76話 76. side ギルロス (episode75)
オレは
シャボンの中にいた女……
不思議な料理をつくる女……
目当ての 女は 会館奥の スピュロの木の上にいた。
なんであんなところに?
女は枝を渡り スピュロの実に手をのばす。
「何やってんだアンタ」
オレは 女に 声をかける。
「うひゃっ!」
驚いた女が、枝にしがみつく。悪いことしたな。
「あんた、さっき銀狼亭にいただろ?」
「はい」
「とりあえず降りてこいよ」
「えー……いやです?」
「何で疑問形なんだ?その実がほしいのか?」
変わった 女だな
「オレが取ってやる。危ないから降りろ」
″ぶーん″
「あ、、」
オレは女に蜂が寄ってきたのに気づいた。
「え、、」
女も蜂に気づく。
「うひゃあ!?」
危ない!
女は驚いて 掴んでいた枝を放してしまった。
ズルッと、足が滑り、体が放り出される。
″ぽすん″
オレは 柔らかい女の体を受け止める。
甘い香りのする女だ。
「アンタ、名前は?」
何処かで会ったか?
オレはこの女を知っている……
見たことはないが、オレの身体が そう言っている。
「サクラ、です」
聞いたことない名前だ。やはり知らない。
オレは一度見た顔と名前は忘れない。
……名前を呼んでみる。
「サクラ……」
花の名前だ。
名前を呼ばれたサクラは思考が停止したようにフリーズしている。
「サクラ……いい名前だな」
「下ろしてもらってヨロシイデしょうか……」
緊張してるのか、サクラのしゃべりかたが変だ。
オレは サクラをおろす。
サクラがギルロスからさっと離れた。
オレは心の中で苦笑する。
こんなにあからさまに警戒されたのは初めてだ。
「オレはギルロス。人間の女なんて、珍しいな」
「よく言われます」
サクラの声が硬い。
母からはぐれた子猫のようで、保護したくなる。
「サクラ」
オレはサクラが怖がらないよう
ささやくように、優しく名前をよんだ。
「はい」
緊張した返事が帰って来た。まいったな。
自慢じゃないが、この言い方でなびかなかった女はいない。
オレの顔が怖いのか?
「さっきのポップコーン、作ってほしいんだが……」
「ポップコーン、ですか?」
距離を縮めるため、オレは自分のことを話す。
人は知らない者に警戒する。
誠意をもって接すれば 相手はわかってくれる。
「オレは人を探しながら旅をしてるんだが、依頼主がいてな、体が弱いんで、自分じゃ国から出られないんだ。オレの旅の話しと旨い食いもんを待ってる」
サクラの心が動いている……なんてわかりやすいんだ。
心配になる。大丈夫なのか?こんなんで。
「コロッケをいたく気に入ってるから、しばらくこの村にいることにしたんだ。警備も兼ねて」
ちょっと嬉しそうだ。
コロッケもきっと サクラが作ったのだろう。
まったく、素直というか、無防備というか……
しかし、こんなに心の声が顔にでては すぐに騙されるぞ。
「それで、この村にいる間、サクラに何か作ってほしい。だめか?」
サクラが迷っている。
「家の人に聞いてみないと……」
「ああ、旦那がいるのか」
オレは、安心と落胆が同時に沸き起こるという、不思議な感覚にとらわれた。
サクラを守る男が既にいるという安心と
それが自分ではないという 少し残念に思う気持ちが……
「へ?」
サクラがボンと赤くなる。
「ちちちち違います!違いますよ!あの、居候シテルので、勝手にでられないんです!」
旦那じゃ……ないんだ
「そうか、じゃあ家主に聞いてみてくれ」
「……ハイ」
まったくおかしな女だ。
結局断りきれないんだな。人が良すぎる。
「あんた、
オレはスピュロの実を指差す。
「ひとつでいいのか?」
「はい」
風魔法で 実をひとつ落とすと、サクラに渡した。
「食うのか?
「食べられないんですか?」
「食えるよ」
サクラがスピュロの実をむく。
本当に 食うのか?
″あむっ″
……食った。
「ん?ん″――――!!」
サクラが顔をしかめる。
オレはニヤニヤしてしまう。
「うまいか?」
「しっぶ――――い!!」
あっはっは と、耐えられず大笑いしてしまった。
「渋いじゃないですか!!」
「だから聞いたろ?食うのかって」
本当に知らない。スピュロの実を。
「
スピュロはどこにでもある木だ。
面白い女……だけど、ありえない。
サクラは何者だ?
「サクラは、どっから来たんだ?」
サクラがまた警戒する。
ちっ、折角近づいたのに……
「あ、あっち?」
サクラは組合会館を指差す。
「なんだ、それ……まあ、いいや」
そのうちわかるだろう。
はじめから追い詰めることなはい。
「ギルロスさんは、人を探してるんですよね?」
聞かれたくないのか、サクラが話を変えてきた。
ここはのっかっておく。
「ああ。だが、この村にはいないだろうな……娼館に入り浸ってるようなヤツだから」
「娼館……」
そろそろ行くか。
この村にいるなら また会える。
楽しみができたな。
「じゃ、オレは見回り行ってくっかな」
オレは会館入口へと踵をかえす。
「警備ですか?」
「おう」
「『
″ドッ……クンッ″
なんだ……?
体が熱い。
鼓動が早い。
胸が高まる。
皮膚がビリビリと痺れる。
血が……身体中をかけめぐる……
「くださ……」
オレは無意識にサクラを掴む。
自分の腕の中に
――――捕らえる。
「ひゃあっ!!」
これは なんだ?
「あの、ギルロス、さん……」
放したく ない
「蜂が……いる」
身体が サクラを 欲している。
「蜂?」
これが 何なのか……
「ああ……危ないから動くな」
キスでもしてみれば わかるか?
オレは サクラの頬を大きな右手で包み 上を向かせる。
「サクラ……」
サクラの 半開きの口に 唇を寄せ――――
「サクラ」
噛みつくように キスを――――
″どすんっ!″
「うぉっ!?」
その瞬間、横から何かが飛んできた。
「なんだ!?」
見ると、黒い子猫が 威嚇しながら ギルロスを睨んでいた。
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