27話 よ~く考えよう (おからクッキー)






時は少しさかのぼり……

サクラが村へ行った後 イシルはランの部屋にやってきた。

結界の中で人化したランが つまらなさそうにベッドに転がっている。


「出せよ」


不機嫌なランが静に威嚇する。


「サクラさんの睡眠を妨害しないと言うならだしてあげます。それとも 自力ででますか?」


イシルの結界を破るなんてできるわけがない。

かといって このまま言いなりになるのも 面白くない。


イシルのことは別に嫌いではない。

人探しの途中 たまたま此処に辿り着いて、年に何回かしているだけだった。

向こうも野良猫に餌を与えてるくらいにおもっているのだろう。 付かず離れずの関係。

単なる顔見知り。


「イシルはさ、何に遠慮してるわけ?」


唐突に ランが尋ねる。

イシルは 言われた言葉の意図がわからず 眉をひそめる。


ランが『ぽいっ』と をイシルに投げる


「『シズエ』ってヤツのせい?」


昨日イシルがランに渡した湯タンポだった。


「……関係ありません」


「へぇ」


関係なくなんかないのは イシルの顔に書いてある。

ランは更に追い討ちをかける。


「イシルにとって 全てを手に入れるのなんて簡単なことだろ?」


「買い被りすぎですよ。僕にそんな力はありません」


いちいちしゃくにさわる言い方をする。

力を持っているくせに使わない、ランには理解できない。

追い出そうと思えば 力ずくでも ランを追い出せるのに。


イシルは続ける。


「その欲しいものは 本当に力で手に入るものですか?」


弱者は強弱に勝てない。

それは自然のことわりだ。

ランは今まで そうやって生きてきた。

じゅつをかけられ、捨てられ 生きていくためにはなんでもする。

人を騙し、欺き、惑わし、利用する。


「それは、力ずくで得られるものですか?」


なんだっていうんだ、余計なお世話だ。どうしろってんだよ。

掻き回してやるつもりが 自分が掻き回される


「どうしたらいいのか、考えてみた方がいいですよ」


そう言って イシルは 結界を解いた。


去り際にぽつりと呟く


「サクラさんは帰る場所がある人です」







昼過ぎ

ランは村から帰って来たサクラの部屋を 窓から覗く。

サクラがベッドの上で腹筋をしていた。


「何やってんの?」


ランはサクラに声をかける。

欲しいものを手にいれるために……







◇◆◇◆◇





お腹減った……


今日のお昼は サンミさんとこでクリームチキングラタンを食べた。

チキンたっぷりで、クリーミーで、ペンネが少し入ってて、チーズがトロトロで

美味しかったなぁ……


ランと運動、(というほどしてないけど)したから 余計かなぁ……


とりあえず今、サクラは温かいお茶を飲みながら 自分の空腹をまぎらわせている。


ランはどうやら 街に行っているらしい。

行くのに二こくくらいかかるってって言ってたから、二時間?往復するだけで四時間はかかるのだろう。

今日はもう帰ってこないのかな。


それにしても お腹減った


「サクラさん、これ、どうぞ」


机に突っ伏していると、イシルが『トン』と 机に小袋をおいた。


「なんですか?コレ」


「開けてみてください」


サクラは カサカサと紙袋をひらく。


「クッキー!?」


「はい、以前知り合いから分けてもらって、亜空間ボックスに入れてありました。よかったらどうぞ」


「いいんですか!ありがとうございます!あ、でも……」


間食はダメだよね?


「それは砂糖も小麦粉もつかってませんから」


なんだと!そんなお菓子が!?


「ただ、水分で膨れますから、食べ過ぎないように」


あ!あれか!おからクッキー。


「お茶と一緒にどうぞ」


「イシルさんは食べないんですか?」


「僕はもう少しやることがあるので」


そう言って 研究室に戻っていった。


イシルさん!最高です!!

サクラはクッキーを一枚出す。

シンプルなプレーンクッキーだ。


「一見 普通のクッキーだなぁ」


『ガリッ』


「硬っ!」


普通クッキーって『サクッ』とイメージなのに、『ガリッ』ときた。

瓦せんべいかと思った……

かむと『ゴリッ、ボリッ』と 音がする。

かみごたえ抜群。頭に響くな。でも……


「……おいしい」


思わず顔が へらっ となる。

やっぱり間食はやめられない。


素朴な素材の味と 癖になるかみごたえ

サクラはもう一枚取り出す。


「チョコチップだ!」


『ガキッ……ゴリ』


苦めのチョコだが、それがまた美味しい。

かむたびに カカオの風味が広がる。


紅茶、アップル、マーブルの五種類を味わう。


「もう一枚ずつくらい……いいかな」


サクラはもう一杯 お茶を入れる。


映画を観ながら ポップコーン

友達とおしゃべり ポテチをつまみ

本を読みながら チョコを食べる

ああ、至福のひととき






◇◆◇◆◇






「サクラさん?」


研究室から戻ったイシルはサクラに声をかける

サクラは少しうつむいて 青い顔をして座っていた。


「サクラさん!」


様子がおかしい。

イシルは テーブルの上を見る。

空になった紙袋


「全部食べたんですか」


サクラは小さくうなずく。

そう、開けた袋は全部食べる。

今まで残したことはない。


水分で膨らむこのクッキーは5枚も食べれば満足するはずだ。

噛むのに時間もかかるし、ゆっくり、お茶と一緒に。

水分が少なかったのか、食べるのが早かったのか、後からクッキーがふくらんできたのだ。

20枚、全部食べたということは 相当苦しいはず


「吐いてください」


イシルがバケツをもってくる。

サクラはふるふると首を横にふる。


「苦しいでしょう、吐いていいんです」


せっかくイシルがくれたのに吐きたくない。

食べてしまったのは自分だ。責任もって消化する。

イシルは水をとりだすと サクラに勧める


「飲んで」


サクラは首を横にふる


「飲みなさい」


イシルの言葉に強制力がかかる

いやだ、もったいない。


「飲まないと口移しで飲ませます」


サクラはびっくりして顔をあげる。


「飲んで」


真剣な顔したイシルの気迫に負けて サクラは水を飲む。







……吐いた。








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