75話 イケボですねギルロスさん






その頃サクラは 会館でブラブラ。


会館周りを散策してみる。

会館の隣に倉庫。倉庫の奥に 大きな木がある。


枇杷ビワの木?くすのき?」


太い幹はくすのきのようであるが、

葉はビワの葉のように大きい。

そして何より ビワの実が生っている。


「冬に、ビワ?」


楠は巨木である。

そのたたずまいは

なんとも登ってみたい衝動にかられる。

いや、ビワ、食べたいだけだ。えへ。


サクラは幹に手をかける。

丁度いいところにがあり、足を引っかけ、グイッ と力を入れ踏み込むと、上の枝に手を伸ばす。


″ヒョイッ″


子供の頃を思い出す。今日は童心に返る日だなぁ……


″ヒョイ、ヒョイッ″


意外と簡単に登れた。


「おお~」


丁度二階の窓から 眺めているくらいの高さだが、

木々の間から見える景色は また 違ったおもむきがある。


会館の裏の方は一の道。

たしか、トウモロコシ畑と、奥に葡萄畑だったかな。

スノーが好きだと言った道。

今は冬取りトウモロコシの収穫時期で、緑の草原が広がっている。


「いい眺め~キレイだなぁ……」


風に吹かれて 緑の波がたっていた。


酒好きのドワーフが好んで飲むのは、このトウモロコシのお酒。

強いバーボン。ウイスキーだ。

蒸留酒であるウィスキー、ブランデー、ウォッカなどは糖質がゼロ。

あんまり得意じゃないからのまないけど。


奥の葡萄畑では ワインもつくっている。


「ワイン……のみたいなぁ」


糖質は赤ワイン1杯で1.5g、白ワインで2.0gと、意外にも低い。

おつまみさえ考えれば、のんでもかまわない。ほどほどに。


枝の先に ビワの実が生っている。


「あれなら取れそうだ」


サクラはビワを物色する。

登ってきた側の枝の先の実に目をつけた。


サクラは枝を渡り ビワの実に手をのばし――――


「何やってんだアンタ」


「うひゃっ!」


不意に下から 良い声がとんできた。

びっくりして 枝にしがみつく。

見ると、真っ赤な髪をした男が サクラを見上げていた。


あれがウワサの赤髪戦士ギルロス……

確かにカッコイイ。イシルと並んだら絵になる。

絡んだらもっと絵になる……ぐふっ(←鼻血)


「あんた、さっき銀狼亭にいただろ?」


「はい」


「とりあえず降りてこいよ」


「えー……」


『知らない人には近寄らない』


イシルの言葉が思い出される。


「いやです?」


「何で疑問形なんだ?その実がほしいのか?」


それもあります


「オレが取ってやる。危ないから降りろ」


″ぶーん″


「あ、、」


ギルロスが蜂に気づく。


″ぶーん″


「え、、」


サクラも蜂に気づく。


「うひゃあ!?」


サクラは驚いて 掴んでいた枝を放してしまった。

ズルッと、足が滑り、体が放り出される。


″ぽすん″


体に衝撃はなく……

ガッチリとした腕に支えられ……

目の前には 厚い胸板


「だから危ないって言ったろ」


そして よく響く 低いイケボイケメンボイス……

ギルロスに抱き抱えられていた。


やらかした……リズとスノーには言えない。


「アンタ、名前は?」


すべての息に声がのってますね、声優ですか?

マイクのり良さそうですよ、圧縮しても消えませんね、その声なら。


「サクラ、です」


「サクラ……」


うわーん!そんないい声で名前を呼ぶなー!


「サクラ」


間近でイケボで連呼しないでー!!

ゾクゾクする……

クラクラする……


「いい名前だな」


このままだと気絶する……


「下ろしてもらってヨロシイデしょうか……」


なみだがでちゃう……


サクラは 下ろしてもらうと、ギルロスから距離をとる。


『もっと、警戒心をもって』


おぼえてますとも、耳ギョーザ。


「オレはギルロス。人間の女なんて、珍しいな」


「よく言われます」


二人目ですが。


「サクラ」


「はい」


距離をとっても 破壊力抜群いい声デスネ。

コツ振動デスカ、骨に響きます。


「さっきのポップコーン、作ってほしいんだが……」


「ポップコーン、ですか?」


何故知っている?あ、サンミさんに教えたんだった。出したのかな。


「オレは人を探しながら旅をしてるんだが、依頼主がいてな、体が弱いんで、自分じゃ国から出られないんだ。オレの旅の話しと旨い食いもんを待ってる」


気の毒だな……


「コロッケをいたく気に入ってるから、しばらくこの村にいることにしたんだ。警備も兼ねて」


コロッケ気に入ってもらえて ちょっと誇らしい。


「それで、この村にいる間、サクラに何か作ってほしい。」


依頼主に送るんだ、ポップコーン。

好い人だな、ギルロスさん。


「だめか?」


作ってあげたい……自分に出来る範囲なら。だけど……


『君は危機感が無さすぎる』


絶対イシルに怒られる。


「家の人に聞いてみないと……」


「ああ、旦那がいるのか」


「へ?」


サクラはボンと赤くなる。


「ちちちち違います!違いますよ!あの、居候シテルので、勝手にでられないんです!」


結婚適齢期はとうに過ぎていますが

旦那なんて、畏れ多い!イシルに失礼だ。


「そうか、じゃあ家主に聞いてみてくれ」


「……ハイ」


ギルロスに笑われた。なんで?


「あんた、が欲しかったんだよな」


ギルロスがビワの実を指差す。


「ひとつでいいのか?」


「はい」


ギルロスは 風魔法で 実をひとつ落とすと、サクラに渡した。

風魔法……その手があった。


「食うのか?


「食べられないんですか?」


「食えるよ」


サクラはビワをむく。

まんま、ビワ。に、みえる。


″あむっ″


「ん?ん″――――!!」


「うまいか?」


「しっぶ――――い!!」


あっはっは と、ギルロスが大笑いする。


「渋いじゃないですか!!」


「だから聞いたろ?食うのかって」


教えてくれよ、渋いって。


わりぃ、まさか、スピュロの実を知らないヤツがいるとは思わなくてな、渋いのが好きなのかと。スピュロの実は干して食うんだよ」


干し柿みたいなものか。異世界こっちでは常識なのね……


「サクラは、どっから来たんだ?」


うわー、ダメです!イシルさん!危機感をもっても、警戒しても、対処しきれません!!


「あ、あっち?」


サクラは組合会館を指差す。


「なんだ、それ……まあ、いいや」


話を変えて回避すべし!


「ギルロスさんは、人を探してるんですよね?」


「ああ。だが、この村にはいないだろうな……娼館に入り浸ってるようなヤツだから」


「娼館……」


一人います。いや、一匹か?


「じゃ、オレは見回り行ってくっかな」


ギルロスが会館入口へと踵をかえす。


「警備ですか?」


「おう」


くださ……ひゃあっ!!」


風が舞ったのかと思った。

それほど 素早かった。


気がつけば サクラはギルロスにらえられていた。






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