやフォークですくって食べる。
「これなら外でも食べやすいでしょう?」
「わぁ、キレイですね」
赤、緑、黄、黒 カラフルなサラダ
「「いただきます!」」
フォークですくって 口にいれる。
「はむっ」
キュウリ、ブロッコリー、ラディッシュ、黄パプリカ、ブラックオリーブがダイス状に刻んであり、ゴリゴリと歯応えがあって美味しい。
ドレッシングは……なんだろ、さっぱりレモン系?
オニオンがドレッシングに刻んで入ってる。
どの食材も均等に味がついていて、あきがこない。
「僕が選んだのは これです」
イシルが アザミ野町の屋台で買ったお昼を半分サクラに渡す。
「パニーニ!」
パニーノ。
パンに具材を挟んだ後、パンの両面をこんがりと焼いたもの。
半分に切って渡してくれるので 複数形 パニーニだ。
焼く時に波型の鉄板で焼くので、焼き目に特徴がでる。
この焼き目がなんとも美味しそうに見える。
パンの
イタリアのおにぎり的食べ物。
野菜やチーズといった栄養を一度に摂れるので忙しい朝やランチに最適!そして、何を挟んでもおいしい!
「あぐっ」
大口をあけてかぶりつく。
「んー!」
さっくり、薄く香ばしいパン。
挟まっているのはプロシュート……生ハム!
そこに山盛りのルッコラとモッツアレラチーズ。
オリーブオイルの香りがするな。
「もぐっ?」
ほかにもいる……固くて、濃く、独特の、チーズ臭い匂い
パルメジャーノ!パルメザンチーズ。
あの アザミ野町のチーズ屋さんに タイヤのようにつみあげられてたチーズだ。
熟成され、水分がとび、凝縮されてる。
はじめて塊を食べた時は ボロボロして、石鹸かよ!?と思ったけど この強い匂いはクセになる。
二種類のチーズが使われていたんだ~贅沢。
「はむっ」
モッツァレラチーズは半生のように柔らかく溶けてるのに、生ハムやルッコラはフレッシュで、絶妙な焼き加減。
スライスされたパルメジャーノは多すぎず、主張はしてるが強すぎない。
バジルもルッコラもチーズも香りの強い食材なのにバランスがとれている。
生ハムを ちゃんと主役においている。
ソースは使わずに、職人技に脱帽です!
そして、サクラが屋台で選んだのは……
「ラザニアです」
すみません、糖質で。
イシルがわざわざ薄いパンのパニーニを選んでくれたのに
野菜とチーズの高たんぱく食物繊維を選んでくれたのに
当人はがっつり炭水化物です。
「旅で体力つかいますからね」
イシルさん、フォローはありがたいですが、
走っているのはランですよ?
ワタシは乗ってるだけなんです。
でも、食べたかったんです。
だって、このラザニア
『ポルチーニのラザニア』
なんですよー!!
トマトソースじゃないんですよ?
めったに御目にかかれないじゃないすか!
現世でも ラザニアがメニューにある店って意外と少ない。
グラタンは多いのにね。
半分にしてもらい イシルから受けとる。
″トロッ……″
切った断面から クリームソースが流れ出る。
ポルチーニ茸のエキスが溶け込んだ ミルクティーのような 柔らかいブラウンのクリームソース。
「ぱくっ」
口に入れた瞬間 芳醇な香りが広がる。
「んふっ///」
西洋の松茸 ポルチーニ。
ふんわりとひろがるその香りは 優しい。
ホワイトソースに ポルチーニ独特の香りと旨味を移し、
クリームに装いをつけ、まったりと濃く仕上がっている。
生地、ベーコン、チーズ、のミルフィーユに 玉ねぎの甘さが加わり、モチモチのラザニアの生地に クリームからまって なんとも上品な味わいに。
ポルチーニ茸の エリンギのような歯応えもたまらん……
マリアージュ。食の合同結婚式や~!
頭の中で 祝福の鐘が鳴る。
「はぁ///」
おめでとう!ありがとう!
コクがあるのに重すぎないから ペロリと食べられちゃう。
″ザバッ!!″
ランチを堪能していると、大きな水音がして 木漏れ日を遮る黒い影がかかった。
サクラの手が止まる。
ランの背後に 巨大なナマズが 顔を出す。
「ラン!!」
イシルが叫ぶ。
ランは肉を手に イシルを見つめたまま動かない。
ナマズがぱっかり口を開けた。
″……パリッ″
「!?」
″ザブーン……″
ナマズがゆっくり 後ろに倒れる。
何が起こった?
ランの背後に 大きな水音と共に湖から巨大ナマズが現れ ランを食べようと口を開けた。
イシルがランの名を叫ぶ。
ランは 振り向きもせず イシルを見つめたまま ナマズに雷魔法を落としたのだ。
「湖なのに 雷魔法を使うなんて なに考えてるんですか」
イシルが呆れる。
見ると 湖に 巨大ナマズが浮かんでいた。
もちろん、他のサカナも。
白いお腹をだして、プカプカと。
カメとかも いるよ?
水鳥も いるよ?
よく分からないケモノの姿も。
全滅!?
「弱い雷だから すぐ起きるよ。それより……」
キョトンとした顔のランがイシルに問う。
「オレの名前……呼んだ」
『
「……呼んでませんよ」
イシルがばつの悪そうな顔をする。
「いや、サクラも聞いたよな」
「……はい」
ちょっと嬉しそうなラン。
対照的に苦い顔のイシル。
「緊急事態でしたので」
あ、持ち直した。開き直った。
「ナマズが起きる前に行きますよ」
「えっ!」
「まてまて、イシル!」
サクラとランは 急いでランチを掻き込む羽目になった。
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