56話 新人さんいらっしゃ~い






『笑う銀狼亭』絶賛ジャガイモ皮剥き中。

今日は一人増えました。

朱色のぷるぷるリップをつけた女の子、ドワーフのリズリア。

愛称はリズ。只今彼氏大募集中!


サンミがため息をつきながらぼやく。


「何か良い方法はないかねぇ」


それは 昨日の夜の事だった。


夜は酒が中心だ。

カウンターで金を払って 酒を渡す。BAR形式。

しかし、料理は席まで持っていき、そこで金と交換だ。

今までは顔見知りばかりだったし、そこまで大混雑もなかったので問題なかったのだが、昨日は様子が違ってた。

コロッケの影響で、人がふえたからか、

料理の注文で、やれ、こっちが注文早かった、と、喧嘩になったのだ。

酒も入ってるし、場の空気は悪くなるし、面倒なことになった。

結局、サンミがなんとか仲裁したのだが、外から客が増えるとなると なんとかしたい。


これは、新しく作るバーガーショップでも言えることだ。


「それなら、番号札ばんごうふだ使ったらどうですか?」


サクラが提案する。

現世あっちではお馴染み 番号札だが、異世界こっちにそんなシステムはないのかな?


「カウンターで注文を聞いて、お金をもらい、番号の書かれた札を渡すんです。注文書にはその番号を書いておいて、出来上がったら番号を読み上げて カウンターまで取りに来てもらうんですよ。番号札と交換で 食事を渡すんですね」


「サクラさん、すごいこと考えますね!素敵です、それ」


リズがキラキラした目で サクラを見る。


「いや、私の故郷では一般的でして……」


リズの純粋な眼差しが痛い。


「それなら客席まで行かなくてすむのか。いいね!今日ちょっとやってみるかね」


「札を作らないといけませんね 木の札、とか?」


サクラがそう言うと、サンミは板を取りに行った。


二人きりになると、リズがもじもじしながら話しかけてきた。


「あの……サクラさん」


「なに?リズちゃん」


「リズでいいですよ」


「じゃあ、私もサクラで」


リズは顔を赤くして、じゃあ、と。

可愛いなぁ……自然と顔がにやける。


「サクラはいいよね」


「ん?」


「私も 優しく手をつないでくれる彼氏が欲しいなぁ」


なんだ?恋バナか?彼氏??久しくいませんが。


「凄くステキだったなぁ……二人の世界ってカンジで」


リズは何かを思い出してるのか うっとり語ってる。


「緑のジャガイモ畑の小道を ゆったりと歩いて……」


ジャガイモ……畑……?


なにやら冷や汗がでてきた。


「サクラに 凄く優しく笑いかけますよね、イシルさん」


ぐはっ!!

血を吐きそうだ……


「言葉が少なくても 通じあってるカンジがまた いいんですよね」


おねがい、もう、その辺で……悶え死ぬ……恥ずか死ぬ……


「かっ、かれしってワケデハ……ほごしゃのような……なんていうか……むにゃむにゃ……」


うまく言葉にならない。


「隠さないでも 見ればわかりますよ~」


キャー と、リズが顔を赤くする。


「何やってんだい、二人とも、顔、真っ赤だよ?」


「あは、あは、あはははは……」


やっぱり手を放すんだった……


「コレでいいかい」


サンミが木の板を持ってきた。

サクラは受けとると、それを切る。


(えーと、風魔法でいいかな)


