32話 神の御前で




「どうですか?調子は」


シュコシュコと音がする。

腕に巻かれたマジックテープに空気が入り 腕が締め付けられる。


「あれ?」


プシュー と 音がして 腕が解放された。


「血圧136-80ですね」


私 イシルさんの髪を編んでて……あれ?


「少し高めですが、問題ないでしょう 薬を飲んで気分悪くなったりはないですか?」


目の前に神(医者)がいる。

ということは、二週間たったのか。


「大丈夫です」


「79.4kg 、体重も少し減ってますね」


今まで、ずっと停滞していた体重が ちょっとだけど減った!

あんなに食べてたのに?

夜は我慢したけど、今までやったダイエットに比べたら モリモリ食べてたよ?


「体質が変化するまでなかなか落ちていかないものですが、頑張っているようですね」


神(医者)は ちょっと嬉しそうに カルテに書き込んでいく。

まるで 夏休みの ヒマワリの観察日記でもつけてるように。

ほめられるとやる気が出る。

神(医者)よ、私はいいヒマワリになるよ!


「また同じ薬を出しておきます。次回は血液検査しますので、朝ごはんは食べてこないように」


「わかりました」


「では、二週間後に。次回の予約は入れていってくださいね」


ありがとうございました と ドアを閉め 診察室をでる。

普通に。何事もなかったかのように物事が進んでいる。


「異世界、夢……だったのかな?」


いや、二週間たってるし、その間私何してた?てなるじゃん。それに……

頭を触ってみると キレイに編まれたハーフアップの髪。

ランがくれた髪紐もついていた。

これは自分じゃできない。


「薬をもらったらもう一回神(医者)に会いに行こう」


サクラは次回の予約を入れて 薬局へ向かう。


「シズエさんはこっちからいろんなもの持っていったって言ってたなぁ」


サクラは薬局による前に 買い物をすることにした。


「まずは生活用品かな」


現代のものはやはりいい。

生活用品は使いなれたものじゃないと落ち着かない。

ファッションセンターで異世界あっちでも大丈夫そうな物をかう。見えないところは大丈夫!


次は雑貨屋。


「イシルさんに何かお礼でも……あ」


綺麗な塗り箸……

持ち手が黒地で、金の桜模様。

先端にかけてだんだんメタルな緑色にグラデーション変化している。

イシルさんお豆腐好きだからな……

使ってた箸はシズエさんが持ってきたのかな?


「これにしよう」


ついでに自分のも買う。色違い。

持ち手が黒地に銀の桜模様、メタルピンクにグラデーションがかってる。

これくらいのお揃いは許してくれ シズエさん。


某百円均一にも寄る。


「これが欲しかった」


切実に!!

それは……ピューラーだ!野菜の皮剥き。

サンミさんのとこで山のようにくじゃがいも達よ、覚悟するがいい!


娯楽グッズも見ていこう。

ランにも何か買わないとな。


もう二軒ほど店をまわる。


人波、車の走行音、建ち並ぶビル

日常って、こんなだったな。

二週間いなかったはずなのに、遠い昔のように感じるのは異世界むこうでの出来事の方だった。


「色々買ったけど……行けなかったらどうしよう」


神(医者)は異世界むこうのことは 何も言ってなかった。

聞いたら頭がおかしいと思われるかもしれない。


なんやかんや思っているうちに薬局へ到着。


「いらっしゃいませ」


薬剤師のお兄ちゃんに声をかけられ 処方箋を渡す。

あれ?このお兄ちゃん、こんなだったっけ?

もっとイケメンだったような……


「少しお待ちくださいね」


爽やかな笑顔 目の保養~とか思ってた気がしたんだけど……

そうか、イシルさんやランのおかげでイケメン基準があがっちゃったんだ。

ヤバいな、あれに慣れてはイケナイ。

社会復帰出来なくなる。

シズエさんは一年ほど異世界あっちにいたとイシルさんが言っていた。

一年も一緒にいたら、確実に好きになってしまう自信がある!!


「ここで終わりにしたほうがいいのかも」


甘やかされ 励まされ 女の子扱いされ あり得ないっしょ!と思ったけど 正直嬉しかった。

見た目のコンプレックスも 払拭ふっしょくするるほどに、自分のと 接してくれた。


引き返すなら今だ。好きになってからでは遅い。

傷は浅いうちに塞がなければ!

お礼も お別れも言えなくて申し訳ないけど、一年たってからじゃイシルさんも情が移ってまた寂しい思いをするかもしれない。


……神(医者)からのプレゼントだったと思おう。

二週間のホームステイ。 合宿だったんだ。食事制限のやり方の。

自分を説得する。現実を見ろ。自分に言い聞かせる。

一人でも頑張れる!私はいいヒマワリだ!!


「二週間分のお薬になります」


サクラは目の前の現実イケメンに挨拶すると、薬局の自動ドアを開け 神(医者)のところではなく 自宅へと向かった。






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