30話 旅立ち

朝日が差し込む。

どうやら窓が開いているらしい。

人影がみえる。


「……ラン?」


冷たい雰囲気のキレイな顔が 窓辺に頬杖をついてこっちを見ていた。


「おはよう サクラ」


ランは八重歯をみせて 人懐っこい笑顔をむける。


「何してるの?」


「見てた」


「?」


「寝顔」


なんてヤツだ

サクラは起き上がる。


……起き上がれない。


「!?」


背中がイタイ

肺のあたりがイタイ

足の付け根がイタイ!!


明らかに 筋肉痛。

あれだけで!?


「起き上がれないの?」


サクラはこくこくと首を縦にふる。


「筋肉痛は動けば治るんだよ」


知ってます。


「オレと一緒に ベッドで運動する?」


ランが妖しくわらう。


「毛深い男はイヤですー」


たまには反論してやらないと


「あんなにオレのカラダ毛皮撫でまくってたのに?」


その言い方は語弊があるだろ!!

子猫だったじゃないか!!


ランはしなやかに窓辺に脚を組み直して座ると

すっ と ズボンの裾をめくった。


キレイな足がみえる。


「オレ、今、完・全・体ニンゲン


なんだと!?


「ヤっとく?」


バーーンと ランがサクラの結界で弾かれる音響く。

その音を聞きながら イシルは黙々と料理をしていた。





◇◆◇◆◇





朝から凄いものが並んでいた。

それは……

ステーキ。


ランが嬉しそうに食べている。

ステーキだけではない。

ポークソテー、チキンソテー、魚のグリルに ハンバーグ

肉肉しい料理の数々……


「……これは」


どうしちゃったんですかイシルさん?


「……リクエストで」


「え?」


「あ、オレ、オレ」


ランがモリモリ食べながら言う。


「オレ、今日旅立つからさ」


「え?」


「昨日街で聞いてきたんだよ。港町の方でそれらしいヤツを見たって」


あ、ランは人を探してるって言ってたっけ。


「サクラのおかげで人化してる時間がのびたからさ、ちょっくら行ってくるよ」


「そう、なんだ」


ランはからかう調子でサクラに聞く。


「寂しい?」


「……うん」


サクラの返事に ランが キョトンとする。


「何?」


「……いや」


「何よ」


ランは再び おどけた調子で言う。


「イシルの結界さえなければ 絶好のチャンスだったのになー」


「?」


ランがニヤリと嗤う。


「サクラ 動けなかったし」


ブレないチャラ男キャラありがとう。

どんな時でも ランはランだった。





◇◆◇◆◇





くるくると 花弁がまわる。


「着替えと 食事はある程度 亜空間ボックスに入っています」


「サンキュー、イシル」


「お金は持ったんですか?」


「おう」


「生水はのまないように」


「わかってるよ」


「港町ですからね、生魚を食べる時は……」


「わかってるって!」


甲斐甲斐しいなイシルさん。

心配なんですね。


ランがサクラに近づく。

手の中で くるくるともて遊んでいた花をサクラの髪に挿す。


「挨拶だからな」


ランはサクラに近寄ると ぎゅっと抱きしめる。


「いってらっしゃい」


サクラはそっとランの背中に手を添え、頭を撫でる。

ランの腕に力が入る。


「運動、サボってないか帰ったら確認するからな」


「うん」


「イシルにあんまり近づくなよ」


「うん?」


『ふにっ』


ランがサクラの脇腹をつまむ。


「ひゃあ!」


「じゃあな」


ぴょん と 飛び退き イシルにすれ違い様に呟く。


「ぬけがけすんなよ」


「それは約束できませんね」


「帰るまで待ってろ」


「僕は待ちませんよ」


だから と イシルは続ける


「早く帰ってきなさい」


フン と ランは 鼻で嗤う


「やっぱ 気に入らねぇ」


子猫の姿になると ぴょんぴょん と 消えていった。





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