107話 野菜牛肉巻き
「17人」
「へ?」
「兄弟は17人よ」
……大家族デスね
「孤児院なの」
そうか。
アイリーンがお金にこだわっていたのは
そういう理由だったんだ。
サクラは家に帰ると 早速コロッケを作りはじめた。
イシルに話すと、快く 了承してくれた。
アザミ野町に寄ることも、亜空間ボックスのことも。
「じゃあ、僕は パンでも焼きますかね、子供達のために」
そう言って 笑う。
ああ、こういうとこが たまらなく好きだ。
おっと、イカン。
サクラは自分の気持ちを引き出しにしまう。
プレゼントに買った 懐中時計と共に。
「何?晩飯コロッケなの?」
サクラがコロッケを作っていると ひょっこりランが現れた。
コノヤロウどこ行ってやがったんだ。
「これは違うよ。あ、ラン、夜におみやげのお酒、飲む?」
飲むなら燗の用意もしなければ。
ランは猫舌だからぬる燗かな。そのままでもいいけど。
ローズの街に行くなら暫く用意してあげられないからね。
「いや、いい」
あれ?飲まないの?
「ローズまでサクラ乗っけていかないといけないから」
ローズ行きをどこかで聞いてきたらしい。
パンをこねていたイシルの手がとまる。
「君は来なくても大丈夫ですよ。乗せて長く走るの大変でしょう?」
(訳:折角二人きりなのに邪魔しないでください)
ランは にっと笑う。
「サクラ痩せたから大丈夫。五刻もあればつくよ」
(訳:二人きりになんかするわけないだろくそ
いやいや、痩せたと言っても……
「痩せたの たった1.8kgだよ?」
「何言ってんだよ」
ランが右手を前に出す。
「うわっ!何ソレ」
ランの手のひらの上に 白くぶよぶよしたものがこんもり。
スライム……じゃないよね?
「1kgの脂肪」
モザイクをかけてお伝えします。
脂肪1キロの大きさは『横27cm×縦13cm』くらい。
片手だと簡単にはつかみにくいサイズだ。
500mlのペットボトル × 2本
+乳酸菌飲料(ヤ○ルト) × 3.5本分
と言われている。(タニタHPより)
「わかったから、しまってよ~」
プルプル、ぶよぶよ、グロイです。
「あれ二個分なくなったんだぞ、
ありがとう、ランよ。
勇気がでたよ。
「サクラの体のことは オレが一番知ってるから」
ドヤ顔ですり寄ってきたランを サクラはグイッと左手で押し返す。
「はいはい。わかったから、油、跳ねるよ~」
じゅわっ と 音を立て コロッケが 油の中で泳ぐ。
″パンっ″
「にゃっ!」
あ、水が入った……驚いてランがぴょんと 跳び退く。
「どうしますか、サクラさん」
「ん?」
「僕に抱かれるか」
「オレに乗っかるか」
二人ともその言い方ヤメテ……
ローズの街までイシルに
「悪いので、ランの背に乗っていきます」
「……そうですか」
ラン WIN!
ランはご機嫌に リビングにむかい、子猫になると丸くなった。
イシルは パンを焼いている間に 夕食の準備にかかる。
牛肉のスライスを取り出すと 具材を置いて 端からくるくる巻いていく。
今夜は肉巻きのようだ。
……手早いな。
単純作業でストレスを発散するタイプ?
肉巻きの具材は何でもいい。
冷蔵庫に残っている野菜たち。
アスパラ王道、ピーマン、人参、ナス、トマト、インゲン豆、キノコ、チーズ……
一種類ずつ くるくる巻いていく。
何種類か組み合わせて巻いても美味しいけどね。
サクラはコロッケを揚げ終え、イシルの隣で手伝いをする。
「イシルさん、私、シズエさんに会いました」
「……え?」
いつ言おうかと思っていたが、やはり二人のときがいいかなと みんなの前では言わなかったのだ。
「おからドーナツ、シズエさんの店で買ったんです」
「そう だったんですね……元気、でしたか?」
「はい、とても」
「よかった」
イシルが感慨深げに呟く。
「お豆腐も買ってきたんですよ、食べてくださいね」
「ありがとうございます」
パンが焼けたので コロッケと共に 亜空間ボックスにしまう。
落とすといけないので アイリーンから預かった封筒もいっしょに入れた。
フライパンを熱して オリーブオイルをたらし、肉巻きを並べる。
塩コショウをかけ、肉巻きを焼いていく。
焼くときは巻き終わりを下にして 先に焼く。
こうすると 剥がれにくく、崩れず焼けるから。
「シズエさんは 寡黙そうな人ですね」
「出会った時は大変でしたよ」
「そうなんですか?」
「サクラさんみたいに すぐには信じてくれなくて」
あ、なんか、スミマセン
「二日ほど
話しかけ、食事を作り、説得し、二日後イシルの家に招いた。
「現世の家族の心配ばかりしていました。なので、早く良くなり、一日でも早く戻れるように、と」
うちとけてしまえば とても優しい 気さくな人で、イシルに 色んなことを教えてくれた と。
「奥方を とても愛していました」
「奥さん、可愛い人でしたよ」
「毎日 会いたいと言っていましたからね」
「今でも 手を繋いで歩くそうです」
イシルが ふっ と笑う
「今なら わかります」
「え?」
「毎日会いたいと思うのも、手を繋いで歩く気持ちも……」
肉巻きの焼けるいい匂いが立ち込める。
「シズエの言っていたことがわかります。
フライパンに醤油をひと回し。
甘辛味にしてもいいなぁ……
米がほしくなるけど。
醤油のこげる香ばしい匂いがする。
サクラも 幸せな気持ちで 笑い返した。
「僕は失礼して 部屋でいただきます」
色々思うところがあるのだろう。
今日は一人になりたいようだ。
「お豆腐だけでいいんですか?」
「はい」
そう言って イシルは 二階へ上がっていった。
「おっ!できたのか?」
ランが匂いをかぎつけてキッチンに入ってきた。
「肉だ!食おうぜ……あれ?イシルは?」
「部屋で食べるって」
「ふ~ん……」
なんだかんだ言って いないと気になるのね
「「いただきます」」
サクラは豆腐に箸をいれる。
少し硬い。
イシルのつくる豆腐ににてる。
当然か。
豆腐を味わうため まずは醤油をかけないでいただく。
「あむっ」
重い。
ずっしりつまってる。
そして、まったり、やわらかい。
「ん~」
舌の上でまったりくずれ、豆腐のほのかな甘みを感じる。
これを食べ、イシルは何を思うのか……
「何だよコレ、野菜じゃん!」
豆腐に浸ってると 隣でランが野菜に気づいたようだ。
いや、何個かは気づかず 一口でモリモリ食べたよね?
「騙された……さっきの仕返しだ」
「何言ってんの、ランのためだよ。巻くの面倒なんだから」
「フン」
「美味しいでしょ?」
「はぐっ、もぐっ」
結局食べるんじゃん
「イシル、おかわりー……あ」
サクラは笑いながら立ち上がり おかわりを焼きに行く。
『家族』
あり方はいろいろだ。
ランがキッチンに立つサクラに近づく。
腰に両手を滑らせると サクラの腹の前で組み
後ろからサクラの腰を抱き、体を密着させ……
「肉が足りないから……」
サクラの髪に顔を
「サクラのお肉をいただこうかな」
″すぱ――――ん″
「にゃうんっ!」
当然 結界ではじく。
「今日くらい静かにしててよ」
語尾にハートマークとかいらないから。
――――イシルに 静かな時間を。
◇◆◇◆◇
翌日
サクラはランの背に乗り イシルと共に あざみ野町を経由して ローズの街へ向かった。
「ひゃあああ!!」
最短距離 森の中を突っ切って ランは走る。
イシルが結界を張ってくれたので 枝や小石が当たることもなく、風に飛ばされることはない。
でも
五時間で着くって……
(新幹線の早さでですかぁ~~~!!?)
目が回る。
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