28話 自己嫌悪
リビングのソファーに サクラがしょんぼり座っている。
「薬草茶です。すっきりしますよ」
「……すみません」
イシルはサクラにお茶を渡すと 隣に腰をおろす。
あんな醜態をさらし、世話をかけ、穴があったら入りたい……
イシルの顔が見れない。
「ごめんなさい、クッキー無駄にして」
やめられなかった。止まらなかった。
勿論、美味しかったのもあるが、食べたいという衝動を抑えられなかった。
「そんなことはいいんです」
イシルは優しい。よくなんかない。折角くれたのに無駄にした。
情けない。不甲斐ない。自分に腹が立つ。
「イシルさんは私に甘すぎますよ」
怒られたって仕方ない 呆れて当然のこと。おバカすぎる。
「僕が甘やかしたいんです。サクラさんは自分に厳しいですから」
「私は自分に甘々ですよ」
じゃなきゃこんな体型になってないし
あぁ、自己嫌悪
「僕は知っていますよ。貴女はちゃんと変わろうとしている。食事に気を使っていることも、体を動かすと決めたことも、夜中に空腹をお茶で紛らわせていることも」
「それは……神に言われたし」
サクラは基本的に真面目だ。
義務教育の産物か、
サクラは今、自分の決めたルールの中で生きている。
ゆるゆるのルールだが、ルールを破った罪悪感が拭えないでいる。
「今サクラさんは自分を許せないでしょう?」
「はい。面目ないです」
「だから、かわりに僕が許します」
「へ?」
サクラは思わずイシルを見る。
「サクラさんのかわりに僕が許します」
イシルはサクラを見て微笑むと ふわりと 頭に手をのばし、優しく撫でる。
「許されてください」
イシルは撫でていた手を自分の方に引き寄せ サクラの頭を ぽふん と 自分の肩にのせた。
「失敗してもいいんです」
ゆっくりと、
「今度は 僕と一緒にたべましょう」
「……はい」
「貴女はよくやっています。馴れない場所に来て 気を使ってよく動く」
耳に心地いいイシルの声
「無理をしているのに自分で気づいていないんですね」
サクラは 自分の心が落ち着いていくのを感じていた。
「僕がいるから 大丈夫」
イシルはサクラの頭に こつん と 顔を寄せ 頭を
イシルの綺麗な金の髪が さらり と落ちる。
あれ、よく考えたらだいぶ恥ずかしいな コレ
近い ていうか 密着……ですよ?
意識したら 急に恥ずかしくなってきた
「サクラさん?」
頭にイシルの声が響く。
「……はい」
イシルはサクラの頭を抱いたまま 少し上をむかせ 目線を合わせる。
サクラはびっくりした目でイシルをみる。
「目がこぼれ落ちそうですね」
クスッ と イシルがわらう
「閉じてください」
閉じる?目?目を閉じろと!?なんで!!
「……閉じて」
サクラはぎゅっと目を閉じる
心臓がばっくんばっくんうるさい。
イシルがふんわりと笑った気がする
空気に甘さが増したのがわかる。
そして……
サクラを少し引き寄せ……
イシルが動く気配がして……
サクラに近づく……
くちびるが……
『バーーーーン!!』
突然、派手な音をたてて玄関の扉が空いた。
ビックリしてサクラは目を開ける。
「ゼー……ゼー……ゼー」
リビングに肩で息をしながらランが現れた。
「ラン、街に行ったんじゃなかった……の?」
「行ったさ」
キッチンに入ると、水をガバガバ飲んでいる。
「早くない?」
サクラはリビングからランに声をかける。
口を腕で拭いながら戻ってきたランがイシルを睨む。
「イヤな予感がしたから速攻で帰ってきた」
ズカズカとソファーまでくると、イシルとサクラの間に無理矢理座った。
そして イシルの方を向き、笑顔でこう言った
「メシ、まだ?」
イシルはやれやれ、といった風にキッチンへとむかう。
「あ、手伝いま……ひゃっ!?」
サクラも立ち上がり、イシルの後を追おうとしたところで 強く腕を引かれた。
そのまま座っているランの上に倒れ込む。
「ほわっ!」
真上にランの顔が見える
「ラン?」
不機嫌な顔のラン
「サクラ、なんで顔赤いんだよ」
「え?」
サクラは思わず自分の頬をさわる。
……顔が熱い
ランは 腕の中のサクラの髪をくしゃくしゃっと かき回した。
「え! ちょ、何!?」
サクラは髪を直そうと 頭に手をあてる。
「やる」
サクラの頭に 不格好に
「髪、邪魔だろ、運動の時」
ランはぷいっとサクラから顔をそむける。
「街に行ったついでだから」
どっかりと ソファーに座り 足を組み、不遜な態度のラン
だけど、耳が真っ赤だ。
「ありがとう……運動、ちゃんとやるね」
サクラはランの頭をくしゃっと撫でると、キッチンへ手伝いに行った。
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