73話 子守り
またまた次の日。
今日、リズとスノーは お休み。
イシルはサクラを銀狼亭に送り届けると 出掛けていった。
「あはははは!」
「こら、待ちなって!」
「いや~」
何やら裏庭の方が騒がしい。
サクラは裏にまわってみる。
″ぽふん″
裏庭の門を開けると、何かが飛び込んできた。
5歳くらいの女の子だ。
「あ、サクラ、丁度よかった」
裏庭には サンミがいて、子供達がきゃいきゃい 走り回っている。
「この子達は?」
「孫だよ」
「お孫さん!?」
てことは サミーとミディーの子供達?
「いつもなら ハンナがみてくれるんだけど、ハンナんとこの息子が風邪ひいちまってね、うつると困るから 連れてきたんだよ」
ハンナとは サンミの息子の嫁らしい。
「トム、エイル、テト、ララ、挨拶しな」
「エイルストです!エイルって呼んでくださいね」
元気いっぱい、7歳くらいの女の子 サミーと同じ、ミルクティーのような髪色をしている。
「弟のテトラ ほら、テト、挨拶して」
同じくミルクティー色の髪の男の子が ちょこんと頭をさげる。
可愛い。5歳くらい。
「トムトル。ヨロ。」
「トム!ちゃんと挨拶してよ」
「うっせーなー!」
エイルがトムに突っ込みを入れる。エイルはしっかりしてるなぁ……
トムはミディーの息子のようだ。
反抗期?思春期?エイルと同じ年。
「ララだよ」
そして、サクラに抱きついているのがララヴェイ。
にしゃっと はにかむ。可愛い女の子。5歳くらい。トムの妹のようだ。
「サクラです。よろしくね」
「トムとエイルがいるから大丈夫だけど、外に出ないよう見張ってて」
「はーい」
今日の仕事は 子守りのようだ。
エイルがテトとララを追いかけて 鬼ごっこしてる。
トムはつまらなさそうに 塀にもたれて座っている。
きっと子守りなんかしないで 友達と遊びたいのだろう。
さて……
サクラは 小枝を拾うと、しならせ、くるん と 輪っかをつくり、端を固定する。
五個程作ったところで、鬼ごっこに疲れたのか、エイルとテトとララがサクラに寄ってきた。
「何?それ」
「これ?輪投げの輪だよ」
「輪投げ?」
輪投げ。そう、輪っかを棒に入れるシンプルな遊び。
「トム!私と勝負よ!」
サクラは つまらなさそうにしているトムに ビシッと指を突きつける。
「勝負?」
ゆらり と、トムの目に 光が宿る。
7歳男児の気を引くすべなら知っている。
男性オトナは無理ですが。
「私に勝ったら
「いいもの?」
トムが立ち上がる。
挑発にのったようだ。
地面に距離をかえて三本棒を突き刺す。
それぞれに数字を書き、3点5点9点。
点数が高くなるほど 棒は遠くなる。
「ぐわっ!なんだよコレー!?」
トムがのたうち回る。
簡単そうに見えて 意外とはいらないんだな、これが。
何故なら、輪っかが
とばないし、目測がはかりにくい。
かといって 力を入れすぎると 飛びすぎる。
輪は手作りで、一つ一つ違うから、飛びかたもそれぞれに違う。
9点なんて至難の技……
ぽいっ、ぽいっ、と サクラが5点に輪を入れる。
「
サクラがどや顔で トムを見下ろす。
大人げない……けど。
エイルがけらけらと 楽しそうに笑って見ている。
テトとララは 棒との距離を縮めて遊ばせる。
(飽きる前に次を考えねば……あ!)
サクラは台所に入ると、水に洗剤をとかしボウルに入れ もどってくる。
庭のはしに積んであるワラの中から 筒になっている茎の部分を取り出し、10センチ程に切る。ワラのストローだ。
先端に洗剤の溶けた水をつけて 吹いた。
″ぽわん……ふよん……ふよん″
吹いた空気は 洗剤の
「うわぁ……」
ララがうっとりと球をみつめる。
″ぽわん、ぽわん……″
続けて 2コ、3コとつくる。
「なに、これ……」
エイルもキラキラした目でみつめる。
「シャボン玉だよ」
四人にストローをわたし、やり方を教える。
「ゆっくり、ふーって、
トムがふく。
″バチン″
「うわっ!」
シャボンが割れる。
「やさしく、そーっと吹かないと 割れるからね」
「ふーっ」
″ふよん″
「できた!」
トムがいつのまにか子供らしい顔をして笑っていた。
よかった。楽しめてるようだ。
ララもテトも シャボンをとばす。
「不思議……魔法じゃないのに、魔法みたい」
エイルもシャボンを飛ばしながら うっとりしている。
吹く速度をかえると、小さいシャボン玉が連続して生まれた。
「こんなことも出来るよ」
サクラは 輪投げの輪をシャボン液に浸すと、とんでいるシャボンを通過させる。
″ふわっ″
シャボン球をシャボンが囲み、大きいシャボン玉の中に 小さなシャボン玉が浮かんでいた。
「「わーっ!!」」
歓声があがる。
″ぶわ――――っ″
「わっ!」
「何!?」
急に沢山のシャボン玉が飛んできた。
「すげーだろ!」
見ると、トムが 沢山のストローを口に咥えて吹いている。
さすが、小学生男児。好奇心旺盛。
「もう!トム、ビックリするじゃないの!!」
「へへっ」
エイルがトムにつっかかる。
「でも、キレイね~私も!」
みんなで数を競い始めた。
◇◆◇◆◇
ギルロスは 銀狼亭で コロッケサンドを買うと、食べながら外に出る。
″ふよん″
(なんだ?)
薄い
七色の模様を反射した球体は しばらく漂うと、パチンとはじけて消えた。
″ふよん″
(向こうからだな……)
ギルロスは 誘われるように 球体の出所へむかう。
「キャー!」
「すごいね~」
「もっと!」
(子供の声?)
銀狼亭の裏庭のようだ。
(洗濯でもしてるのか?)
ギルロスは 柵から中をのぞく。
(!!)
……幻想的風景だった。
たくさんの 球体が ふわふわとあふれる中で
女が子供と遊んでいた。
日の光りにあふれ、七色に輝くシャボンの中で
それはもう、楽しそうに。
なんだか目がはなせなくて、ギルロスはその光景をながめながら コロッケサンドにかぶりついた。
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