104話 商店街のお豆腐やさん







サクラは回転寿司屋を出る。


(イシルさんにも食べてもらいたいな)


和食好きなイシルは きっと寿司を気に入るだろう。

サイドメニューの茶碗蒸しとか好きそうだ。


(茶碗蒸し 今度つくってみよう)


次は 雑貨屋へむかう。

熱燗には徳利とっくりとお猪口ちょこだろう。

かたちにこだわるタイプです。はい。

ってことは、

それが最善だからだと思う。

最善ということは、一番美味しいということ!


パンパンのリュックと一升瓶三本をお供に

クリスマス模様で浮き足立つ町並みを駅へ向かって歩く。


昼間なのに街路樹に青い電飾がキラキラ光っている。

冬休みだからか、学生風のカップルが多くみられた。

寒さを理由にくっついてんなぁ……

腕を組んだり 肩を抱いたり、手繋ぎポケットしたり。


(一緒に歩けたら……)


ただ 並んで歩くだけで楽しい。

この雰囲気の中を。


クリスマスソングが流れる。

ショーウインドゥを眺めながら そんなことを思ってしまう。


――――誰と?


ケーキやさんの前を通る。

宝石のように飾られたケーキ達。

この時期ならではのブッシュドノエル

イチゴ盛り沢山生クリームの贅沢ケーキ

ドライフルーツのシュトーレン


(クリスマスケーキ美味しそう。甘いもの好きかな)


ノエルのチョコ派かな イチゴショート派?

それとも 和菓子の方が好きかな?


――――誰が?


ケーキやさんの隣は紳士服

戦うサラリーマン、企業戦士達の戦闘服。

スーツが似合う人はイイよね。

着こなせる人ステキ。

振るまいが美しいと なお、よし。


(あのコート 似合いそうだ……)


細身でシックなカシミヤのロングコート

腰がしぼられて軽いAラインをえがいている。

風をきって歩く姿は さぞかしカッコよかろう。

黒いコートははきっとあのキレイな金髪が栄えることだろう。

隣の革製もいいなぁ。

その隣の深いワインレッドも 意外と似合うかも。


――――誰に?


目指す雑貨屋はもうすぐだ。

駅ビルって便利よね。


(プレゼント 何にしようかな)


箸や湯呑みや徳利って、日用品ばっかりだったなぁ、

次は箸置きか?

たまには 装飾品とかにする?

でも、今使ってる髪紐は アイリーンの見立てでは竜のひげ。

うん、高そう。それを越えるものはムリ。

マフラー?使うかな……

ネクタイ?いやいや、もっと使わない。


「あ!」


そこは 時計店。

サクラが目を引かれたのは 懐中時計。

基盤の歯車が半分見えている 細工の美しい時計。


異世界にも 時計は あった。

ドワーフの村では 必要ないからみんなもっていないだけ。

朝7時、昼11時、15時に 夜19時に音楽が鳴るのだ。


(プレゼント、これなら……)


――――誰の?


「うわー!!頭ん中いてんのか!?」


さっきから 頭に浮かぶのは イシルのことばかり。


買ったけどね。

銀無垢の手巻き式懐中時計。

風化すると色合いもかわってくる。

蓋なしだが、背面に彫刻が入り、上品な仕上がり。

半分みえる歯車も目を楽しませる。


なんとかリュックに入った。

駅ビルにある雑貨屋で徳利とっくりとお猪口ちょこも買い、次へ。


サクラは女神(神の奥さん)に教えてもらった豆腐店へと向かった。





◇◆◇◆◇





駅ビルから 病院まで戻り、薬局を通過して 地元商店街へ入る。

昼時を過ぎたからか、そんなに賑わってはいなかった。

なんだかホッとする風景だ。


肉屋さんでは 美味しそうな惣菜がならぶ。

トンカツ、メンチ、コロッケ……


靴屋さん、金物屋さん、銭湯もあるのか。

あ、居酒屋さん店頭で焼き鳥焼いてる……


いいなぁ、こういう商店街。


コンビニ、歯医者、パン屋、豆腐屋……豆腐店!


