39話 イシルVSサンミ







「どういうことですか!」


珍しくイシルが大きな声を出している。


「何がだい?」


サンミに対して。


ここは『笑う銀狼亭』の裏庭。ランチも終わり、サクラは今客席で食事中だ。

因みに今日の賄いは日替りのミックスグリル マッシュポテトぬき。サラダプラスで。


「何でサクラさんが 表に立って接客してるんですか?仕込みの手伝いだという話しでしたよね?」


イシルはサンミのところに通うことで 少しずつ異世界こっちに馴れてくれればと 思っていたのだ。


「サクラがやりたいって言うからさ」


「君を信じてサクラさんを託したのに……どうしてがついてるんですか?」


やっぱりそこに食い付いてきたか、とサンミは思う。サクラにハンカチを持って帰らせたのも 他の男の存在をにおわせるためだった。

こんなに血相変えて すぐに来るとは思わなかったが……

これでじかに話ができる。

さて、どうもっていくか……


「ラルゴは、別に変なヤツじゃないさ。ちゃんと仕事してるし、普通の人間だよ。」


「そんなことを言ってるんじゃありません、手紙に書いた通り、サクラさんはの常識がわかっていないんですよ?」


「常識が違うったって、サクラだって子供じゃないんだから 心配しすぎだよ」


「まだ早いと言ってるんです」


「アタシに託したんだからアタシの判断に任せて欲しいもんだね」


「何かあってからでは遅いんですよ」


サンミはここで引っ掻けてみる。


「そんなに心配なら アンタがついて来ればいいじゃないか」


「僕が来られないから君にお願いしたんです」


駄目か。


「しょうがないじゃないのさ!一日中見張ってろってのかい?」


「そうは言いませんが……」


「アンタは慎重すぎるんだよ、昔っから」


「君は考えなさすぎです」


ラチが空かない。サンミは攻め方を変える。


「あんまり構いすぎると 嫌われるよ」


「何を……」


現世あっちでは そういうのを て 言うんだってね」


「…………」


「イシルさん うざ~い」


可愛い子ぶってサンミが言う。死語ですが。


「…………サンミ、キモチワルイ」


変な空気が流れる。


「頭は冷えたかい?」


「すみません」


イシルは はぁ、と 息きを


「まったく、久しぶりに会ったと思ったら……まぁ、元気そうで何よりだよ」


やっとゆっくり話ができる。

サンミは調子を変えて イシルに話しかける。


「サクラがハンカチを忘れなかったらどうするつもりだったんだい?」


「サクラさんはハンカチ忘れてなんかいませんよ」


イシルはしれっと言う。


「だって、さっき……」


「僕が抜きましたから」


「何だって?」


「サクラさんを送る時に ポケットから抜きました」


サンミはあきれ顔だ。

そういう なしで 村に来るのはまだ気が引けるってことか。

サンミはダイレクトに聞いてみる。


「まだ、村に顔を出す気にはならないのかい?」


「……ええ」


「気にしてるのはアンタだけだよ」


「……」


「みんな待ってる。サクラだって願ってる」


「サクラさんが?」


やっぱりサクラが鍵のようだ。の心を開ける鍵。悪いが使わせてもらう。


「モルガン爺さんのとこで聞いたんだと。アンタが村に来ない理由を。」


「モルガンにも会ったのか、サクラさんは」


イシルは少し辛そうな顔をする。


「アタシが会わせたんだよ」


「何でそんな事……」


「アンタが村に来ない理由、聞きたいけど聞けないって感じだったからさ。好きでもない接客なんかやってるのも アンタのためだよ。アンタが村に顔出しやすいように、皆と仲よくなりたいんだとさ」


「サクラさんが、そんな事を……」


「見ただろ?あの張り切りっぷりを。アンタが村に来ただけで あんなに嬉しそうにしてさ、可愛いじゃないか」


「そう……ですか。世話をかけました」


話しはここまで、と 切り上げて サクラのもとに戻ろうとする。


(まだ弱いな……)


イシルを説得しきれていないと感じたサンミは もうひとつ スパイスをくわえる。


「今朝のサクラの顔 ありゃ泣いた後の顔だよ。目が腫れてただろ?」


イシルはいぶかしげに サンミを見る。


「サクラさんは寝過ぎで腫れたと言っていましたが」


「信じてたのかい?」


「だって……」


「そんなベタな言い訳を?」


「…………」


「随分心配してたよ…………アンタのこと」


イシルの顔に 動揺と焦りの色が浮かぶ。すぐにサクラのもとへ向かおうとした。


「ちょっ、ちょっ、待ちなって」


サンミはあわてて イシルを掴む。


「離してください!」


「問いただしてどうすんだい!野暮なことはするんじゃないよ」


「ですが!」


「駄目だって!」


サンミはイシルを掴む。


″ぐんっっ――――「ふんっ!!」――ぶんっ!!″


「うわっ!」


サンミは渾身の力でイシルを引っ張り 後ろに投げ飛ばした。

イシルは ヒラリと 受け身をとり 着地すると、忌々しげに言い放つ


「相変わらず力ですね」


はあんただよ」


サンミは大きくため息を吐く。


「長く生きてたって、女心はわかんないんだねぇ……」


残念なものを見るような目でイシルをみた。


「何ですか、その目は」


「いや、アンタのそんな姿 久しぶりに見たなと思ってさ」


「…………」


狼狽うろたえすぎだろ」


サンミは可笑しそうに笑った。





◇◆◇◆◇





「少し、歩いて帰りましょうか」


村の門を出ると イシルがサクラに提案する。


「そうですね、明日お休みですし」


村の塀を周り、魔方陣のある場所を過ぎ、砂利道を歩く。

旅人が通るため、少し広い道だ。

舗装されてるわけではないが、荷馬車も通るため それなりに慣らされている。

そこから 森へと 脇道に入る。獣道だ。

猟師やキコリが使っている道。


「コスモスが咲いてますね……キレイ」


サクラは見るからに機嫌がいい。

嬉しさを表に出さないようにしているようだが、駄々もれである。


「摘んでいきますか?」


「じゃあ、少しだけ」


イシルの問いかけに サクラは楽しそうに返事をし、花を摘む。

イシルはそれを眩しそうに眺めている。

キラキラした 大切なものを 眺めるように。


赤、白、ピンク、黄……色とりどりの秋桜コスモス


「あれは 洞窟……ですか?」


秋桜を摘みながら進んでいると 山肌にぽっかり黒い穴が空いているのがみえた。


「動物とか住んでるんですかね?」


行ってみますか?とイシルが聞くので 行ってみることにした。








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