60話 バーガーウルフ
新しい店の名前が決まった。
『笑う銀
『バーガーウルフ』
なんだか聞いたことのあるような響きだが、バーガーとは
丸いパンの間に肉や野菜をはさんだものだと教えたら、その名前になった。
ハンバーグをはさんだらハンバーガー
コロッケをはさんだらコロッケバーガー
チキンをはさんだらチキンバーガー
着々と工事は進んでおり、受けカウンターと 出しカウンター 調理場、休憩室と、形になってきている。
「どう、サクラ」
今日は 『銀狼亭』のほうは リズの他にもう一人新人が来るから、手が足りていて、新店舗の様子を見てほしいと、サンミに頼まれたのだ。
イシルはモルガンのところへ行っている。
ランは今日は来ていない。
今 サクラは サミーとミディーの三人で 工事を眺めていた。
「席は作らないんでしょ?」
「もって帰る専用だからね」
サクラの質問にミディーが応える。
サンミの娘で、赤髪の肩までの髪が外に跳ねてる。
サクラのあげたぷるぷるオレンジが良く似合う、サンミに似た女の人だ。
そう、サクラの唇に無理矢理ぷるぷるオレンジをぬった張本人。
「飲み物は売らない?」
「広場に行けば水
こちらはサミー。
ドワーフには珍しい ミルクティーのようなベージュ色をした髪を女性らしく横に流し、ひとつにまとめている。ミディーの姉だ。
サクラのあげた口紅 ローズピンクのくちびるが色っぽい。
確かに、余計な手間ははぶきたい。
問題なのは……
「ゴミ問題か」
「食べ終わったら、みんなどうしてるの?包んだ紙とかは?」
「その場で燃やしてるよ」
ミディーが落ち葉を拾って、手のひらの上で ボッ と、燃やしてみせる。
「……なるほど」
じゃあ、ゴミ箱いらない、のか。
そういえば、村や森でゴミはみかけないな。
素晴らしい。
「あ、そうだ」
サクラはリュックから一冊の本を出す。
『制服カタログ』
シズエの置き土産だ。
なんでこんなものが、と思ったら、イシルさん、ゴムエプロンとか、長靴とかもってたよ。
カタログ見て シズエに買ってきてもらったそうな。
二人して本格的に作ってたのね、お豆腐。
似合う……のか?
いろんな職業の制服がのっている。
ホテル、飲食などのサービス業界から、白衣、作業着まで。
サクラは二人に バーガーショップの店員さんが着てるような制服のページを見せる。
「安全面」「快適面」「機能面」「衛生面」の説明をし、制服を作ってはどうか、と。
私服でもいいのだが、落ちにくい汚れが付いたり、油がはねたりするし、ここにポケットがあったらいいのに、とかあるから。あと、制服着てればお店の人だと一発でわかる。
「変わった服ね。でも、なんだかカッコいいね、この帽子」
ミディーはキャップが気になるようだ。
「作ってみようかしら……そういえば、リズは裁縫が得意みたいだし、相談してみるわ。この印は何?」
サミーが、胸についてるマークを差す
「店のシンボルみたいなもの。バーガーを包む紙にも描いたりしてるよ」
「……シンボル」
新しい店は あと一週間程でできるらしい。早いな。
◇◆◇◆◇
「はじめましてぇ、スノートラですぅ。スノーと呼んでください」
『笑う銀狼亭』の裏庭で 新人のスノーと挨拶を交わす。
「……え?」
スノーは リズと まったく同じ顔をしていた。
「双子……?」
「「はい」」
返事がシンクロする
「サクラです。よろしくね、スノー」
スノーがはにかむ。スノーは茶髪のおさげで、ちょっと甘えた声の女の子。
因みにリズは 同じく茶髪の三つ編みにしてないツインテール。
「あ、そうだ、コレ」
サクラは スノーとリズに リップをわたす。
「口紅は二人にはきつすぎるから、こっちのほうがいいかと思って」
あどけない顔の二人には 口紅より 色つきリップのほうが似合う。
おみやげはいつもリュックに入れてあるのだ。エヘン。
「わぁ、かわいい色!」
スノーはピンクのリップを
「シットリするわね」
リズはオレンジのリップを選んだ。
きゃっきゃとはしゃぐ二人はかわいい。
リズが
キラキラした、夢見る瞳で。
「最近、三の道がなんて呼ばれてるか知ってます?」
「え?」
「カップルロードって呼ばれてるんですよ」
くふふ、と、リズが楽しそうに笑う。
それにスノーが同調する。
「そうなんですよぉ~恋人と一緒に歩くとぉ 幸せになれるって」
「へ、へぇ……」
高校生の時、学校の裏の道が そんな言われてたような……
少し回り道で駅まで行けて、静かな小路だったなぁ。
そこをカップルが 一定の距離をおいて 歩いている。
初々しい高校生カップルのステイタス。
私には無縁でしたが。
「今日も素敵でしたねぇ~」
スノーがつづける。
「えっ?」
イヤな予感……
「私も!見てました村にやってくる二人を」
ねーっ、と、二人そろって、なにやら夢の中へ……
なっ、何を?今日はイシルさんと手はつないでないゾ。
手をつなごうとするイシルさんを 拒否しました。
寂しげなイシルさんの顔を見ないふりして、がんばりましたさ。
「あの 控えめな感じがキュンとしますぅ~」
何の?
「彼の上着の裾をつかんで、後ろからついていくなんて……」
あ……
「「あんなのはじめてみました!!」」
リズとスノーの声がハモる。
そう。今日は手繋ぎは拒否した。
でも、昨日のことがあるから心配だと引かないイシルの言葉に、じゃあ、後ろにいるのがわかるように、と、イシルの上着の裾を掴んで村まで来たのだが……
「離れてるのに、なんて甘い雰囲気だすんですかぁ~」
「サクラを気遣いながら前を歩くイシルさんがまた、オトナの男の人って感じで……」
キャーッ!!と抱き合うリズとスノー。
勘弁してほしい。精神が消耗する……
「真っ赤になっちゃって、サクラかわいい!」
「物語の中の出来事みたいですぅ」
出来ることならこの子達に
私なんかじゃなく、もっと見目麗しい世界に目を向けてくれ!
得てして不幸とは畳み掛けるもの。
精神状態瀕死のサクラに 追い討ちをかける声がとんで来た。
「サクラー!終わった?帰ろー」
「……え」
振り向くと、柵に肘をついたランが 呼んでいた。
イケメンオーラをこれでもかといわんばかりに撒き散らしながら。
「なんで……?」
ランは、リズとスノーを見ると、にっこり笑って ひらひらと手を振る。
「「キャー!!」」
なんで人型!?昨日の約束は??しかも、猫耳生えてるよ!?
「誰ですかぁ!?」
「帰ろうって、一緒に住んでるんですか!?」
「どんな関係ですかぁ!?」
「イシルさんは大丈夫なんですか!!?」
リズとスノーから質問の嵐。
かしましさ増量中!
「あ、えーと……弟?」
サクラの目が泳ぐ。
「弟なわけないですよねぇ、どう見ても 獣人ですよねぇ?」
「三角関係ですかっっ!」
……逃げよう。
「いや、じゃあ、また、ね!」
えーっ!という抗議の声を振り切り、サクラはランのところへ走る。
「なんで人型なのよっ」
「え?だって人型じゃないと声出ないし。サクラ呼べない」
当然のことですが、なにか?て顔のラン。
「呼ばなくても猫の姿見ればわかるのに……」
サクラはげんなりする。
「その耳は何?」
いつもの人型とは違い、猫耳だし、手は腕から先がもふもふの毛皮。尻尾まである。
「サクラが、かわいい?のがいいっていうからさ、獣人型」
ぷにっと、肉球で頬を押される……気持ちいい。
ランはするりと身を寄せ、肩を抱き、サクラの耳に口をよせる。
「か・え・ろ」
「「キャー!!!」」
後で黄色い声があがる。
サクラは慌てて ランを結界で ぱんっ と 弾く。
「いってーな」
サクラは ランを残してずんずん歩く。
「サクラ、機嫌悪い?」
ランがサクラを追いかけていく。
後に残ったリズとスノーは 手を取り合ってうっとりと 二人のやり取りを見守っていた。
「あのやさしいサクラが冷たく突き放すなんて……」
「彼は片想いかしら……これは……」
「「
激しく妄想の彼方へと迷走する リズとスノーだった。
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