47話 おでん
あの後 イシルに 風魔法の操作を教えてもらい 虫干し体験をした。
イシルほど華麗にはいかなかったが、気持ちよくページをめくることが出来た。満足だ。
最後にもう一度イシルにやってもらい、うっとりながめながら午後を過ごした。
――――夜
食卓の真ん中に お鍋がどーんと置いてある。
温かい湯気が立ち上ぼり、ダシのいい香り。
「昨日サクラさんが朝サンミのところに行ったあとに作っておきました」
昨日の夜は帰ってこられなかったからね。
一日ずれた晩ごはんは 冬の定番
『おでん』
サラダのかわりに 塩揉みキュウリ。
キュウリとミョウガを手でちぎり、袋にいれ、塩と昆布だしを入れて揉む。これだけで一品できてしまう。
「……一応聞きますが、こんにゃくとかって」
「僕が作りましたよ」
やっぱり。豚汁の時に思った通りだ。
「時間だけはありますからね、楽しみのひとつなんですよ、新しい事をやるのは」
作ったら亜空間ボックスに入れておけばいつでも作りたてをだせるってわけだ。
「いただきましょう」
サクラがプレゼントした箸を手に イシルは幸せそうにおでんを食べる。
「いただきます」
サクラも相伴にあずかる。やっぱり 大根から!
大根に 箸をつけると すっ と入る。
一口に割って 口に運ぶ。
じんわり あたたかい やさしい味が口に広がる。
「ん!味染みてるー!」
次はさつま揚げ。
この練りもののおかげで おでんが美味しくなる。お魚さんありがとう!
ゴボウ巻き、生姜入り、玉ねぎ入り、枝豆入り……イシルさん色々作ってるなぁ……
「練りもの種類結構ありますね、すごい。玉ねぎ天とか、甘くて美味しいです」
「よかったです」
「こんにゃくなんかぷりぷりですよ!」
イシルも嬉しそうにしている。
塩揉みキュウリにも端をつける。
″しゃくっ ぼりっ″
キュウリを手でちぎってるのが口当たりを良くしている。ミョウガが香っていいアテになる。
居酒屋メニューの本があったからな……そこからかな?
「呑みたくなる味ですね」
「少し、呑みますか?」
お酒は少量であれば飲んでもいい とは神に言われたが……
「いえ、今日呑んだら大変なことになりそうなので」
「そうですか?」
悪魔を潰した人と呑んだら大変デスヨ
「明日仕事ですし」
誤魔化す。
イシルも塩揉みキュウリに箸をつける。
とても綺麗な箸使いだ。
サクラは、気をつけないとばってん箸になってしまうのに。
そういえば、はじめて一緒に食べたミルフィーユ鍋の時も サクラは、スプーンで食べたけど、イシルは豆腐を箸で食べていた。
「イシルさん、箸使いキレイですね」
「そうですか?」
ええ、持ち姿が素敵すぎます。手がキレイなのもありますが。
「シズエに厳しくなおされましたからね」
″もやっ″
あれ?まただ。
なんか もやっとした……
厚揚げ、こんにゃく、鶏肉、手羽肉、がんも つみれ……
玉子も味が染みて 白身はぷりっと、黄身はほくっと
巾着は 餅は入ってないけど 刻んだ椎茸、ヒジキと鶏ひき肉で作ったつくねが詰まっていて、油揚げから出汁が じゅわっとにじんで 絶品だ。
どれもこれも
「おいひいぃ」
はふはふします。
「作ったものを食べてもらえるのは嬉しいものですね」
イシルが照れている。レア顔ごちそうさまです。かわいい。
「もったいない……」
「サクラさん?」
「こんな美味しいものを二人だけで食べるなんて勿体ないです」
これ、みんなにも食べてもらいたい。
そして、今の顔をもっと見たい。
「明日、みんなにもっていったらダメですか?」
「みんなに、ですか?」
イシルが怪訝な顔をする。
迷っているようだ。
「私、イシルさんが楽しそうに料理してるの、好きです。一緒に料理するのも、好きです。人に振る舞ってるときに見せる笑顔が、一番好きです。」
