59話 厚切りステーキ






今日の晩御飯はシンプルに


『ステーキ』


ランが肉肉うるさいから。

イシルが肉を取り出す。


「でかっ!」


肉は 厚みが3センチはあるかと思われる肩ロース

600g超えですよ、ポンドステーキ以上!?

1.5ポンド……くらい?


「これはランディア用です」


肉は常温。もし冷たければ 常温まで放置で。

イシルは包丁で、切れ目を入れていく。脂身が多ければ取り除く。


「肩ロースはスジが多いですからね、筋切りします。」


肩ロースは、赤身と脂肪の境目にある筋が多い部位なので、スジを断つように包丁の刃先で切れ目を入れる。

切り込みは2cm程の間隔で、1cm程の深さで切れ目を入れていく。

こうすれば肉が反り返ったり縮んだりせず、きれいに焼き、食べやすくなる。


「サクラさん、これにフォークで穴をあけていってください」


サクラはイシルに言われて、フォークでプスプスと肉を刺していく。


「厚みがありますからね、こうすると肉もやわらかくなり、味も染みます。片面だけですよ。両面やると旨味が逃げますから」


「なるほど、ただ焼くだけじゃないんですね」


塩コショウは焼く直後に。

水分がでてきて旨味も流れ出てしまうから。


フライパンを熱して、はじめに取り除いた脂身をぬる。

まずは立てて焼く。背面から。

サーロイン肉だとわかりやすい。脂肪部分をフライパンの表面に押し付けるようにして強火で2分、弱火で2分焼く。

脂肪が多い肉なら溶け出すから、はじめの油は引かなくてもいい。

焼けたら反対面も立てて同じように焼いていく。


ここでバター投入。

ハーブやニンニクで香り付けしたいときはこのタイミングで入れる。

今回はロースマリーと包丁の背で潰したニンニク。


「あぁ、いい香り……」


「ニンニクが食欲をそそりますよね。今日は魔力を沢山使ったみたいなので、スタミナをつけてもらおうかと思って」


「すみません」


肉を寝かせて広い面を焼いていく。

焼くのは筋切りをしていないオモテ面から。


「サクラさん」


「はい」


「こういうときは『すみません』ではなく『ありがとう』ですよ」


「え?」


イシルが肉をやきながら、さりげなく話す。


「気持ちがマイナスになってるんですね」


「あ……」


「言葉には力があります。自分の発する言葉で 自分に暗示をかけないで」


知らないうちに自分で悪い方へと引っ張ってしまう。


「明るく振る舞う必要はありません。ただ、使う言葉を少し変えるだけで 気持ちはかわります」


「はい」


サクラは 自然と顔がほころぶ。

イシルの気遣いが嬉しくて。


「ありがとうございます」


心がほんわかした。


「いい笑顔ですね」


フライパンの中のバターを掛けながら強火で2分弱火で2分。

裏返して、同じように中のバターを掛けながら強火で2分弱火で2分。


焼き上がったら 網に乗せて、暫く寝かせておく。

アルミで包んで5分程。脂をなじませ、落ち着くのを待つのだ。


表面カリッと、肉汁を閉じ込め中はジューシーな仕上がりに。


「余った肉汁に醤油を入れます」


″じゅわっ……″


香ばしい醤油の匂いが立ちこめる。


「ガーリックバター醤油のソースですね~」


さくらは匂いを胸いっぱい吸い込む。


「お腹すいてきました……」


付け合わせはグリル野菜。

ズッキーニ、パプリカ、トマト、舞茸、アスパラ、長ネギ。

この中に長ネギって、意外だなぁ。

適当な大きさに切り、オリーブオイルと塩を振り、

コンロの真ん中の魚焼くトースターに入れて焼くだけ。

アルミを引いて並べて焼くんです。

オリーブオイルなしでもいいけど、水分がとんでカピカピになっちゃう。

これは肉を焼いている間放置。簡単。


サーロインも焼く。

250g、程よくサシが入った、見るからに旨そうなお肉!

