71話 餃子







″……ちゃぷん″


あたたかい湯船に身を沈め サクラは目をつぶる。


『僕も男ですよ?』


イシルの言葉を思い出す。


(知ってる!知ってるよ!!あえて考えないようにしてるのにいいぃ~)


『サクラ』


(急に距離をつめられても、どうしていいかわかんないよ!!)


『僕のそばにいなさい』


(ひぃぃ///)


『わからないようなら もっと記憶に残るよう 言い聞かせますが……』


(うわあああぁぁぁ///)


サクラは ザブンと 湯船に頭を突っ込む。


(苦手なんだってば~!!)





◇◆◇◆◇





風呂からあがると、既にイシルが 夕食の準備を始めていた。


今夜のメニューは


『焼き餃子』『あげ餃子』『冷やし中華風サラダ』


「あとは焼くだけです」


「餃子!」


イシルが鉄のフライパンを火にかける。


「なんだか急に食べたくなって」


「ありますよね、そういう時」


イシルが食べたいものなんて 珍しいな。


「焼きたてが一番美味しいので、サクラさんが来るまでまっていました。」


鉄のフライパンから モウモウと白い煙が立ち込める。


「イシルさん、コレ 大丈夫ですか?」


「ええ、よく熱を入れないと くっつくんです」


火を少し弱め、油を入れ、中火に戻し、油をなじませる。

白い煙がふたたびモクモク出てきたら、弱火に。


イシルが手早く餃子を並べる。

綺麗に 同じ向きで、円を描いていく。


「触らない、待つ、が キレイに焼く方法ですよ」


2、3分して、こんがり焼き目がついてきたら、お湯をいれ、蓋をする。蒸し焼きだ。

お湯の目安は餃子が1/3浸るくらい。


「お湯ですか?水じゃなくて?」


「フライパンの温度をさげないようにです」


熱湯を注ぐ事によってフライパンの温度の下降は最小限で済み、すぐ蒸し焼きの状態になる。

この状態で 5、6分ほど。


「音が変わってきます」


じゅわじゅわという音が パチパチという音にかわる。

パチパチという音がし始めたら フタを開けて水がなくるまで焼く


「仕上げです。香り付けもかねて」


餃子の周りにゴマ油を垂らし、パリッとするまで2分程焼く。

裏返しに 皿に盛って 出来上がりだ。


イシルがやると簡単そうに見える。

サクラがやると、いつも 崩れてぐちゃぐちゃになるのに……

しかも、テフロン、くっつかないハズなのに。

せっかちな上に 触りすぎだから?


「熱いうちに食べましょう」


いつものごとく ランは席にスタンバイ済みだ。


「ラン、なんだか久し振りだね」


人の姿が。


「お、おう」


ん?なんか変だな


「「いただきます!」」


まずは やっぱり 出来立て焼き餃子から。


″カリッ……じゅわ~″


「んー!」


かりっとした焼き目の香ばしさの後に モッチリ生地の食感。

まさに 鉄板餃子!専門店にも負けてない!


「はぐっ、んふっ」


そして、溢れる肉汁と パンチのきいたニンニクが、ガツンとくる!

仕上げのごま油は 必須ですね!


餃子はやはり 酢醤油そしてラー油!

二つ目は つけて食べる。


「ザクッ……んー!」


酢醤油が さっぱりして、いくらでも食べられそう……


実は餃子は 糖質制限にはむかない。

生地だけで3gの糖質があるからだ。

だから、餃子一個で だいたい6gと言われている。

餃子一人前 5個で、30g

これだけでお腹は満たされない。

ということは、当然、他のものも食べる。

糖質をとりすぎてしまうということだ。


「はじめて食ったけど、うめーな、コレ」


冷めてきたので、ランもがっつり食べだした。


「あれ……?」


あげ餃子……

あげはあげでも


「あぶらあげ?」


「はい。糖質カットのために。あぶらあげにつめてグリルでトーストしただけですが」


うわ~ん、イシルさん、ありがとー!

揚げ餃子だけど揚げない餃子。


「サクッ……ほふっ」


カリカリに焼かれてる。

油あげって 焼くと こんな風になるんだ……

しかも、グリルで放置って。

フライパンで焼いてもいいのかな?


こっちはニンニクではなく ニラが多めだ。

肉汁があげに染みて 美味しい!


「サクラさん、サラダ 忘れてます」


あっ!餃子に魅せられて サラダ食べてない!


「麺、ですか?」


ツヤツヤの麺の上に キュウリ、もやし、きくらげ、かいわれ、錦糸卵、トマトが、彩りよく乗っている。


糖質 気にしてるのに、麺?


「コンニャクですよ」


「コンニャク麺!?」


「シズエは麺類が特に好きで、昔二人で試行錯誤したんです」


ラーメン大好きシズエさん~

ありがたくいただきます!!


「ズズっ……もぐっ」


あぁ、遜色ありません……

麺です。

かなり弾力はありますが、まさに冷やし中華。

しかもゴマだれときたもんだ。


「食べごたえありますね~」


お腹いっぱいになる。


餃子は糖質制限に向かないと言ったが、必ずしもそうではない。

こうやって、一緒に食べるものを考えたり、皮をかえたりすればいい。


今は 皮も、冷凍餃子も 糖質40%オフが売られている。

食べてもいいのだ。


″ふにっ″


「?」


隣に座ったランが サクラの耳を押さえる


「??」


ランが にっ、と 笑う


「ぎょーざ♪」


「ぐふっ……」


サクラは 思わず咳き込む。


「大丈夫ですか、サクラさん」


サクラは 水を差し出すイシルを 睨んでしまった。

ランがサクラの耳をパタンと前に倒したその形は 正しく餃子の形。


(餃子食べたくなった、って……)


「どうかしましたか?」


「……別に」


(記憶に残るようなことって……コレ?)


サクラは 餃子を頬張る。


″もぐっ、むぎゅっ″


(変なこと想像しちゃったじゃない)


美味しい……


(言い方が意味深すぎる!)


サクラは餃子をかみしめる。


(恥ずかしいな!もう!)


記憶に残る味を。










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