55話 ブリしゃぶ
白と黒のシンプルな色合い
白と黒は表裏一体
光と影を表すものか……
どちらが裏で どちらが表か
二色の円がくるくると入れかわる
それは――――
オセロ
●○●○
「サクラさんは
買ってきましたよ、オセロ。
秋の夜長(もう冬ですが)を楽しく過ごすために。
只今 サクラとイシルが対戦中
だったけど……
「……負けた……
「ビギナーズラックですかね」
イシルが申し訳なさそうに笑う。
そんな
「面白そうだな、オレとやろうぜ」
「次は負けない……」
ランも初めてだ。
「じゃあ、僕は 夕食の支度をしてきますよ」
「あ、私も……」
「切るだけなので、サクラさんはここにいてください」
手伝いに立とうとするサクラをイシルが制する。
「すみません」
そう言って、イシルはキッチンに入って行った。
“パチン、くーる、くーる、くーる、くーる、くーる”
「うわっ!負けた……」
「あはは、サクラは弱いなー」
そして、ランにも負けました。
「オレが勝ったからな~何してもらおうかな~」
何を当然のように言い出すんだ……
「いや、そんな約束してないし」
ランが すっと 目を細める。
「この世は弱肉強食……」
そして すりっと サクラの隣に滑り込む。
「勝った者が全て」
サクラの肩を抱き、するっと肩を撫でながら、甘えた声で
「今日は寒いから……サクラのベッドで寝ていい?」
サクラはジト目でランを見る。
あざとい顔してるなぁ、ランよ。
自分の顔面偏差値をよくわかってらっしゃる。
お外では有効でしょうね、このイケメンホストめ。
「……いいよ」
「いいの!?」
「私がランのベッドで寝るから」
「意味ないじゃん!」
ランはサクラの耳に口を寄せる。
「一緒に、寝ようよ」
「――――そういうことは」
「イデデっ!」
キッチンから戻ったイシルが サクラの肩に置かれたランの手をとり、捻っている。
「僕に勝ってからにしてください」
第三ラウンド開始
イシル(白○) VS ランディア(黒●)
″パチン、くるっ″
″パチン、くるっ、くるっ……″
(あれ?)
意外にも、ランのほうが優勢だ。
″パチン、くるっ″
ランはあまり考えてないのか、 打つのが早い。
感覚で打っている感じだ。
逆にイシルは、少し考えたり、置こうとして 戸惑ったりしている。
そして、圧倒的に ランの黒が多くなる。
″パチン、くるっ、くるっ……″
ランがニヤニヤしながら、ノリノリで攻めまくっている。
(でも、角はイシルさんがおさえてるし……)
まだランは角を一つもとれていない。
″パチン、くるっ″
″パチン、くるっ、くるっ……″
(さっき私、角とったのに負けたんだった)
“パチン、くるっ、くるっ、くるっ……”
(このまま ランが勝つ かな?)
“パチン、くーる、くーる、くーる、くーる、くーる……”
(んっ?)
“パチン、くーる、くーる、くーる、くーる、くーる……”
「なんだよ、コレ……」
気がつけば形勢逆転。
「……真っ白」
全部白のオセロなんて……初めて見た
「僕の勝ちですね」
「なんだよコレー!?」
ランが信じられない!と雄叫びをあげる。
「食事にしましょう。二人は負けたので皿洗いですよ?」
◇◆◇◆◇
今日の夕食は『ブリしゃぶ』
脂ののったブリがキレイに皿に盛られている。
白く美しい旨味のみえる
二層にわかれて身がしっかりと詰まった上品な
見ただけで美味しさが溢れてる。
「「いただきます!!」」
早速しゃぶしゃぶします。
まずは背身から。
端でつまむ。
これぞブリ!て感じですよね、背身って。
黒っぽい皮目で、照り焼きでよく使うとこだ。
しゃぶ、しゃぶ……身がほんのり白く色づく。
やり過ぎてはいけない。かたくなっちゃう。
まずは単品で ポン酢につけていただく。
「はぐっ……んー!」
柔らかいのに 身がしまっているのがわかる。
しゃぶしゃぶの半生だからこその味わい。
寒ブリの甘い脂が口にひろがる。
次は 腹身。白い皮目。
見るからに脂がのって、テラテラ光ってる。
霜降り状態までしゃぶしゃぶする。
「はむっ…………んふ~溶けた~」
背身より脂が多くて、とろっとした濃厚な味わい!
