36話 真相







思わぬとこころから情報をもらってしまった。


サクラはとぼとぼと モルガンの家へ歩く。

黄色い屋根の 小さな家。


「ごめんくださーい」


返事がない。

門をくぐり 庭のほうにまわってみた。

鍛冶の作業場がみえる。


「すみませーん、サンミさんとこから来ましたー」


「はいなー」


庭先に小さなお爺さんが姿をみせた。

小さいけど ガッシリとした体の 白いひげのおじいさん。

七人の小人を思わせる。


「サンミさんからこれを届けるように言われました」


「おぉ、ご苦労さん、すまんな、そこにすわんさない」


「お邪魔します」


今日は サンミのとこの包丁を手入れしてくれるようだ。

バスケットには 包丁と、お礼のお昼とお金が入っていた。


モルガンがサクラにお茶を出してくれた。


「あんた、人間かい?人間の女の子なんてめずらしいのぉ」


包丁の手入れをしながら モルガンが話しかける。


「サクラです。よろしくお願いします」


「ワシはもう鍛冶職は引退しててのぉ、趣味程度で作っとるくらいじゃ。じゃから、のんびり庭いじりとかしとるよ。客が来てくれるのは 嬉しいねぇ」


あぁ、おばぁちゃんちの縁側を思い出す。和むわぁ


「お茶頂きます」


カップに口をつけると いい匂いがした。


「緑茶ですね!おいしい」


久しぶりに飲む緑茶は ほっとする。


「あんた、緑茶を知っとるのかい?」


「はい、えーと、故郷(?)の飲み物ですから、わっ!」


モルガンがいつのまにか隣にきていた。

ガシッ と サクラの手を掴む。

こぼれる!お茶!


「あんた、シズエと同じとこから来たんか!」


そうか、そうかと モルガンは涙ぐんでいる。


「イシルさんとこにおるんじゃな?」


「は、はい、お世話になってます」


モルガンさんは シズエさんに会ったことあるんだ。


「このお茶はな、あの庭にある鉢植えの葉から作ったんじゃよ。シズエに苗をわけてもらってなぁ」


異世界こっちにはないものなのか、茶葉として使わないだけなのかな?


「あんなことがなければなぁ……」


サクラがきょとんとしていると、モルガンが すまんすまん と 座り直す。


「あんたは知らんのか」


モルガンが意外そうにサクラに聞く


「何も……」


「まぁ、本人は言わんじゃろうからな」


「私、聞いてもいいんでしょうか」


「みんな知っとる話しじゃ」


サクラには知っておいて欲しい と、モルガンが話し出す。


「七年前、シズエが帰った後の話しじゃ」


シズエは突然いなくなったわけではなかった。

イシルにも村の人にも、きちんとお別れをして、故郷に帰ったのだと。

イシルの落ち込みはひどかったが、村にはちょくちょく顔を出していたそうだ。


「一年程たった頃な、この辺では見られん 強い魔物の群れがでたんじゃ。イシルさんと 冒険者達が 討伐隊を組んで 駆除に行ったんじゃ。サンミも行ったぞぃ」


「冒険者だったって言ってましたもんね、サンミさん」


「ありゃ 水を得た魚のようにイキイキしとったわ。よく宿屋の女将おかみなんかで満足しとるよ」


「未だに狩の時は腕がなるって」


「そうじゃろ、ドーリがよく手綱たづなを握っとる」


ドーリはサンミの旦那さんだ。


「イシルさんは強かった。強すぎたんじゃ」


何かのうっぷんを晴らすかのように イシルは魔物を倒し続けた。

涼しい顔をして 圧倒的な強さをもって敵を殲滅し 返り血を浴びながら戦うその姿は神々こうごうしく、美しかった。そして……恐ろしかった。


「冒険者どもには恐怖だったんじゃよ」


自分達との圧倒的力の差。

まざまざと目の当たりにした蹂躙劇。


「そんな!だって、村を守るために……」


「村のもんはわかっとるさ。ただ、流れ者の口から口へ噂が流れ、この村にはほとんどよそから人がよりつかんようになった」


「…………」


「お前さんも聞いたことないかい?森の奥の家には近寄るな と」


「それらしいことは聞きました」


青ひげの話だ。ウワサの七年前いなくなった人 とは シズエさんのことか。


「大分面白おかしく脚色されとるようじゃがな。」


「じゃあ、イシルさんは、村のために 村に来ないんですか?」


「そうじゃな。おかしな話しじゃろ?別によそ者なんて来んでもかまわんのに」


イシルさんは優しい。本当に、やさしい。


「村のもんはイシルさんに帰って来て欲しいんじゃが、あの森を越えられるもんがおらん。もうほとぼりも冷めとる。気にしとるのはイシルさんだけなんじゃ。なにか切っ掛けでもあればのぉ……」


チラッ と モルガンが サクラを見る


「え?」


「切っ掛けでも……」


「私!?」


モルガンがにんまり笑う。


「イシルさんをたのむぞぃ、サクラ殿」


はぁ!?


