88話 本日開店バーガーウルフ
今日は 銀狼亭二号店 バーガーウルフの開店日。
朝からサンミ達は仕込みに追われている。
サクラは接客のため、仕込みには参加せず、直接新店舗に来ていた。
入り口前広場には 既に いつもより多めに人が集まっている。
そんな中、バーガーウルフ休憩室に サクラの叫びが響き渡った。
「いやーっ!駄目!無理!不可!断固拒否――!!」
「ほ~ら、サクラ わがまま言わないの」
子供に言い聞かせるようなサミーのやさしい声。
何かというと、サクラは
サミーがサクラに迫る。
″ガシッ″
「え?」
リズとスノーが 両サイドからサクラの腕をがっちりホールド。
「やめて……ヤメテよぅ……」
サクラは青い顔で イヤイヤと首を横に振る。
「すぐに終わるから じっとしてなさい」
サミーがサクラの服を脱がせにかかる。
ドワーフ三人に押さえられたら 逃げられる筈もなく、
サクラは制服に着替えさせられた。
「あら、似合うじゃない♪」
どうしてこうなった?
提案したのはスポーティーな制服だった。
キャップがいいねって ミディーも言ってたじゃないか。
それが……
なんでヘッドドレス!?
なんで……
なんでメイド 服なのぉ――――!!?
クラシックタイプならまだしも、ゴスロリってますね!?
「今日はあたしの紅を貸してあげる」
サミーが サクラの唇にキュキュッ と、ピンクのぷっくりローズを塗る。
ピンクは ハードル高いッつーの!
「髪も巻いてあげるからね♪」
魔法で熱をくわえた櫛で サクラの髪を くるん、と、ゆるふわボブにしていく。
……完全に遊ばれてる。
ドワーフはがっしり体型だが、それはサクラとは違い、もっと肉感的なものだ。
出るとこは出ていて、引き締まっている。
むちむちで 可愛色っぽい。
メイド服もお似合いだ。
それに引き換えサクラが着たら
イイ歳をして着ることになるとは……御愁傷様デス。
リズ……メイド服作製 クオリティ高すぎデショ
ニーハイ エナメル靴て、もう職人ですね。
リズもスノーも萌え萌えですよ。
サミーとミディーは色っぽいなぁ……
ぐふっ、目の保養。
あ、昨日の ピンクの髪の……アイリーンだ。
すげー似合うわ メイド服。
彼女はしばらくこの村で働くらしく、サンミのところに住み込んでいる。
サミーが使っていた部屋に、だ。
流石に男二人いる組合会館には 泊められないので。
サミーが アイリーンにも ピンクのぷっくりローズを塗ってあげる。
可愛すぎる!きゅるんっ て感じ!
目があったので 笑いかけたら反らされた。
あれ?キモかったかな……
「じゃあ、あたしとミディーで調理するから、リズが受け付けて アイリーンが受け渡しね。スノーは外で客の整理。番号管理ね」
「「はーい」」
「私は?」
「サクラは アドバイザー。大変そうな所のフォローに入って。何が起こるかわからないから」
「はい」
てか、私も初めてですが、フォローされないようがんばります。
「あの、サクラです。昨日会いましたよね?」
アイリーンに挨拶する。
「……アイリーンです」
緊張してるのかな?
アイリーンの声がかたい。表情が強ばっている。
キモかろうが何かろうが、我慢してもらおう。仕事は仕事。
″コン、コン″
「はーい」
控え目にドアがノックされ、サミーが開けるとイシルが立っていた。
「悲鳴が聞こえましたが、大丈夫ですか?」
イシルはドアを開け、フリーズする。
正確には
「あら、イシルさん」
「「おはようございます!」」
リズとスノーがイシルに駆け寄る。
「どうですか?私が作ったんですよ!制服。完全防水、火耐性、裂傷耐性です!」
リズ、これは戦闘服ですか?
「結構動きやすいんですぅ」
スノーが くるっと回ってみせる。
スカートと白いフリフリエプロンが、ヒラリと舞う。
「大変可愛らしいですね」
「でしょ?」
アイリーンがパタパタと三人に寄っていく。
「あの、昨日はありがとうございました、イシルさん///」
「ああ、君も働く事になったんですね」
「はい///」
緊張はどこへ行ったんだアイリーンよ……
モジモジと頬をピンクにしてはにかむアイリーンは まさに天使!
口紅だけなのに、天然頬紅ですか!?
「似合い、ますか?」
イシルに向かって 恥ずかしそうにキラースマイル。
「はい、
イシルは アイリーンをかわすと サクラへと詰め寄る。
「あの、イシルさん……」
サクラはたじろぎ、一歩さがる。
イシルはサクラのゆるふわの髪に そっと触れた。
サクラの唇を見つめる。
村では口紅禁止……だったな
目が……目が半目になってますよイシルさん!
ご機嫌ナナメですか!?
「――サミア」
イシルがサミーに問う。
なんだかその場に緊張が走る。
「サクラさんは……」
ごくり、全員が イシルの言葉を待つ。
「今日 接客しないですよね?」
その言い方は 質問ではなく 強制ですね、イシルさん。
「……はい」
「そうですか。安心しました」
全員詰めていた息を吐く。
「僕は ギルロスと話があるので 組合会館にいます。何かあったら呼んでください」
「はい」
「
イシルはサミーとミディーに 念押しして出ていった。
「
ミディーが苦笑する。
「ふふっ、溺愛ね。素敵♪ じゃあ、サクラは調理担当ね。フォローは私がするわ」
サクラはサミーとシフトチェンジした。
「サクラ、アイリーンに番号札の説明してくれる?」
そう言って サミー、ミディ、リズ、スノーは 表の準備に行ってしまった。
ぽつん、と 二人取り残される。
「じゃあ……番号札の説明、するね」
「……なんでアンタなのよ」
「へ?」
「私のほうが若くて 可愛いのに、なんでアンタなの?」
アイリーン?
二人きりになったとたん ブラックアイリーンが出現した。
◇◆◇◆◇
組合会館でイシルとギルロスが話をしている。
ラルゴはモルガンのところにピューラーの開発手伝いに行かされた。
要は追い出されたのだ。
「わざわざ人を呼んだんですか?僕はこの辺の冒険者をスカウトするのかと思ってました」
警備隊について、ギルロスが 昔の仲間に連絡をとったと言ったのだ。
「オレもそのつもりだったんだが、教育するにはある程度出来る人間が必要だろ?」
「ちゃんと考えてくれてるんですね、有難い」
「オレがずっと居る訳じゃないからな。基盤はしっかりつくらないと。元々
「ランディアに呪いをかけた人 ですか……」
「アイツの母親は変わり者だったよ」
ランの母親という人は町へ出掛けては 孤児の面倒をみてまわっていたという。
ランの警護についていたのは 貴族出身のエリートではなく、そういう孤児やならず者の 叩き上げの集まりだったそうだ。
だから 第三王子失踪から 城に残るものはなく、今は解散し、散り散りに暮らしている。
王妃についていった者もいる。
「アイツの母親は今も町を渡り歩き 人助けをしてるのさ」
だからランは 色んな町で情報を集め 探し回っていた と。
「……知っているんですね、居場所を」
「まあな」
でもそれは ラン自身が辿り着かねば意味がないのだ。
「あと、昨日の三人だが、リベラはオーガの村に戻った。後日警備隊に入る予定だ。シャナはまだ回復中。アイリーンだが……」
ギルロスは昨日のアイリーンの様子をイシルに説明する。
「何やら訳ありのようだが、まあ、サンミのとこにいるんだ。下手なことは出来んだろう。暫く様子をみるさ」
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