村に行こう、と、直接は言えない。
オブラートに包みたいのは強制したくないから。
自分から行く気になってほしいから。
「サンミさんや、モルガンさんに 食べて欲しくないですか?」
伝わりにくいかな……
「モルガンさんが、将棋指しに来いって 言ってましたよ?」
「モルガン……ですか」
イシルの表情が和らぐ。
あぁ、会いたいんだな、とわかる笑み。
「シズエさんのお茶、飲ませてもらいました」
「緑茶をですか?」
うん、いい反応。
「まだ、育てていたんですね、あの植木」
イシルは懐かしそうに目を細める。
「三人でよく将棋を指していたんですよ」
「仲良かったんですね」
「ええ。三人とも長く生きてますから、感じるものが近いんでしょうね」
「ん?」
はて、違和感。
豆腐が好きで、甘味が好きで、お酒が好きなシズエさん。
湯たんぽを使い、植木をいじり、将棋を指し、鬼平を愛読するシズエさん。
洋食苦手 早寝早起き 箸使いに厳しく、1200歳のイシルさんと 精神年齢が近い???
「……みなさん、いくつなんですか?」
「シズエは確か……60を過ぎてましたね」
は?
「モルガンはもうすぐ270歳です」
(イシルさん、まさかの熟女好み!?
いや、イシルさんからしたら 熟女じゃないのか。
エルフとドワーフ……人間で言ったらいくつなんだ??
エルフは見た目が変わらないからまったくわからん!
不老不死という話もあるくらいだからなぁ……)
「ところで、サクラさん」
「はい」
「サクラさん、昼間、本を開きましたよね」
昼間?……あ!イシルさんに閉じられた本
「文字が読めないのに、何の本かわかりましたか?」
イシルの声が少し硬い。なにかマズかったかな
「いえ。でも、天体の本かなと。星が降るイメージで、魔法みたいだなと思いました」
イシルは少し考える。
その
そんなサクラを見て、イシルは安心させるように 笑顔を作る。
「すみません、不安にさせてしまいましたね。サクラさんは 魔法を起動させる能力が素晴らしく高いんです。魔法操作も上手いし、魔法の掛け合わせも難なくできていましたよね」
あれだ、お湯芸。掛け合わせ。
魔法操作は、昼間の虫干しのことかな。
「ですから、持っていない属性の魔法でも、サクラさんが今持つ属性を掛け合わてイメージすることで出来てしまうんです。」
昼間の本の魔法は 隕石がふってくるやつだから 属性は……無?
どうやったんだ?あ!重量魔法(体重測定)もってた。
「それなのに、魔力量が低いんです」
「エネルギー不足てことですか?」
「そうですね。」
「じゃあ、どんな大魔法を起動させても、発動した威力が低い?」
「ええ。」
ガソリンの少ない高級車
電力の足りない高性能パソコン
奏者が素人のストラディバリウス
そんな感じ。宝の持ち腐れ。
ただ、 と イシルは続ける
「魔力量を出しきってしまうと、サクラさんが危険です」
「私が?」
「はい。それで死ぬことはありませんが、動けなくなります。時間がたって、体力、魔力が回復するまで」
たしかに、それは危険だ。HP1 MP1 空腹で、一歩も歩けないてことだ。
「敵の前で 動けなくなるということは 死を意味します」
そりゃそうだ。
「起動だけなら問題ありませんが、発動してはいけません」
考えるだけなら大丈夫だけど、えいっ!て出しちゃいけないのね。
「僕がいないときには 絶対に使わないように」
「……はい」
今、フラグが立った気がした。回収されなきゃいいのに……
そんなこんなで、おでんのデリバリーはうやむやに終わってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます