78話 今夜は飲み会?







「……で?なんで僕にその話をするんですか?」


「サクラには口止めされたが、イシルに言うなとは言われなかったからな」


ギルロスがニヤリと笑う。


「だって、保護者だろ?の」


夜の銀狼亭。

夜は立ち飲み屋 bar形式。

イシルとギルロスは二人で呑んでいた。


防音サイレントまでかけさせて何かと思えば……」


イシルはサイレントを解除する。

とたんにまわりの喧騒が耳に入る。

逆もまたしかり。


今日はやけに女性客が多いな


が世話になってんだ。挨拶くらいしとかないとな」


なんの事はない。イシルは体よく巻き込まれたのだ。


「で?サクラさんに手を出したって、何ですか」


「あれ、そこに食いつく?結構波瀾万丈な 坊っちゃんの生い立ちを語ったと思うが……」


イシルは ランディアに初めて出会った時、

瞳の色を見て もしや……とは思っていたのだ。

やはりギルサリオの血縁だったか。


「僕には関係ありませんから」


「ばっさりだな……」


ぶった斬り。


サクラに手を出したんですか?」


イシルが牽制する。


「出してねーよ」


ランにはばまれたから。ウソじゃない。


「だいぶ警戒されてたしな。イシルが家主だったとはねぇ」


「僕の嫁です」


「まだだろ?旦那はいないって言ってたぜ?」


ギルロスが反論した。

イシルのまとう空気に けんが増す。


「確か……手合わせをご希望でしたよね」


「おっ、ヤるか?」


ギルロスが 嬉々として それをうける。


″ダンッ″


「ケンカなら外でしとくれよ」


目の前に料理が置かれ、サンミが会話に割って入る。

サイレントをかけていたせいで、番号を呼ばれたのに気づかず、サンミが料理を持ってきたのだ。


「選ぶのはサクラだろ」


サンミは呆れたように言う。


「選択肢は少ないほうがいいでしょう」


「同感だね」


ゆらりとお互い 殺気を含んだ空気を醸し出す。


「随分気が合うようだねぇ、あんたらが付き合えば?」


「……サンミ」


「冗談だろ」


「その方がうちは儲かるからさ」


サンミは 番号札を受けとると 厨房へ戻って行った。

今日は店内に人が入りきれなくて 表にをおいてテーブルがわりにし、男達は外で飲んでる。


「では、本人に聞きましょう」


イシルは 席を立つと イシル達から死角になっている席へと向かう。

イシルが歩くと 道ができる……すごいな。


″ひょいっ″


「わっ!」

「何だよ!!」


奥の客に隠れるように紛れていた、

フードを目深にかぶった一人と一匹。


イシルは二人を引っ張り出す。

フードをとった。

とたん、まわりが騒ぐ。


……サクラとランだった。

サクラはおいといて、ランはやはり目を引くようだ。


「何してるんですか?こんな所で」


先に帰したはずだ。


「いや、オレも酒呑みたいし……」

「ワタシも……」


サクラは イシルとギルロスが絡むのを見たいだけ。

本日 めずらしい女性客と目的は同じ。


イシルはずるずると二人を引っぱりだすと ギルロスのとこまで戻る。


眩しすぎやしませんか?この席……


落ち着いたオトナの魅力溢れるエルフ、

ワイルドで危険な匂いのする戦士、

冷たい色気漂うホスト風男子、


イケメンぞろい。大変居づらい。

サクラはまわりの羨望の眼差しに針のむしろだ。


「で?サクラさんはギルロスに 何をされたんですか?」


「え?」


説教モード?今日は頑張ったんだけどな。

警戒もしたし、危機感ももってたよ?


「蜂を追い払ってもらいました……よ?」


サクラは手出しされたことすらわかっていなかった。


「そう、ですか……」


「でも、びっくりしました。ギルロスさんの探し人がランだったなんて……あれ?本当はランて名前じゃないんですよね?」


ギルロスとランがフリーズする。

ノープランのようだ。


「今はランだから ランでいいんですよ、サクラさん」


答えられない二人のかわりに、早速イシルのフォローが入る。


「ギルロスはランに会えたので、一緒にこの村にいるそうです」


イシルに任せておけば うまく説明してくれるだろう。

巻き込んで正解だったと ギルロスはほくそ笑む。


「ギルロスはこの村で警備隊長をやってくれるんですよ」


「は?」


ギルロスがイシルを見る。

そんな話しはしていない。


「これから 人を集め、警備隊を結成して、治安を守ってくれます」


「おま、、何を……」


「ああ、会館の部屋が空いてますからね。そこに住めばいいですね」


イシルはギルロスに 同意を求める笑顔をむける。

目の奥は笑ってないが。


「村長には僕から話しておきます。ああ、屯所もつくらないといけませんねぇ……」


イシルが目を細め、有無を言わさぬ笑みを浮かべる。

同意は必要ないようだ。


「これで人買いに襲われる心配もなくなりましたよ サクラさん」


イシルが……わらってる。

ギルロスをみつめたまま。


「ギルロスは強いので どんな魔獣がきても大丈夫ですよ」


イシルがわらう。

口の端をあげて、たのしそうに。


なんて……


なんて底意地の悪い顔するんだ!!


イシルはサクラに向き直り、うってかわって極上の笑みをむける。


「サクラさん、何か食べますよね?ちょっと待っててください」


イシルは席を立つと ギルロスの肩に手を起き、耳に口を寄せた。

周りが キャッ!と黄色く息をのむ。


(僕をで使おうなんて甘いですよ 800年前に出直してきなさい)


そう呟き、厨房へ向かう。


「800年前……国もできてねぇ! くそっ、められた!」


そんなギルロスに向かって ランが 口だけ動かした


(バーカ)


こうなったら道連れだ……

もともとは 王子のせい。


「よう、ラン……お前も入るんだぞ、


「はぁ?」



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