109話 あざみ野町 2







ハンナと子供達は サクラとイシルとランを院の出口で見送る。


「またきてねー!」

「ありがとー!」

「ふぇ~ん、いっちゃやだぁ……」


ハンナは泣く子をなだめながら、ふと自分の腰が痛くないことに気づく。

治っている……?


「あ!マリアさま」


女の子が 院の横手の森に 人影をみつけて声をあげた。


「マリアンヌ様、いらしてたんですね」


ハンナもその人を見留めて声をかける。

人影は ハンナに歩み寄ると ローブのフードをとった。

豊かなシルバーブルーの髪が ふわりとなびく。


「元気にしてましたか?」


マリアンヌと呼ばれた女は 陽だまりのようなほほ笑みをうかべ 子供達に挨拶した。


「マリアさまのおくすりでビョーキもなおったよ!ありがとう」


マリアンヌは 子供の目線までしゃがむと、優しく頭をなでる。


「私も 元気なセシルに会えて嬉しいわ。治ってくれてありがとう」


マリアンヌは 旅の魔術師。

町から町へ旅をして困っている者を手助けしている。

異世界では魔法で傷は治せるが 病気は治せない。

そんな人達に 薬を調合したりしている。

孤児院、病院、裏路地街、貧困街、花街はなまち……


「今の人達は?」


見ていたのだろう、マリアンヌはサクラ、イシル、ランの事をハンナに尋ねる。


「はい、アイリーンの……ここから巣立った子のかわりに届け物を持ってきてくれたのです」


「……そうですか」


「あの、高価な宝石をいただいてしまって、借金返済と家の修繕、子供達に暖かい服を、と……」


「まあ……」


ハンナはとまどっているようだ。

マリアンヌは側仕えの者に指示をだす。


「バズ、ハンナと一緒に行ってちょうだい。ハンナ、子供達は私がみてるから この者と用事をすませてくるといいわ。早いほうがいいでしょう」


「ありがとうございます」


マリアンヌは バズと呼ばれた 見るからに屈強な男と共に ハンナを借金返済と 家の修理依頼に向かわせる。

バズが一緒なら 足元を見られることもないだろう。


「それと……」


マリアンヌは少しためらってからハンナに尋ねた。


「あの人達は どこに行くと言っていましたか?」


「はい、ローズの街へ向かう と。」


そう、ありがとう、と、マリアンヌは子供達と家の中に入った。


「みて、マリアさま」


カナルが紙ヒコーキをマリアンヌに見せる。

ランに一番はじめに 紙ヒコーキに名前を入れてもらった男の子だ。


「まあ、青い鳥ね……名前が入ってるの?」


それと、防水、強化の魔法。


「うん、黒豹のおにいちゃんが 入れてくれたんだよ」


カナルが 紙ヒコーキを飛ばす。

スーッと、空中に浮かぶように飛ぶ。


ほかの子も紙ヒコーキで遊びだした。

南国の鳥のようなカラフルな紙ヒコーキが飛び交う。


「全てのに 名前が入ってるのね」


マリアンヌは落ちた紙ヒコーキを拾うと ふっ と 笑った。


名前を呼べない我が子は優しい子に育ってくれたようだ。


庭で 子供達を乗せて遊ぶ黒豹を見たときは 心臓が止まるかと思った。

ギルロスからは『見つけた』という報告は受けていた。

ドワーフの村にいるはずだったのに……


名前を呼べない我が子

サン・ダウル第三王子

――――マリアンヌは ランの母親だった。


一緒にいた二人……

エルフのほうは こちらに気づいていたようだ。

もう一人、女のほうは あの子の……


マリアンヌの顔が 自然とほころぶ。

あの子が呪いを自ら解く日も近いかもしれない。


あの子の名前を呼び 抱きしめたい。

もう一目、会いたい……

遠くからでも……





◇◆◇◆◇





「従魔登録しないで入町したのに あんな目立つことして 騒ぎになるとこでしたよ」


ランはイシルにお小言をくらう。


「子供の扱いなんて知らねーし」


ランが反論する。


「誰にも見られなかったんだからいいじゃん」


反省の色ナシだ。


「手続きなんてしねーで壁越えて入れば?」


不法侵入ですよ、ソレ。


「いいですけど、何かあっても他人のフリしますからね」


「う……」


孤児院から町の入り口へ戻ると 町が賑わいだしていた。

開店準備の真っ最中。

服屋、金物屋、食堂、雑貨屋、薬屋……

入り口へ歩きながら サクラは通りすぎる店を興味深くのぞく。


流石異世界、現世にはない店がある。


武器屋、防具屋、魔石屋……


「うおっ!」


――――肉屋には おかしなケモノが ぶら下がっている。


(なんだトリか?サカナか??)


――――果物屋には 見たことのない色の パパイアのような実。


(コレは 何色っていうの?赤?緑?灰色?)


――――そして、強烈な匂いは……


(チーズ!!タイヤみたいにデカイチーズが山積み!!)


イシルは そんなサクラを楽しそうに眺めながら歩く。


「サクラさんワクワクしているところすみません、暗くなる前にローズへ入りたいのですが……」


「あ、はい」


残念。


「アザミ野は 次回アイリーンに案内してもらっては?」


「そうですね」


アイリーンとアザミ野デート、楽しそうだ。

いいな、ソレ。


「そのかわり、屋台でお昼を買っておきましょう」


「はい!」


屋台!心踊る響き!!


(何があるかな~♪)


サクラは屋台の並ぶほうに目を向ける。


「串焼きだ!ん~香ばしい匂い……」


匂い的には牛肉かな?

肉厚なブロックがゴロゴロと刺さってる。

肉汁がしたたり落ちて 炎があがる。

このライブ感が屋台の醍醐味。

食べてる人をみると……

中はミディアムレア!くうっ!


「あれは……ピザ?」


隣を見る。

売っているのはさっき見た食堂の人だ。

たしか、店の中に石窯があったよ?

石窯ピザ!?

半分に折られてテイクアウト用になってる。

この匂いは トマトソースにチーズと……


「サラミ!」


ドワーフ村がドイツなら アザミ野町はイタリアっぽい。


次は……あ、ハンバーガーが売ってる。

敵情視察は必要かしら……

ソースは何を使ってるんだろう……

くんくん……


「デミグラスソース……」


ゴージャス!!

お洒落バーガーだ!

値段は……1000¥!?

バーガーウルフの倍じゃないか!

これが都会価格……むむむ……


「サクラ、決まった?」


目移りしているサクラに ランが声をかける。


「はっ!いや、まだ。ランは何にしたの?」


参考までに。


「オレ?オレは肉」


「肉?串焼き?」


「いや」


はて、見落としたかな?


「小豚の丸焼き」


屋台じゃなく肉屋でかよ!!


「イシルさんは?」


優柔不断なサクラは イシルにも聞く。参考までに。


「サクラさんが選ばなかったものにします」


「?」


「半分にすれば 二種類食べられるでしょうから」


うわー!ナイスイケメン!!

イケてるメンズ的思考ですね!?

これで惚れるなというのは無理だろー!!

私が悪いんじゃないぞー!!

こんなん男でも女でも落ちるわ!!

ラルゴの気持ちがワカル……


「じゃあ///ワタシはコレにします」


昼ごはんを亜空間ボックスへしまい、

三人はあざみ野町を出て ローズの街へと向かった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る