89話 ブラックアイリーン
アイリーンは サクラと二人きりになったとたん、サクラに食って掛かった。
「この村では 人間の女が珍しいから
アイリーンは 椅子に ドカッと座ると悪態をつき始める。
「どこがいいのかしら、童顔だけど年増だし、デブだし、ぬけてそうだし……」
いや、あってます。わかってます。そのとおり。
「あんたが相手なら楽勝かと思ってた」
アイリーンは立ち上がり、サクラに寄ると、頬をふにっとつまむ。
「あ、あいりーん?」
「肌は、キレイね」
″パンッ!″
アイリーンが サクラの頬を叩く。
″ぴちゃっ″
「???」
冷たい。
「水分が足りてないのよ」
「は?」
″ぱん、ぱん……ぱんっ!″
アイリーンは更にサクラの頬を打つ。
「何……ですか?」
「ヘチマ水よ」
「ヘチマ?」
「女はね、成人を過ぎたら劣化するのよ。あんたはその肉と天然のアブラで張って、ツヤツヤに見えるけど 水分が足りてないわ」
アイリーンが叩き込んだヘチマ水は サクラの頬にすぐに馴染んでいった。
なんだ、この口の悪さと 行動のギャップは……
「あの……」
「なによ」
アイリーンが強い目でサクラを睨む。
「イシルさんのこと……」
「別に好きじゃないわよ」
「え?」
先読みされた。
じゃあ、さっきの態度は?
明らかに イシルの気を引く気満々でしたよね?
「狙ってたけどね」
アイリーンは再び椅子にすわると、綺麗な脚をくみなおし、肘をつく。
掌に顎を乗せ、高圧的な視線をサクラに向けた。
「アタシが好きなのはね、お金よ」
「お金……」
「あの人、イシル だっけ? はさ、警備隊に出資出来るくらい金もってるって事でしょ?それに、あの上着の刺繍、年代物ね……今あんな模様はないわ。しかも金糸を使ってる。髪紐も竜の髭よ。ありえない」
アイリーンは目利きのようだ。
「同じ金持ってんなら 見た目は悪いより良いほうがいいじゃない?一生一緒にいるんだから。でも、アレは無理ね。アタシには攻略できないわ。エルフなんて、何考えてるかわかんないし。やっぱ人間かな」
なんて
口は悪いが かえって
「警備隊長もいいわよね~
アイリーンてもしかして……
婚活女子!?
「その点、ラルゴは安定よね。フツメンだし、がっつり稼ぐことはないけど、安定は魅力ね。操作も簡単」
うおっ!ラルゴさん、意外なところで一押しデスヨ!
「コロッケ宣伝してるの見て思ったのよね。新しいものって魅力があるじゃない?だから、人が集まる。人が集まるなら出会いもある、てね」
アイリーンは先見の明もあるのかもしれない。
「二人とも そろそろいいかい?」
ミディーが呼びに来た。
「はーい、今いきますー」
アイリーンがハイトーンで答える。
素晴らしい変わり身の早さよ。
サクラが呼ばれてドアから出ようとしたら、グイッと後ろに引かれた。
″ぎゅうぅっ!″
「うおっ!?」
アイリーンが 後ろでなにやら手を動かしている。
「リボン、ほどけてる」
″きゅっ″
「……ありがとう」
「太いんだから ちゃんと
つん、と、アイリーンはサクラを越してでていった。
ブラックアイリーン……イイやつだな。
アイリーンに続いて 表に出ると
ミディーがコロッケを揚げていた。
そして何やら騒がしい。
スノーが声を張り上げている。
「ちゃんと並んでくださいぃ~数はありますから、大丈夫ですよ~」
カウンター前はいつもより人が多くて大混雑。
まだ開店前ですがね。
「いてぇな、押すなよ」
「押してねぇよ!」
「俺が先に来てたんだぞ!!」
「なんだよ、割り込むなよ」
小競り合いもしてる。
スノーとサミーが対応しているが、らちが明かない。
「ギルロスさん、呼んできます」
リズが 組合会館へ行こうとする。
″グルアアァァァァ…………!!″
突然の獣の咆哮。
場が シン、と鎮まった。
″フスーッ、フスーッ……″
「「え?」」
何の前触れもなく現れた魔獣。
三メートルはあるかと思われるイノシシの獣は
鋭い牙と角をもち、前肢で、ガサッと地面をかき、
スノーの隣で 戦闘体制で威嚇していた。
「フ、フェルス?」
誰かが呟く。
「あはっ♪ やっと静かになりましたねぇ デュークですぅ、かわいいでしょ?」
場違いなほど可愛らしく スノーが笑った。
可愛い顔してなんてもの
その後は ひたすらコロッケバーガー作り。
ハンバーガーも、チキンバーガーも、ホットドッグもあったのに、ひたすらにコロッケ。
番号札も必要ないほど、すぐ受け渡す。
一種類しか出ないんだもん。
ミディーはひたすらコロッケを揚げる。
コロッケは180℃の油で揚げるのだが、忙しいからと大量に入れすぎないよう注意だ。
油の温度が下がってしまう。
そして、入れたらなるべく触らない。
ひっくり返す一回を見極めよう!
パンクしちゃうからね。
一番、簡単な解決策はタネを冷やしておくことだ。
サクラはパンにカラシバターをぬり 包装紙の上に措く。
キャベツを盛り、マヨネーズをかけ、油の切れたコロッケを置き、ソースをかけたら
バンズは上下がわかりやすいよう、上にゴマをふって焼いてもらった。
何個も並べて作る。
今日は番号札いらないので、やり方を急遽変更。
アイリーンとリズとスノーで接客対応。
サミーは出来上がったコロッケバーガーを 三人の手元にもっていく。
単品コロッケもサミーが担当する。
スノーの獣魔 デュークのお陰で 客がケンカすることもなく、スムーズに流れる。
接客業としては どうかと思うが……
やはり朝10時開店時間が一番混雑した。
朝一番はもっと作りおきが必要だな。メモメモ。
コロッケ目当ての客は この村に滞在するわけではないので、小一時間程で目まぐるしさから解放された。
はじめのうちはコロッケだけが出ていたが、落ち着いてくると ハンバーガーやチキンバーガー、ホットドッグも売れだした。
「コロッケ、足りますかね」
「500個、ストックあったんだけどね」
今朝作った分は捌けてしまい、冷凍保存してあったのもかなり減っている。
コロッケは、単品でも5個とか10個とか買っていく人がいる。
冒険者なんかは、バーガー一人で2、3個食べる。
アメリカンサイズなのに……
「もっと作ってストックしておかないとダメですね」
これからが本番だ。
ラルゴの宣伝効果がどうでるか……
「マーサのとこにもパン頼まないとね」
サミーが今後の方針をかためていく。
「それにしても、アイリーン、働き慣れてるわね、町でも何かやってたの?」
「ええ。色々やったんですけど、続かなくて……」
「そうなの?意外ね」
「町は大変なんだねぇ」
サミーとミディーが合いの手を入れた。
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