口の中で溶けた!とろけたよ!
今度は野菜と一緒に。
野菜は 水菜、豆苗、えのき、大根、長ネギ、豆腐、白滝 わりとあっさりめの野菜ばかり。
「ブリの味を楽しみたいですからね。香りの強い野菜は今日は控えました」
なるほど!そういう考えもあるのね。
味が強いものとのコントラストが楽しめても美味しいけどね。
春菊とか、三つ葉とか。
大根は細長い千切りみたいに切ってある。
あ、そうか、水菜、豆苗、えのき、大根、みんな同じ長さにしてあるんだ。
細やかだな……イシルさん。
ランも文句なしで食べている。
サクラとイシルの箸がお揃いだと怒りだしたのだが、ランは箸が使えないから、仕方がないじゃん と 納得させた。
「〆はこれで」
「おこげ……ですか?」
「ええ」
炊いた麦を寄せて オーブンで焼いたものだ。
これに ブリしゃぶのダシをかけて食べる。
パチ、ピシッ と、おこげが水分を吸って割れる。
「フー……ススッ」
レンゲで崩して口にいれる。
アゴダシにブリからでた脂が溶け出していて やさしく、深い味わい。
そこに、おこげの香ばしさがひろがる。
「ゴリ、ゴリッ」
水分を吸いきらない歯応えのあるうちに、さくさくのまま食べて、
最後にダシの味のしみ渡ったところも味わう。
おこげは味の変化が贅沢だ。
焼おにぎりでも美味しいだろうなぁ……
お豆腐も ダシで味わう。
あたたまる~
「「ごちそうさまでしたー」」
この後、ちゃんとランと二人でお片付けしましたよ。
「二度とイシルとオセロはやらない」
と、ランがぶつぶつ言っている。
ランは よっぽど悔しかったのか 青筋たてながら 皿を洗う。
″ジャブジャブ……パキッ″
″ジャバジャバ……パリン″
「……ラン」
″ザブザブ……パキャッ″
「ん?」
″ザーザー……ガキッ″
「わざと?」
力が入りすぎて、皿が割れているよ?
「全部、割ってるよね?
「そう?」
″ガショガショ……バキッ″
「……かわるよ」
「本当?サンキュー」
まぁ、完膚なきまでに やられてたからなぁ……
オセロで 真っ白って……
「いたっ!」
ランが割った皿の破片があったのか、サクラは手を切ってしまった。
「サクラ!」
つぅっ と、赤い血が流れる。
「大丈夫、ちょっとだか」
『ぺろっ』
「ら!?」
『ぱくっ』
「なっ///」
ランが サクラの切れた指先を 口に含む。
「ちょ、ラン!」
結構恥ずかしいよ、コレ!
「大丈夫だから!」
サクラの抗議もおかまいなく、ランが傷口をちゅるっと吸う。
(うわあぁ!)
ざらり と、舌で舐める。
(ひいぃぃ!)
ちゅぷっ と、指をくちびるから放すと、治療の魔法をかける。
『ヒール』
ほわん、と 指先があたたかくなり、スーッ と、傷が消えていく。
「……ありがとう」
「いいよ、別に」
皿洗いを再開。
(……ん?)
サクラは ふと 思い至る。
(ヒールだけで よかったんじゃない?)
ちらっ と、ランをみると、ニヤリと嗤われた。
(しかも怪我したの ランのせいじゃん!)
腑に落ちない サクラであった。
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