46話 虫干し







昼ごはんの片付けを終えて リビングにいくと 窓が全開に空いていた。

イシルが何やら 重そうな本を テーブルや 椅子の上に並べている。


(何かの儀式?)


イシルが真ん中に立ち、胸の前で 右手を左から右へすっ、とスライドさせる。


″ぶわっ″


「!」


風が舞う。


その風により、本のページがぱらぱらぱらっと めくれる。

全てのページをめくり終ると ぱたん、と 閉じて 風が外に出ていって 止んだ。


キレイだった。何の儀式かわからないけど、手品を見ているようだった。


「なんですか、今の」


「あぁ、サクラさん」


イシルはめくり終わった本を回収しながら サクラをみた。


「速読術……とか?」


イシルはくすりと笑う。


「僕は本はじっくり読みたい派です」


「同感です」


本を読むときは浸りたい。


「単なる虫干しですよ」


「なるほど……キレイに全部めくれてましたね」


本の虫干しは、本を立てて90度以上180度以内の角度で広げたまま数時間放置するか、ページをめくりながら空気に触れさせる。


そうすることで、虫を払い、湿気が飛び、本を長持ちさせるのだ。


あんな華麗なる虫干しは初めて見た。

イシルが指揮者で、風を操り 本がそれに合わせて 演奏しているみたいだった。


「本を痛めるといけませんからね。意外とが要ります。」


サクラも 本を片付けるのを手伝う。


「古そうな本ばかりですね」


重々しい装丁の本、美しい表紙の本、流れるような文字の本……

サクラは、その中の一冊をめくる。


「サクラさん、異世界こちらの文字読めました?」


「いえ、さっぱりです。」


神はそんな能力くれなかった。


その本には文字と共に 宇宙、星々、ブラックホールなど、図解らしきものがえがかれていた。


天体の本?星が降ってる

……魔法?

あれみたい、某ゲームの究極魔法の――――


″ぱたん″


「え?」


イシルがサクラの後から手をまわし、サクラの手に自分の手を重ね本を閉じた。

自然と後から抱きしめられる形になる。


「あの……」


サクラの手からは銀色の光の粒子が、イシルの手からは赤紫の光の粒がわずかに舞っていた。


「文字……読めないんですよね?」


後から被さるようにサクラを包んでいるイシルが 確認するように聞く。

いつもより低い声が すぐ耳元でして、ぞくり とした。


「読め……ません」


「そうですか」


イシルはサクラの手から本を抜き取ると、別の本を渡した。


「これなら読めます」


渡された本は


『鬼○犯科帳』


もしや……これは……


「シズエさんの……?」


「愛読してましたよ。」


罪を憎んで人を憎まず。こう来たか。


じゃあ、イシルさんは シズエさんにをした訳じゃないのかな?


サクラは、少し ほっとする。


(ほっとする?)


サクラが じぶんの感情と迷宮巡りをしている隣で……


イシルは サクラの手から抜いた本を亜空間ボックスにいれた。

究極魔法無属性解体書 』






◇◆◇◆◇





″ピコーン……ピコーン……″


″ガガガガガ……ザザサ……″


機械音の中心で、その人物はほくそ笑む


(……みつけた


ついに反応があった……


ようやく私の研究が実を結ぶ


ククククク…………


もうすぐ 最強の力が手に入る


待っているがいい、愛しい人よ


ククククク……ハーッハッハッハッハ!!!!!)


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