サーロインは、赤身肉の中に適度に脂が入り込み、赤身肉の凝縮した味わいも脂身のジューシーさも両方併せ持つ『良いとこどり』なお肉


やはり焼く直前に塩コショウ。


フライパンにイシルがそっと肉を置く。


″ジュゥッ……″


肉を焼く音。

脂がとけだし、鉄板の上で跳ねる音。

わくわくする音。


「サーロインはバターじゃないんですね」


サクラが残念そうに聞く。


「霜降りは脂が多いので バターで焼くとくどくなるんです。つけるなら焼いた後で」


「なるほど」


脂を入れる代わりに、立てて背面の脂を焼く。

脂が溶け出たらやはり表面から強火で30秒程焼いて、表面に焦げ目をつけ、中火で1分。

裏返して同じように繰り返す。

焼けたらアルミを被せて寝かせます。


肉を取り出した肉汁に ニンニクチップと醤油を入れて、ソースにする。


「早く食べようぜ」


料理を盛り付けてたら、

風呂からあがってサッパリしたランが 既に食卓に陣取っていた。


今日の食卓は迫力がある!!


ランの前にはドーンと肩ロースとサーロイン両方が乗った皿が置かれている。

ソースはかけずに 別添えだ。

どんだけ食うんだ……


「「いただきます!」」


サーロインにナイフを入れる。

焼いたあと寝かせたので、肉汁はあまり出ない。

適度に霜降りの肉は 中心にむけてピンク色から赤へのグラデーション。

レアな仕上がり。


「キレイな色……」


テフロンだと中々難しい。

鉄のフライパンの強火は違うね!

一口に切って、まずは塩コショウで


「はぐっ……もぐ」


やわらかい!切ったときに旨味が流れでなかったからジューシーだ!


「んー!」


まさに王道ステーキ!


粗挽きの黒胡椒をさらにがっつりかけて、ペッパーステーキに。


「んー、これこれ!」


胡椒のパンチの効いた風味で食べるステーキは、肉本来の味をさらに引き立てる。


次は ニンニク醤油ソースにつける。

醤油とニンニクのかおりがが霜降り肉を包む。食欲をそそる。


「んふっ」


和風ステーキ最高!


「ネギを乗せても美味しいですよ」


「あ、そうか」


グリル野菜にネギがあると思ったら、そういうことか!

肉とネギを一緒にニンニク醤油ソースにつけて食べる。


「はんぐっ」


合わないハズがない!焼いたネギサイコー!ネギの甘みも風味もサイコー!


ズッキーニ、パプリカ、トマト、舞茸、アスパラ……焼いただけなのに、いくらでも食べられる。

個人的に 焼きトマトって微妙だったけど、食べると口の中の脂をさっぱりとリセットしてくれる。


ズッキーニってキュウリの仲間かと思ってたくらい、食べたことなかったけど……うまいなコレ。

この中で一番好きかも。


ランが肩ロースを頬張っている。

どんな味かなぁ……


「サクラ、食べたい?」


ランが気づいてサクラに聞く。

うわ、恥ずかしいな。食べたいのバレてる。


「いや、ランが野菜食べてないなぁ~って……」


「ふ~ん」


ランは肉を切って差し出す。


「え?」


「はい、あ~んてして」


「なっ///」


サクラの目の前にフォークに刺した肉を向ける。


「いっ、いらないよ」


「あ~ん」


あーん、と口を開けて ランがサクラを見てる。

わざとだ……わざとエロい顔してる……


「…………」


イシルの目が冷たい……

この空気、どうしてくれよう


″がしっ″


「おっ?」


サクラは ランの手からフォークを奪い取ると、ぱくっと肉を食べた


「……意外と素早いな」


「んんー!」


噛み応え抜群、肩ロース。

かむ度に むぎゅっ、むぎゅっと程よい食感。

そして、濃厚な肉の味が 口いっぱい広がる。


ランが不本意そうに「そうじゃないのに」とぶつぶつ言ってるが、シカト。


「サクラさん、もっと食べますか?」


「いえ、どんな味か気になっただけなので大丈夫です。ありがとうございます」


「オレは食う」


横からランが口をはさむ。その体のどこにそんなに入るんだ?


「え?まだ食べるの?」


「サクラ乗せて走ってからな~体力消費したし」


「ぐ……ありがとう」


イシルはやれやれと、立ち上がる。

そして、おかわりを持ってきた。


「……なんだよコレ」


持ってきたのは、肉と野菜が交互になった……


「串焼き!おいしそう!」


サクラがキラキラ目を輝かせる


「刺しただけです。串焼きではありません。見た目だけ」


イシルはランに野菜を食べさせようと考えたようだ。

肉だけたべないように。


「ランディアがちゃんと野菜も食べたら、今度は本物の串焼きにしてあげます」


「バーベキューやりたいなぁ~」


サクラはランをチラ見する。

さっきのお返しだ。


「わかったよ!はぐっ」


ランは串焼きにかぶりつく。

なんだかんだ言って、おいしそうに、きれいに平らげた。












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