77話 ギルロスの尋ね人







ギルロスに体当たりしてきたのは なんとも可愛らしい 黒い子猫だった。


子猫は サクラとギルロスの間に立ち、

フーッと ギルロスを威嚇する。


「小さいわりには 重い蹴りだな……魔獣か」


蒼い瞳が ギルロスを睨む


「ラン!?」


サクラが叫ぶ。


「サクラが召喚よんだしたのか?」


召喚よんでしてません」


「サクラの従魔じゃないのか?今、名前を……」


「私の従魔ですが……勝手に来たんです」


勝手に?従魔が?意思をもって?

有り得ないだろう!?

そんな高位な魔獣を従えられる程サクラの魔力は高くない。

心を通わせた?


ギルロスは子猫を見据える。

この子猫が 高位魔獣?


――――蒼い瞳


子猫は、目を細めると プイッと 会館広場から出ていく。


「待て!」


ギルロスは 子猫を追う


子猫は ぴょんぴょんと跳ねながら入口広場をぬけ

村の外に逃げる。

ギルロスも 後を追って 村から出た。


あの澄んだ蒼い瞳には見覚えがある。


まさか――――





◇◆◇◆◇





サン・ダウル王国


勇者ギルサリオが 魔王を倒し 800年程前に建国。

歴史は浅いが、平和で豊かで住み心地のいい国だ。


しかし、困ったことに、この国の王は 代々放蕩者ほうとうものばかり。

しょっちゅう国をあけ、冒険三昧、しかも女好き。

逆にいえば、王がふらふらしてても揺るがない国 というのをアピールできているとも言える。


この国にはここ数年 王が不在である。

冒険三昧の末、旅立たれました。遠いお空の彼方に。

幻の獣 ネッシーだか、ヨッシーだかを追い求めてそのまま。

本望でしょう。


国の運営には問題なかった。


元女王陛下おばあさまがいらっしゃるから。


第一王子 メルリウス

第二王子 エドアルド


この二人に未来が託されている。

第一王子は生まれつき体が弱く、国から出られない。

素晴らしい頭脳の持ち主で、次期王第一候補。


第二王子は剣の達人。彼がいれば どんな敵が攻めてこようが ゆらぐことはないだろう。 次期王第二候補。


代々の王たちのように ずばぬけたカリスマ性はないが、放蕩者ではなかったし、王子たちは仲が良い。

母は違えど、二人で支えあい、よい国を築いていくことだろう。


しかし、困ったことに、まわりのが 勝手に小競り合いしているのだ。

第一王子の病弱さは 王にむかない、と。


実はこの国には もう一人 母の違う王子がいた。

彼の母親は腕の良い魔術師で、第一王子の主治医であった。

第三王子。彼は父王の性質を一番受け継いでいた。

10歳にも満たない頃に冒険三昧、ナンパし放題。

父王譲りのカリスマ性で皆を魅了した。


手を焼いた母親は、自らの息子に呪いをかけ

黒い豹に変えてしまった……

そして 母親自信も 行方を眩ましたという。

今は どこで 何をしているのやら……


――――サン・ダウル王国


王家の者は 代々 皆 澄んだ蒼い瞳をしているという。




◇◆◇◆◇




人気ひとけのない林の中まで来ると ランは 人型になる。


「久しぶり、ギルロス」


自分を探しているギルロスに声をかける。

ギルロスは 信じられないという顔をして 口を開こうとする。


「名前は呼ぶなよ 呪われるぞ」


呼んではいけない名前……

ギルロスは ぐっとのみこむ。


「ずいぶんでかくなったな、


こんな情報も娼館もない村にいたとは……


「豹と人型をたよりに探してたが、まさか猫とはね」


「なんか用?」


「メルリウスの病状があまりよくない」


「エドアルドがいるだろう」


「エドアルド一人じゃ無理だ」


「脳筋バカだからな。貴族の思うままさ」


「……言いすぎだ。 一応、兄上だろ?」


ランは二人の兄が嫌いではない。

むしろ好ましい。幼い頃の記憶だが。


「まあいい。オレの仕事は の無事が確認できれば良いだけだ」


今も、昔も……


はヤメロ……相変わらず不遜な態度だな」


監視がついているのは知っていた。

随分昔にまいて もう探すのは諦めてくれたかと思っていたのに。


「何故 従魔なんかになってる」


ランは答えず、質問に質問で返す。


「お前こそ なんでサクラに手を出してる」


ギルロスは驚く

自分の意思で従魔になったのか!?

弱味でも握られてるのかと思っていた。


「お前がサクラに手出ししなけりゃ バレなかったのに」


見過ごせないほど思い入れがあるというのか。

たしかに、サクラにはなにかある。

ギルロス自身も身を以て体感した。


「男が女に手を出す理由は 一つしかないだろう?」


「気に入らねーな」


ランは知らない。


呪いをかけられた を。


ランの母親は 王権争いから ランを遠ざけるために わざわざ皆の前で呪いをかけたのだ。


獣となった王子は 王にはなれない。


ランの母親は ギルロス達に頼む。


呪いをこの子が自分で解くまで 見守っていてほしい。

手出しは無用。何があっても助けてはならない。

死んだらそこまでの人間だったということだ。

堕落してしまうのならそれでもいい。

底辺を知らぬ者は 頂点には立てない。


この子に王の資質があるのなら、

きっと自分で呪いを解くだろう。

自分の身を守れるだろう。


その日まで、ただ、見守れ と。


それは難しい事だった。

監視する事がではない。

ということが 。


窃盗、物乞い、詐欺、ケンカ、女遊び……

娼館に入り浸り、堕落していくのを

手助けも 叱ることも、導くことも許されず

ただ見ているということが。


結局、ギルロスが任務を交代した後に 行方がわからなくなってしまったのだが……


ギルロスはにんまり笑う。


王子の雰囲気が 以前と違う。

随分……丸くなったな

サクラのせいか?


「この村から……いや、サクラから離れる気はないんだろう?」


「…………」


これで監視がしやすくなった。


「丁度いい。オレものんびりできるな」


「帰れよ!!」


「サクラに話してもいいんだぜ?」


「……サクラには 言うな」


「交渉成立、だな」






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