54話 ラルゴの意外な能力
今日は イシルと一緒に村にやって来た。
モルガンにお土産を渡してもらうために。
本当は 自分で渡して、喜ぶ瞬間を見たいのだけど、それよりも早く使って欲しいから。
モルガンへのお土産は イシルにまかせて、サクラは『踊る銀狼亭』へと 仕事に向かい、サンミに頼まれていた口紅を渡した。
「ありがとう!助かったよ!いくらだい?」
「いえ、お代はいいですよ」
「そうはいかないさ、こんないいもの」
お金を請求したらプレゼントの値段がバレてしまうではないか……
不本意だが、サンミは引かない。
「……そうですか?じゃあ……」
一本350円のプチプラ商品。
サンミには朱色のぷるぷるとマッド5本ずつの 10本渡したから
3500円だ。
「3500¥で」
「意外と安いね」
物価は
サンミがお金を渡す。
渡されたのは 35000¥
「サンミさん、3500¥ですよ?」
「一本がだろ?」
「いえ、全部で」
「…………そんな安いわけないだろ、気をつかわないどくれよ」
「いえ、本当に」
サンミは中々信じてくれず、結局 10000¥握らされて、なんとか折り合いをつけた。
良心が痛む……
「今日は ジャガイモ剥く量が多いですね」
「それがさぁ、昨日『コロッケ』食わせろて客が多くてね、ないって断ってたんだけど、そうもいかなくてさ」
「コロッケ……ですか?」
「今日出す約束しちまったんだよ」
どうやら ラルゴに渡したコロッケが原因らしい。
「ラルゴのヤツが ペラペラと吹聴しまくってるらしく、コロッケ目当てにこの村に来た客も いるくらいなんだよ」
「えっ!凄いですね、それ」
「この村、何もないだろ?そのまま帰すのは悪いからさ」
「……なんか、すみません」
「いや、ありがたいがんだよ、サクラ。ここで売れれば 外までジャガイモを売りに行かなくていいんだからさ」
なるほど。
この村は加治屋と農家の村だ。
ほぼ自給自足でなりたってはいるが、全てではない。
やはり 金は必要な訳で。
加治屋はまだ客が勝手に買いに来てくれるが、野菜はそうはいかない。
だから、村人で組合を作り ローテーションを組んで、定期的に町の商人ギルドまで売りに行っているのだ。
(特産品のジャガイモで作ったコロッケが美味しかったら、ジャガイモも売れるかもなぁ……)
なので、今日もはりきってジャガイモの皮をむく。
我が相棒、ピューラーにかかればあっという間さ!
茹でて潰して下ごしらえ。
コロッケは二種類仕込む。
挽き肉コロッケとカレーコロッケ。
ワンプレートに 千切りキャベツと マヨネーズ、キュウリ、トマトを添え 丸パンを二個つけてのご提供。
ワンコイン。安い。
「あ、そうだ、忘れてた」
サンミに ウスターソースを渡す。
「なんだい、これ」
「コロッケのソースです。つけて食べてみてください」
サンミは 試し揚げしたコロッケに ウスターソースをつける。
「なんだい!このソースは!甘酸っぱいのに 塩気もあって……コロッケに合うね!」
ネットで検索したウスターソースのレシピを渡し(イシルに書いてもらった)
作り方を教えた。因みにサクラは作れません。えへ。
と いうことで、買ってきたウスターソースもココットに入れて添える。
「噂以上に旨いな!」
「なんだこのソースは、食べたことのない味わいだ……」
「サクッ!あふ、あふ……出来立てはこんなに……」
「初めての食感だな……まわりのサクサクは何なんだ?」
「パンにはさむとまた違うなぁ……この白いクリームみたいなのがまた……キャベツとパンに合うね!」
その日 コロッケは大人気で、他のメニューが出なくて困るほどだった。
揚げるだけだから、簡単ではある。
ワンコイン。計算も早い。
単品でコロッケを買って帰るお客さんも多かったし、
来たお客さんの中には、ラルゴから分けてもらったという人もいた。
ラルゴさん、
揚げたてに更に感動してたなぁ……
ウスターソースも好評だったし、マヨネーズも。