ゲームの中で見た『ウインドカッター』的な、風で物を切るイメージで、名刺くらいの大きさに木を切る。

あまり小さいと 無くしやすいから、妥当だろう。


「……器用なことするね」


「え?」


「風魔法で そんな細かいこと出来るなんて。アタシがやったら 粉々だよ」


「あ、イシルさんに教えてもらったんです」


虫干しで、本をパラパラやったから、加減がわかる。

リズが、キャー!と、一人で盛り上がってる。

きっとリズの脳内では イシルが優しくサクラに魔法を教えているのだろう。まぁ、事実優しかったが。


「サンミさん、これに数字を焼き付ける事ができますか?」


「無理だよ、アタシがやったら炭になっちまう」


「サンミさんは魔力量が多いんですね。わたし、炭になんてできませんよ。じゃあ、私に数字を教えてください」


数字は現世あっちとかわらなかった気がしたが、一応確認。

ほぼ同じだった。

焼き付けて 6と9の下に 線を引いて わかるようにする。


「30あれば足りるかな?使い回しするし」


と、いうことで、番号札形式実践です。

サクラもやったことないが、なんとなく出来るだろう。

リズに 教えながらやる。


『チリリーン』


「「いらっしゃいませー」」


まずは顔見知りのお客さん


「おっ、かわいいお嬢ちゃんが増えてるね」


「リズです、よろしくお願いします!」


「今日からちょってとシステムかえてみたいんですけど、協力おねがいします」


「ああ、新しく店出すんだろ?楽しみだね、いいよ」


カウンターでメニューを見せる。

3名様だ。

後ろの二人にもメニューを渡す。


「コロッケな」

「オレも」

「じゃあ、オレもあと、エール飲むよな?3つで」


「はい、お会計が先になります。エールは今お出しします。持っていってください」


「ああ、夜みたいにだな?」


「はい。それと、料理が出来たら呼びますので、これを持っててください」


会計を済ませ、エールと番号札を渡す。

三人とも同じメニューなので、番号札は一個。1番だ。


「へえ、面白いね」


特に嫌がりもせず、三人で話ながら 席につく。


次のお客さんは 4人で、コロッケ2 日替わり2だったので、2番と3番を渡す。


並んでるお客さんも、メニューを選び終えると 次の人にメニューを渡し、勝手に説明してくれていた。楽チン。


初顔の人もいるけど、特に異論はないようだ。


「番号札1番 コロッケ定食3名様 カウンターまでお越し下さい」


リズが少し緊張した声で呼ぶ。


「おっ!きたな!」

「まってました~」

「旨そうだな」


もっとめんどくさがられると思ってたが なんだかお客さんも楽しそう?


「そりゃそうだろ、可愛い女の子に呼んでもらえるんだからさ。単純なんだよ」


サンミが笑う。

そう言えば、皆 わくわく顔で 番号札を凝視してる……


「番号札2番コロッケ定食のお客様~」


「はいよ~」

「オレオレ!」


順調だ。

あれ?リズがオロオロしてる


「どうしたの?」


「サクラ、日替わりが先なのに、次のコロッケができたんだけど」


あぁ、順番が気になるのね


「日替わりは時間がかかるからね」


リズの代わりにアナウンスする。


「順番が前後してすみません、4番の番号札コロッケ定食2名様カウンターへお越し下さい」


ことわりを一言入れる。文句を言ってきたら、日替わりは時間ががかるので申し訳ないと謝る。

リズにそう説明して、交代する。


「3番日替わり定食のお客様 大変おまたせいたしました!カウンターへお越し下さい」


「まってました~」

「ありがとよ!」


うん。大丈夫そうだ。素直で可愛い。飲み込みも早い。

あとでサンミと相談して、メニューに早くだせるものと 時間がかかるものの表記をしてもらおう。


こうして、初めての番号札作戦は うまくいった。






◇◆◇◆◇






今日のまかないは キノコのパスタ。

コロッケが人気沸騰中の今、パスタがあまりでない。

もう水戻ししてあるから、もったいない。


「なんか、楽だったね」


なんたって、客が動いてくれる。皿まで下げてくれた。

こりゃ下げカウンターつくったほうがいいかな。

サンミに言ったら 大賛成だった。

セルフサービスの店になりそうです。

夜は リズがサミーとミディーに教えてから帰るらしい。


「サクラがいてくれて助かったよ。また相談してもいいかい?メニューのこととかさ、新しい店のこととか」


「私でいいなら喜んで!」


食べ物のことを考えるのは楽しい!


「じゃ、また明日!」


サクラは 帰るために魔法陣へと向かった。





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