モルガンは包丁を仕上げてサクラに渡す。


「将棋でも指しに来いと言っといてくれ」





◇◆◇◆◇






今日の賄いは サクラが作った。


『唐揚げ』


今日の日替わりチキンステーキで使わなかった鶏肉をリメイクだ。

どうしても、どうしても食べたかった!


異世界では揚げる料理はみたことがないから、もしかしたら無いのかもしれない。

ついでにポテトも揚げときました。サンミさん達のために。


そして、唐揚げといえば マヨネーズ!

マヨラーです、私、はい。

マヨネーズは糖質はそんなに高くないんですよ。

カロリーハーフとかの方が糖質高いんです。


お昼なので 好きなもの食べます。えへ。

ゆで卵を加えたタルタル風のも作りました。

チリビーンズもでてます。

今日早速 チリドッグ売ってましたから。


唐揚げは塩味。もとのチキンステーキに下味付いてたし、丁度いい。ここには醤油もないし。

衣に水を多めに入れて 糖質オフ。


山盛りのキャベツを添えて、レモンも少し。


今日もなんとか接客業を終え、一人でランチ中。


今日はローニが早目に帰ったので、サンミは宿の片付けに行ってしまった。


「すぐ戻るけど、先に食べてな、遅くなるとイシルが心配するから」と。


出来れば揚げたてを食べて欲しいから、早く来ないかな、サンミさん。


じゃ、お先にいただきます!


マヨネーズをつけて 口に入れる。


「んー!」


衣のザクッとした食感と じわっと溢れる肉汁。

これこれ!求めていた味!


キャベツともよく合う。

今日もパンを 控えめに一個。

丸パンだから、半分に割って 唐揚げを挟み タルタルをかける。あ、キャベツ、キャベツ。


唐揚げサンド!


「はぐっ、んふっ」


「美味しそうに食べるねー」


「んぐっ!」


唐揚げに夢中だったから 人が来たの気づかなかった。


「ラルゴさん」


「名前覚えてくれたんだー」


「……いつからいたんですか?」


ラルゴがテーブルの前にが頬杖をついてすわっていた。


「サクラちゃんが肉を口に入れたときから」


ラルゴは 皿からポテトを摘まむ。

ポテト 食べないから良いけど。


「旨いな!なんだこれ」


「ジャガイモに粉ふって揚たのに塩ふっただけですよ」


「これも、もらっていい?」


唐揚げも食べたそうだ。

情報をくれたし、いいかな。


「どうぞ」


レモンを絞ってあげる


「旨い!」


だろう、唐揚げを嫌いな人はあまりいない……はず。


「サクラちゃんは料理も上手うまいんだねー」


なんか楽しそうだなラルゴさん

頬杖をついたまま ぽや~っとサクラを見ている


(食べづらいな)


でも、唐揚げの魔力には勝てはしない。

唐揚げサンドを食べ終わり、再び唐揚げにかぶりつく。

今度はチリビーンズと贅沢に。


さくっ、じゅわ~っ


「んー!」


「なにやってんだい、あんた」


「あ、サンミさん、終わったんですか?」


サンミが戻ってきた。

温かいうちに食べてもらえそうだ。


「サクラ、口拭きな」


「え?」


「テラテラだよ」


あわわ、お恥ずかしい、唐揚げの油が


「これ使いなよ」


ラルゴがハンカチを渡す。


「すみません」


「ほら、店は夕方からだよ、関係ないヤツは帰んな!」


ラルゴはサンミさんに追い出される。


「わかったよ、サクラちゃん、またねー」


ごちそーさん! とラルゴが出ていく。

何故かサンミにジト目で見られた。


「昨日忠告しただろ?」


「?」


「ヤローの前で その顔するなって」


サンミはそう言いながら ポテトを口に入れる。


「なんだこりゃ、旨いじゃないか!」


「ジャガイモに粉ふって揚げたのに塩ふっただけです」


サンミはさっきのラルゴと同じ反応をした。


食べながら 唐揚げとフライドチキン、ポテトの話をして、口紅の話しになった。

旦那とラブラブ度があがったと。

ごちそうさまです。


「サクラはつけないのかい?」


「あ、つけちゃダメだと言われましたので……」


「へぇ~」


サンミがニヤニヤ笑う。


「サミーとミディーも 旦那に 頼むからつけないでくれと泣かれたとさ」


「違うものの方がよかったですかね」


「何言ってんだい、あんないいもの、つけるに決まってんだろ」


案外ドワーフってかかあ天下なのかな?


それからモルガンの話しになり、イシルの話しになった。


「そうかい、聞いたのかい」


「はい。連れてこいって言われても」


「そうさねぇ……」


サンミはテーブルの上のラルゴのハンカチを見る。


「簡単さね」


サクラをみて ニヤッと笑う。


「このハンカチを持って帰ればいいだけさ」


サクラは不安になる。

サンミのこの顔は 何か企んでいる時の顔だから……




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る