72話 開店準備中
次の日。
イシルは赤髪の戦士ギルロスと共に ディコトムスの解体に出掛けた。
サクラは銀狼亭で お仕事。
ランは……何してんだろ?猫は気紛れですからね。
今日は リズとスノーと三人で内職作業。
最近 仕込みも接客もしていない。
新店舗の準備やらもあるが、新しく働いてくれる人が増えたからだ。
この時期、麦農家の仕事が 手が空くからというのもある。
口紅目当て……と いうのもある。
銀狼亭の あいている個室に テーブルを運んで作業をする。
テーブルの上には 紙の束。
サクラに渡されたのは……
「スタンプ?」
木で出来たスタンプ
″ペッタン″
インクをつけて紙に押すと テヘペロ顔のウルフが ハンバーガーを持っていた
「え?」
「私が作ったんですぅ」
スノーが 同じくテヘペロ顔で答える。
「バーガーを包む紙に書いてあったらぁ、可愛いかなって。お店のシンボル?みたいなぁ~」
スノーが制服カタログを持ち出し、帽子のマークを指差す。
そう言えば、サミーとミディーに シンボルの話をした気がする。
「スノーが描いたの?可愛い!」
「看板も作りましたぁ」
「で、リズは何をやってるの?」
リズは 床の上で 布をチョキチョキ
「私は制服作りですよ!サクラも後で採寸しますからね!」
いや、私は……着ないよ?
ファーストフード店で接客なんてガラじゃない。
そもそも イシルのことがなければ 接客はお断りだ。
イシルも村に来るようになったし、
そろそろ接客は辞退したい。今さらですが。
「私は……いいよ」
凄いな……二人とも……
リズはレイヤーで、スノーは絵師なのか!?
サクラとスノーはスタンプに取りかかる。
″ペッタン″
「そういえば、あの戦士さん しばらく村にいるみたいですね」
リズがチョキチョキ手を動かしながら 話し始める。
「ギルロスさんて言うんですよぉ~」
リズが乗っかる。
「今朝会ったんですけどぉ……」
くふふ と 二人が笑う
「「かっこよかったですよ~」」
あぁ……夢見る乙女降臨!!
「あんなに格好いいならぁ、もっと丁寧に扱えばよかったですぅ」
スノー、肩に担いでたし、放り投げてたよね、荷物扱い……
「本当!木材なんか後でもよかったのに、人命第一よ!」
リズ、そのわりにはのほほんと馬車を動かしてたよね、剣も邪魔だとはたき落としてたし……
「朝、お礼言われたんですよ、命の恩人だって!」
「ワイルド系のぉ、オトナの香りがしました~!」
「「キケンな香りが!!」」
息ぴったりだね、お二人さん。
「あ、サクラは会ってないことになってますから」
「え?」
「私たちにぃ、出会いのチャンス、くださぁ~い」
「どうぞ……」
意外と肉食女子?
きゃいきゃい 可愛いな。
「今日はイシルさんとギルロスさん一緒に出掛けたんですよね~」
「あ~、二人が並んでるのぉ、見たかったなぁ……」
そんなにイケメンなのか?見てみたいな……
あの日は 必死だったから どんな人か よく見なかった。
血まみれだったし。
どちらかというと、でっかいカブトムシに気をとられていた。
あと、リズとスノーの怪力っぷりに……
一方こちらは 噂のイシルとギルロス。
二の道を 村の乙女達の熱い視線をあびながら ものともせず並んで歩く。
ディコトムスは 結局 おかしなところは見られなかった。
間接ごとに解体し、内部もスキャンしたが、異常無しだった。
中胸背板部分に穴が空いていたが、戦いの時にできた傷だと言えなくもなかった。
解体した殻は 壁の修復に来ていた村人に託し、中身はギルロスが焼いて処分した。
「売れば旅の資金になったでしょうに、いいんですか?村人に渡してしまって」
イシルがギルロスにたずねる。
「金は足りてるんだ。壁を壊しちまったから、修理代さ」
「依頼人は裕福なんですね」
「まあな。体が弱いんで、自分じゃ国から出られないんだ。オレの旅の話しと旨い食いもんを待ってんのさ」
「では こんな何もないところに長居している場合ではないんじゃないですか?」
「コロッケ送ったらまた食いたいとよ。新しく出来るって店も面白そうだし、たまには休養も必要だろ?」
「そうですね」
「しばらく様子見て
「ありがとうございます」
「あんたと酒でものみたいし」
「僕ですか?」
「ああ。面白い話、知ってそうだからな」
「期待に添えればいいですけど」
「それに……」
ギルロスは がしっ と イシルの肩に手をまわす
回りから キャーッ という 黄色い歓声があがる。
「手合わせも願いたいしな」
イシルは苦笑い
「あなた……怪我したばかりでしょう?」
二人は馬が会うようだ。
ギルロスは町を見回ってくる、と、三の道の方へ歩いていった。
それなら モルガンのところへ行けば きっと面白い話が聞けるだろう、と、紹介しておいた。
黄色い屋根が目印だ。
イシルは銀狼亭へ サクラを迎えにいく。
◇◆◇◆◇
イシルが銀狼亭につくと、サクラとリズとスノーが ランチを食べていた。
「あ!イシルさん、こんにちはー!」
リズが 入ってきたイシルに挨拶する。
「あれ?ギルロスさんはぁ かえったんですかぁ~」
「いいえ、村をみまわると、三の道へ行きましたよ」
「わぁ!頼もしいですね~」
リズとスノーがイシルに楽しそうに話しかける。
いつの間に
昨日は真っ赤になってモジモジして、
話しかけられるのもおそれ多い!て感じだったけど……
「ビーフシチューですか、美味しそうですね」
「あ、イシルさんもたべますか?」
サクラが席を立とうとする。
「いいえ、僕は大丈夫です」
「そうですか?」
イシルはにっこり笑って、サクラの隣に座る。
肩肘をつき、頭をのせ、首をかしげてサクラを見つめる。
(食べづらい……)
″ぱくっ……もぐ″
柔らかく煮込まれた牛肉が口の中で ホロホロとくずれる。
(ふふ……美味しい)
「サクラさん、ジャガイモ 食べませんよね?」
「え?ええ」
昼だから 食べてもいいんだけど……
「僕が食べます」
「え?あー、じゃあ、取り皿とスプーンを……」
「必要ありません」
「え?」
リズとスノーが キラキラした目でイシルとサクラを見守る。
「え?」
これは……もしや……
「た、食べますか?」
サクラはジャガイモをスプーンですくうと、
自分で もってもらおうと。
「熱くないですか?」
「え?」
リズとスノーが 期待に満ちた瞳でイシルとサクラを見守る。
(なっ……なんだコレ)
サクラはじゃがいもに息を吹き掛け 冷ます
″ふーっ、ふー″
恐る恐る イシルにスプーンを差し出す。
スプーンの
イシルはうごかない。
目が……そうじゃないと言っている。
リズとスノーも
なんだ、この三人の
完全包囲?四面楚歌!?
サクラは観念して スプーンの先をイシルにむけた。
″あむっ″
イシルの 形の良い薄い唇がひらき、ジャガイモを食す。
キレイな食べ方……
「美味しいですね」
「///」
サクラのスプーンを持つ手が震えている。
リズとスノーをみるのがコワイ。
今日は 何事もなく終わるはずだったのに……
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