きっと宣伝してくれるだろう。
「これなら、早目に人を雇ったほうがいいかねぇ……」
コロッケの意外な売れ行きに、サンミはぽつりと呟いた。
夜の分も仕込んだはずなのに、足りそうもない。
「コロッケ食いたくて泊まった客もいるんだよ」
この村に来る商人の多くは 武器商人か、金物屋だ。ラルゴみたいな。
他の商人達は この村が目的ではない。この村は 先にある大きな町に行くための中継地点でしかないのだ。
食事をしたり、休憩がてら物を売ったりして、旅立つ。
大きな町から次の大きな町へは この村を含めて3つ程あるから、
必ずしも皆がこの村にとどまるわけではないのだ。
この辺は 危険地帯ではないから 宿泊費を浮かせるために野宿する者もいるくらいだし。
だから、『笑う銀狼亭』は、食堂は賑わっているが、宿の方は冒険者も含めて 7、8人宿泊すれば多い方なのだ。
客室をみせてもらったことがあるが、この宿は 快適さより、寝床確保重視のようだ。
一つの部屋に 二段階ベッドが3個ある 6人部屋が2つ。
これは、サンミが冒険者時代に経験した
「とりあえずベッドで寝たいが、金はかけたくない」
から来てる、冒険者に優しい価格設定の部屋。
いわゆる雑魚寝部屋。知らない人とも相部屋です。
『踊る銀狼亭』一番人気の部屋。
同じタイプで 二段階ベッドが2個ある 4人部屋が2つ。
「パーティー全員で仲良く相部屋」
パーティーに 男も女も関係ないぜ!てことらしい。
一人部屋は4つだ。
「プライバシーが必要な商人用」
24人入れば満室てことだ。大抵 6人部屋と 個室利用が多い。
「大部屋二つとも使うなんて 久しぶりだよ」
仕事が終わり、外に出てみると……
なるほど、村の入り口広場が、いつもより賑わっている。
人が多い。
朝見なかった顔もちらほらいる。
入れ替わりが激しいのかな。
きっと夜もコロッケがでるのだろう。
三の道を通り、モルガンの家へとイシルを迎えに行く。
「おお!サクラ!」
モルガンの家につくと イシルはもう帰り支度を済ませていた。
「丁度出るところでしたよ」
「すみません、遅くなりました。忙しくて」
「
気に入ってもらえたようだ。
「茶もさめにくいし、持ち手がないだけで、なにやら
「私も柄が気に入りましたよ」
イシルもモルガンに同意する。
「家では見せてくれませんでしたからね」
「二人一緒に開けて見てほしかったんです」
おでんの柄。
イシルが
「さて、ランディアが拗ねる前に帰りますかね」
イシルがサクラの手をとる。
「あ、あの、イシルさん……」
モルガンがニヤニヤ笑ってる
「モルガンさん、何笑ってるんですか」
「仲がよくて いいのぉ~ほほえましいわぃ、気をつけて帰るんじゃぞ。」
「じゃあモルガン、また」
イシルが挨拶し、サクラの手を引いて モルガン家を後にする。
「……イシルさん、人が……見てます」
「そうですね」
「手を……放しませんか?」
「そうですね」
「聞いてます?」
「そうですね」
「聞いてないじゃないですか」
「聞いてますよ、サクラさんの声を」
「じゃなくて、私の意見を聞いてくださいよ」
「嫌ですよ」
「えっ!」
「だって……」
イシルがサクラを見て笑う。
「帰ったらランディアに邪魔されますから」
「は?」
「僕だって一人占めしたいんですよ。本当は」
サクラはぼんっ、と、顔が赤くなる。
よくも さらりと 恥ずかしげもなく 言えますね……
クスクスと イシルが笑う。
どこまでが冗談なんだ……
「湯呑み、本当に嬉しかったんです」
ぽつり、ぽつりと イシルが話す。
「僕の事を考えてくれたんだな、って」
嬉しそうに
「湯呑みを使うために、モルガンのとこに、遊びに行きますね」
その言葉を聞き、サクラも笑顔で答える。
「はい」
村人達が モルガンと同じような目で見ていたことは おいといて……
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