62話 TKG
″トントントントン……″
軽快なリズムでネギを刻む音
出汁の香りに味噌の匂いが加わる。
サクラは隣で料理するイシルに思わずみとれる。
イシルは手のひらの上で 味噌汁に入れる豆腐を切っていた。
「……割烹着着せたい」
ふわっと 湯気の中にいるイシルは、絵にかいたような お母さんっぷりだ。
「サクラさん」
イシルが鍋に豆腐を入れながらサクラに話しかける。
「サクラさんが見なければいけないのは、僕ではなくて 目の前の魚ですよ?」
鍋に目をむけたまま、サクラに突っ込む。
「はっ!」
″パシュッ″
網の上で 焼けたアジの油が弾けた。
魚焼いてる最中だった!
サクラはあわててひっくり返す。
今日はお仕事お休みなので、イシルとのんびり朝食づくり。
今朝は和食。ご飯に味噌汁、焼き魚と、絵に描いたような和定食。
「「いただきます!」」
まずは 野菜から。
サラダのかわりに 今日はおひたし。
ほうれん草と、オクラ?
ほうれん草の隣に茹でたオクラが添えてある。
鰹節をかけ、お醤油をたらし、ほうれん草を口に入れる。うん!美味しい。
葉を茹ですぎると でろん、てなっちゃうから、茎を先に入れて、葉に火がとおりすぎないようにするのがポイントだ。
オクラは刻まないで 丸々茹でてある。
「はぐっ、もぐっ」
箸でつまんで 一口かじる。
口の中に オクラの種がつぶつぶと弾ける。そして、オクラ独特のネバネバ。
「よく噛んで食べてくださいね」
サクラはこくこく頷く。
だから刻んでないのか。
満腹中枢を満たすために、噛んで、ゆっくり、食べる。
ネバネバ食材は、腹の中に入った後も糖をネバネバに包まれた状態にしてくれ、胃や腸で糖が吸収さるのを抑えてくれるらしい。
血糖値の吸収が抑えられるから糖尿病の予防にも役立ち、ダイエットにも役立つということだ。
とろろ芋や納豆、めかぶなんかもいい。オクラは糖質量も少ないので特に!
「魚、焦げてんじゃん」
ランがジト目でサクラを見る。
二枚……焦がしました。
自分で食べるつもりだったのに、
『どうせランディアは何枚も食べるから』と、
イシルがランの皿に置いたのだ。
「ちょっとだけでしょ」
てか、なんで私だとバレた?
「イシルが焦がすわけないじゃん」
そう言って 頭からバリバリ食べてる。
アジを頭からって……
しっぽのとこの
アジの開きに手をつける。
箸を入れると、ふわっと白い身がうきあがる。アブラがのってて美味しそう!
「ぱくっ、ん~」
アジは味がいいから
魚に
朝から焼き魚を食べる……理想の朝食。
当たり前のように食卓にならぶけど、朝から魚焼くって大変よ?
母上様々だと、今になって思う。
ご飯と一緒に口に頬張るとサイコーです!
米じゃなく麦ですが。
今日は古古米と麦のご飯。
古古米は黒い穀物。一緒に焚くと、他の穀物を紫色にかえる。
「ズズッ……ほわ~」
味噌汁は朝の毒消し。なにより、美味しくてホッとするのがいい。
そして、さっきから気になっていたのだが、生卵がおいてある。
これは…
もしや…
T・K・G!!
卵かけご飯を作っていいってことですかぁー!?
おひたし用かと思っていた卓上の ゴマ、かつおぶし、きざみ海苔、醤油は TKGのためのもの?
イシルが生卵に醤油をかけ、箸でかき混ぜる。
″とろっ″
ご飯にかけた!よっしゃ!
サクラも同じく 醤油をかけ、よくかき混ぜたら ご飯の真ん中を少し凹ませ、たまごをかけ、よくかき混ぜる。
ご飯の紫と卵の黄色の組み合わせがちょっと気にはなるが……
「なにそれ、美味しいの?」
ランが変な目でみてる。
「え?」
「サクラ、ニヤニヤしてかき混ぜてるから」
あ、嬉しさが顔にでてましたか。
「ランもやれば?美味しいよ。作ってあげようか?」
「……オレはいいや」
そう言って、ツルンと生卵をのみこむ。うわ、意外とワイルド!
そして、卵ではなく、味噌汁をかけて、かつおぶしをかけ、ご飯をかきこむ。
猫まんま(笑)
でも、それはそれで美味しいよね!
イシルは卵かけご飯の上にきざみ海苔をかけて食べている。
(まずはシンプルに そのまま……)
「あむっ」
あぁ、これこれ!ごはんと卵と醤油だけなのに、なんて美味しいの……
米の一粒一粒に卵がからまって、甘味が増している。
そして、醤油の塩気と風味が 旨さをひきだしている。
(最強タッグ!)
思わずガッツポーズ!
「大げさだな、サクラは」
食べたことのないヤツはわかるまい。
てか、ランはアジを何枚食べるんだ?5枚目だよね?
(次は……ゴマかな)
よくかき混ぜた卵かけご飯の上に パラパラとゴマをふりかける。
「はぐっ」
麦と一緒に ぷちっとゴマが弾ける。
金ゴマの香ばしさと食感が大好きだ!
ゴマの他にも、七味をかけるのも好き。
ちょっとだけレンジであたためて ふわふわ感をアップさせて食べるのも好き。
贅沢に 卵を二個入れて、ズルズルで食べるのも好きー!
何をしても美味しいんだけど、バリエーションが多過ぎて 追求しきれませんね。
「イシルさんはシズエさんに教わったんですか?卵かけご飯」
「ええ。見たときは抵抗ありましたけど、クセになりますね」
グッジョブ シズエ殿!
日本のソウルフードに乾杯!!
「ところで、今日はお休みですが、村に行きませんか?」
イシルが自ら村にサクラを誘う。
「喜んで!!」
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