「お豆腐屋さん、あった!」


お豆腐屋さんの店先には 小さなガラスケースがあり、

豆腐、がんも、揚げなどが値札つきでならべてある。


その前に 黒板があり、

「本日のおからドーナツ トロピカル140円 プレーン120円」

と 書いてあった。

なんだ?トロピカルって。

パイナップル、マンゴー入りか、なるほどトロピカル。

女神(神の奥さん)が言っていた豆腐店で間違いなさそうだ。


「……ん?」


サクラは看板を見る。

店の名前だ。


『師津ゑ豆腐店』


コレハナンテヨムンデスカ?


「シズエ豆腐店?」


シズエさん?


シズエって……名字!?


一般的に 社会人になると、名乗るときに 下の名前では名乗らない。

初対面なら尚更でしょ。


サクラだってそうだ。

だってなのだから。

下の名前なんて、呼ばれたら恥ずかしくて悶え死ぬ。


「てことは、ここにシズエさんが?」


神の御住まい(病院)が近いのだ。ありえる。


店先には おじいちゃんと……おばあちゃん

七年前、当時シズエさんは58歳。

てことは、あの人がシズエさん……


シズエさんは 吉永小○合ではなく、

八○草薫似の ちっちゃくて、かわいらしい人だった。

守ってあげたくなるような人。


ちらり、おじいさんを見る。

じいちゃんカッコいいな!奥○瑛二か!?

無口で、頑固な職人さんて感じ。

シズエさんは この人のために糖質制限頑張って現世こっちに帰ってきたんだ……


「あらあら、すごい荷物ね」


シズエさんは声も可愛らしい。


「日本酒?お正月用かしら」


「はい」


異世界正月ありませんが。


シズエがふふっとわらう。


「八海山ね」


ぴくり、と 奥○瑛二、こと、おじいさんが反応する。


もね、大好きなのよ、八海山。でも、体を壊してからちょっとしか呑めなくなっちゃってね」


「そうなんですか」


三本ももっててすみません。


「糖質制限ていうの?それをやっててね……」


ん?


「おからドーナツも甘いもの食べたいから作ったのよ。うちのドーナツは豆乳とおからだけで出来てるの」


んん?


「ラーメン食べたいって と麺まで作っちゃって。コンニャクでよ?」


シズエさんって……


「びっくりよね~」


おじいさん!!?


おい、と シズエ殿が奥さんに声をかける。

ややこしいな。


「あらあら、喋りすぎちゃったわね」


「あの、おからドーナツを20個ください。それと、お豆腐を一丁……」


「はーい」


奥さんが ドーナツを袋に入れるため下がる。

シズエ殿が 目の前でガラスケースから豆腐をとりだす。


サクラは思い切ってシズエ殿に声をかけた。


「あの、イシルさんのこと……」


ジロリ、シズエ殿がサクラを睨む。


「……八海山は 熱燗か?」


「え?」


シズエ殿は サクラがもつ徳利の紙袋をみている。


「はい」


「……そうか」


そう言って 奥へ行ってしまった。


「?」


入れ替わりに奥さんが戻ってきた。

おからドーナツ20個をもって。


「それじゃあ持てんだろう」


奥へ行ったシズエ殿が 大きな紙袋をもって現れた。


「貸せ」


サクラから徳利の箱を奪うと もってきた大きな紙袋に入れ、

豆腐とドーナツも入れてサクラに渡してくれた。

無愛想だけど、優しい人だな。


あれ?

中に茶筒が入ってる。


と飲んでくれ」


「……ありがとうございます」


「じいちゃん!鬼平はじまるよ、オレ代わるからさ」


シズエ殿は 孫に呼ばれて 店番を交代すると、奥へと消えていった。

これから観るんだな、鬼平。

交代した孫は 大きなシンクを洗い始めた。

サクラは奥さんに 代金を渡す。


「ごめんなさいね、愛想がなくて」


「いえ、助かりました。ありがとうございます」


「あんなだけど、未だに手をつないで歩いてくれるのよ」


アツアツですね!


「いいですね」


また来ます と、サクラは『師津ゑ豆腐店』を後にした。



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