45話 オムライス







サクラは 家につくと すぐに 風呂場に追いやられた。

そして、風呂からでると 今度は ベッドに追いやられる。


風呂からあがったら 疲れが出たのか 眠くて仕方がなかったので、申し訳ないが 甘えることにした。


ベッドに入ると、体が沈むように重くなり 眠りに堕ちてゆく。

寝る前の腹筋は今日は勘弁してくれ 神よ。


昨日一日で いろんな事があった。


イシルが村に来てくれて

遺跡を見に行き

お墓参りをして

イシルの過去を聞いた。

大アドベンチャーでしたよ。色々と。


イシルは最終的にこの地に戻り 魔力の研究をし、戦友の墓守りとして 静かに暮らすことを選んだのだ。


別世界にいるのに、更に別世界での出来事のようだった。


本当にいろんなことがあったのに、思い浮かんだのは

髪を切った おかっぱ頭のイシルも きっと イケメンなんだろうな、ということだった。





◇◆◇◆◇





いい匂いで目が覚めた。


「丁度呼びに行こうと思っていたところです」


キッチンに降りると、イシルが既に昼食の支度をすませていた。


「すみません、やらせてしまって」


「よく眠れましたか?」


「はい、おかげさまで。イシルさんは眠れましたか?」


元気いっぱいをアピールする。


「僕は……」


イシルがはにかむ。


「なんだか眠れなくて」


すみません、神経図太くて。

すみません、自分だけぐっすり寝ちゃって。


食卓には イシルが用意した料理が 温かい湯気をあげている。

そのメニューは……みんな大好き


『オムライス』


「ふおぉぉぉ!!」


サクラの目がきらきらと輝く。


飴色のオニオンスープに

ロメインレタスのシーザーサラダ

みんな大好きオムライス!


「「いただきます」」


はじめはやっぱりサラダから。


ロメインレタスは 切らずにばらしただけで、舟形の葉のまま、シーザードレッシングとチーズがかかっている。

ベーコンもクルトンもなし。

ナイフで切るなんてしない。フォークで刺して 贅沢にかぶりつく。


″ぱきゅっ、しゃくっ、しゃくっ″


パルメザン独特のチーズくさいシーザードレッシングは 胡椒とニンニクが程よく効いて いくらでも食べられそうだ。


「んふっ」


ロメインレタスは瑞々しくて、サラダ野菜にしてはシャキシャキと歯応えがある。


飴色の玉ねぎスープは、オニオングラタンスープのパンもチーズもないバージョン。


玉ねぎを飴色になるまでバターで炒めて コンソメを加えるだけ。


「トロトロですね」


玉ねぎの香ばしさがたまらない……この、ちょっと苦いっぽい鼻にぬける香りは 他のスープにはない味わい。

イタリアンパセリが ぱらっとかけてある。


「オトナの味ですね~」


「大げさですね」


イシルがおかしそうに笑っている。

美味しそうに食べているサクラを見て 嬉しそうだ。


さて、メインのオムライス。


いわゆる昔ながらのオムライス。

チキンライスを薄い卵で包みトマトソースがかかっている。


もちろん、とろっとろの卵にデミグラスソースのかかったオムライスも美味しい。

だがしかし!目の前に出されて心踊るのは、この、昔ながらのオムライス!だと思う。

それは サクラがいい年だからなのだろうか……


スプーンではしっこからすくう。

中は麦をチキンライスにしてあった。


「はぐっ」


口に入れる。懐かしい味。

家庭の味。

家で作る お母さんの味……


あぁ、そうか、子供の頃の記憶が、オムライスをきらきらしたものに 変えているのかもしれない。


記憶は連動する。


音を聞くと当時を思い出す。

匂いを嗅ぐと 場所を思い出す

見た目、味、形、色

そんなものが、思い出すきっかけになる。


『オムライス』というのは、そういうきらきらした特別な日の記憶につながっているのかもしれない。大げさかな。


サクラは オムライスをもう一口ほおばると、プレゼントをもらったみたいな表情かおをする。


「やっぱりサクラさんは 食べているときが一番魅力的ですね」


イシルがうっとりと見つめていることに 気づかない サクラであった。






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