106話 貴族対策会議







シズエ殿のおからドーナツはおからと豆乳のみでできている。


″サクッ……もくっ″


揚げてあるドーナツは 外は固めにサクッと食感。

中はふんわり、空気を含んで しゅくっと柔らかい。

シフォンケーキのような食感。

でも、あんなにキメが細かいわけじゃない。

もっと 弾力がある。


「ん~」


女神(神の奥さん)が言うように 食べてる感がある。

くっしゅり歯応え。素材の 素朴な甘み。


「はくっ……んくっ」


もぐもぐと 幸せそうにドーナツを味わうサクラを イシルは愛しそうに見つめる。


「コホン、あー、空気をぶち壊して悪いが、どうすんだい?」


サンミが申し訳なさそうに イシルを現実に引き戻した。

イシルはサンミに向き直り、今日の貴族の男の事を話し出しす。


「今日のところは 隣の ハーフリングの村に行ってもらいました。多頭引きの馬車で来ていたので、暗くなる前に着くでしょう。ですが、これからも訪来者が増えるとなると 考えなくてはいけませんね」


隣のハーフリングの村は ドワーフの村のようになにかを造っているわけではない。

ただの農村だ。

だが、貴族がたまにやってくる。


貴族は 手先の器用な彼ら自身に用事があるのだ。

従者には触らせたくないをもって自らやってくる。

鍵開けだったり、修理だったり。


それと、もうひとつ。

小柄で身のこなしが軽く、素早いハーフリングは

相手に気づかれずに情報を収集することに長けている。

探偵業……浮気調査の依頼だ。


だから銀狼亭より少しな宿があるのだ。


「貴族を相手にできるようなヤツなんて この村にはあんたイシル以外いないよ」


あとはギルロスくらい。


「困りましたね……一人がなくはないんですが……」


イシルはチラリとサンミを見る。


「誰かいるのかい?」


「ええ。でも サンミは嫌がると思います」


「アタシの知ってるヤツかい?」


「はい……冒険者時代に」


サンミが首を捻る。


「今はローズの街で貴族を相手に商売をしています」


「そんな大物になりそうなヤツなんていたかなぁ……」


「ホルムの所のワインも売ろうと思っていたので、会いに行って来ます。誰か人を紹介してもらいますよ」


サンミに 後から文句を言わないように と 念押しし、

イシルは明日 ローズの街へ行くことになった。


(明日からイシルさんいないのか……)


ほっとしたような、サミシイような……

サクラはコーヒーをすする。


「では、明日からサクラさんはお休みということで」


「ぐふっ」


(あぶなっ!コーヒー吹き出すかと思った!)


「わかったよ」


(何?私、行く前提!?)


「いや、忙しいですし、働きますよ!」


サクラがあわてて口をはさむ。

イシルと二人で旅行なんて どんな試練だよ!!

阻止だ!阻止せねば!


「急ぎなら 私行かないほうが早く着くでしょうし……」


「大丈夫ですよ、僕が抱えて走りますから、三刻もすれば着きます」


イヤイヤイヤイヤ3時間も密着してたら昇天してしまうわ!!


「ローズの街まで三刻で着くなんて……アザミ野町の先なのに……」


アイリーンが独り言を呟く。


「行ってきなよ サクラ」


(ええっ!)


おっと!味方だと思っていたサンミのまさかのイシルへの援護射撃。

サクラはアイリーンに助けを求める視線を投げる。


「いいんじゃない?街へ行ったことないんでしょう」


ヘルプ要請は通じなかった!?

空気を先読み出来るアイリーンが!?


サクラは最後ノゾミをかけて ランを見る。


(いねぇし!!)


いつの間にいなくなった!?

食べるだけ食べていなくなった!自由すぎる……

ケモノめ、これだから猫ってヤツは……


「行きたくないですか?」


イシルがちょっと寂しそうに聞く。


(そんな顔されると……)


「いえ、行ってみたいデス」


サクラの抵抗むなしく ローズの街へは行くことになった。





◇◆◇◆◇





サクラとアイリーンは後片付け。

コーヒーカップを洗い 棚にしまう。


「サクラ」


アイリーンがサクラに話しかける。

珍しい、普通だ。

天使バージョンでも、ブラックでもない。


「お願いが……あるの」


アイリーンは真面目な顔も やっぱり可愛いな。


「ローズの街へ行くとき、アザミ野町通るでしょ」


アイリーンは確かアザミ野出身だ。


「家に、届けてほしいものがあるの」


「家に?いいよ、寄ってくれるようイシルさんに頼んでみるよ」


「本当?」


アイリーンは ふところから封筒を取り出す。


――――お金だった。


「私が、預かっていいの?」


「あんたにしか頼めないから」


お金を託すということは それだけ信用してくれているということだ。

もしかして、アイリーンがサクラにローズ行きを進めた理由も これかもしれない。


「必ず届けるよ」


サクラは 絶対アザミ野町に寄ってもらうと アイリーンに誓う。


「ありがとう……サクラ」


つくってないアイリーンのはにかみ。

控えめな感じのお礼。

のアイリーンは 普通の女の子。

家族思いの女の子。


「コロッケもおみやげに持っていこうか?」


「……うち 人数が多いから いいよ」


アイリーンが遠慮する


「兄弟いるんだったよね、喜ぶとおもうよ?」


「持っていくの大変じゃない。イシルはアンタを行くんでしょ?」


ぐっ……そこは触れないで……

心の準備が必要です。

般若心経憶えとくんだった。


「イシルさんの亜空間ボックスに入れられるからさ。私、作って持っていくよ。」


それじゃあ……と アイリーンが説得される。


「17人」


「へ?」


「兄弟は17人よ」


……大家族デスネ










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る