61話 恋の路
ランには子猫の姿になってもらった。
……抱っこしてあげる条件付きで。
これ以上、村人の酒の
サクラは子猫のランを抱えたまま モルガンの家へイシルを迎えに行くため 三の道へと向かった。
三の道の立て看板とにらめっこ中のサクラ。
『カップルロード』
リズが言ってたことを思い出す。
うわ……入りにくい……
「何してるんですか?サクラさん」
「あれ?」
今日はみんな意外なところからやってくる。
後ろからサクラに声をかけてきたのは イシルだった。
モルガンも一緒だ。
「モルガンさん、こんにちは 二人でどこか出掛けてたんですか?」
「おぉ、サクラ、ちょいと会館のほうにな。大変じゃったな」
イシルがモルガンに相談すると言っていたから、その事で話し合っていたのだろう。
「ご心配おかけしました」
「無事でなによりじゃ。村の事は心配するな。サンミの店はワシも楽しみにしとる」
「はい。ありがとうございます」
モルガンがしみじみと続ける。
「ドワーフの寿命を知っとるか?」
「え?……いえ」
「400年じゃ」
「400!?」
モルガンかチラリとイシルを見て、サクラに向き直る。
「エルフ程長くはないが、400年は長い。サクラがやる新しい事に みなワクワクしとるんじゃ。遠慮はいらん、サンミに協力してやってくれ」
「はい」
「じゃあ、モルガン、よろしく頼みます」
「あいわかった。それじゃあな、サクラ」
イシルが話を切り上げたので、モルガンは三の道を入り、家へと帰って行った。
イシルはサクラの腕の中を見る。
「なぜランディアがいるんですか?」
「……なぜでしょう」
ランはサクラの腕の中で くぁ~ とあくびをする。
イシルはサクラを『二の道』へと
「モルガンと相談して、魔方陣の場所をかえました」
「村の中ですか?」
イシルはサクラを組合が使っている建物に案内する
「ええ、もう隠しておく必要もないでしょうから」
それは嬉しいことだった。
イシルの村への
「組合の会館の中に 場所を貰いました」
会館とは 現世でいうと公民館みたいなものらしい。普段は使わない。商人ギルドとの取引資料がおいてあったり、みんなで話し合いが必要なときに使うだけ。
人は住んでいない。
「いいんですか?」
「村長や、村の重鎮と決めたことなので大丈夫です。元々あまり使ってませんでしたから」
会館の入り口前は 広場になっていた。
集会所として、村の者が集まれるようにだろう。
広場入って右手に会館がある。横向きてこと。
建物の中に入ると、広い部屋に 大きなテーブルがドーンと置いてあった。
奥には簡単なキッチンがあり、更に奥には風呂、トイレ、二階にあがる階段があった。
「二階は部屋が4つあります。使ってませんが」
「へぇ……」
サクラが階段を上がろうとすると、イシルがそれを止める。
「そっちじゃありません」
「え?」
一階に部屋はもうないハズ。
「こちらです」
イシルは階段の裏にまわる。
″カチッ″
「ほぇ?」
階段下は板で覆われて壁になっていた。
壁かと思いきや、その壁を軽く押すと カチッと音がして、壁に使われている板の一部が 手前に開いた。
「地下室……」
そこには下に続く階段がぽっかり口を開けていた。
「ドワーフは遊び心が多いんですよ。どの家にもこういった仕掛けがあります。秘することを好むんです」
「そういえば、ドワーフの坑道でも 隠すように滝の裏側に道がありましたね」
「あそこは
そうなんだ。そりゃ、入ったら出られないのは 伊達じゃない。
イシルが光を灯し、地下におりる。
中は倉庫のようだった。
本棚には古い本や書類、大小の箱。
その周りに古いランプや小物、家具、色んなものが雑多に置かれていた。
なんだか、神秘的に見えた。
時間が降り積もっているようで。
「ここです」
通路は奥まで伸びているが、イシルは階段のすぐ脇にサクラを呼んだ。
そこだけ何もない。人が一人立てるくらいのスペースが出来ていた。
足元には 小さな魔方陣があった。良く見ないとわからないくらいの薄さで。
「1人ずつですか?」
「いいえ」
イシルがサクラの腕を引く。
たたっと
「ランディアが邪魔ですね。潰れても構いませんが……」
イシルはサクラの向きをくるっと、回転させると、後ろからふわっとつつみこんだ。
バ、バックハグですか!?
「もっと寄らないと入れませんね」
イシルはサクラを くっ、と 引き寄せる。
イシルに強く抱き寄せられ サクラは息をのむ。
(密着度何パーセント!?)
「いきますよ?」
耳のすぐ横でイシルの声がした。
息が止まりそうだ。
足元の魔方陣が赤紫に光る。
イシルが魔力を込めたようだ。
フワフワする。
この浮遊感が 転送のせいなのか イシルせいなのか わからないまま 家路につくサクラであった。
◇◆◇◆◇
「……ばかねぇ」
こちらは『笑う銀狼亭』のダイニング。
「そういうのは 相手に悟られず、こっそり楽しむからいいのよ」
ふふん、と、サミーが艶っぽい笑みを浮かべる。
目の前には リズとスノーが目をキラキラさせて サミーの話を聞いている。
「みたところ、あの二人は
「サクラが
ミディーもサミーに同意する。
「そうなんですかぁ?仲良さそうですよ」
くくくっ、と笑ってミディーは続ける。
「スノー、恋愛てのはね、
「そうよ。
「どういうことですか?」
リズはハテナ顔だ。
「自分の
「「……はい」」
二人はしゅんとする
「誰かいないのかい? アンデルは?同い年だろ?」
「「ないない!」」
「同い年なんて子供っぽくって」
「ガサツじゃないですかぁ~」
「あんたたちも十分コドモだよ」
ミディーが、リズとスノーの鼻をつまむ。
「「ふにゃ」」
「二人とも、ドワーフなら、秘めたる楽しみをおぼえることね」
サミーがクスクス笑ながら 忠告する。
「想いは秘めてこそ育つのよ。あふれるまで そっと見守ってあげて」
「えー!」
「……たまにはいいですかぁ?」
「程ほどにね」
「「はーい」」
「さて、仕事の話すっかな。コレ見て」
ミディーが本を取り出す。
サクラから借りた『制服カタログ』
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