24話 真夜中の攻防




音もなく 影が動く


薄暗い廊下 サクラの部屋の前で

ドアに手をかけようとしたところを ランはイシルに呼び止められた。


「そんな所で何をしてるんです?」


心の中で舌打ちしながらも、やっぱり来たか と、イシルを見る。


「嫌だなー、寒いからだんをとりにきただけだよ」


さも当然と言わんばかりに ランは悪びれもせず答える。


「サクラ体温高いから 一緒に寝るとあったかくて」


ちゃらけた調子で続ける。


「サクラさんに手はだせません。ゆっくり寝かせてあげなさい」


どうせサクラの結界によってはね飛ばされるだけ てことだろう。だが、ランは引く気はない。

サクラはが違う。

イシルがサクラに構うのもそののせいなんだろう。

どういう環境で育ったのかはしらないが、

そのに触れると、ふんわり、満たされた気分になる。

悪魔に言わせれば 魂が甘い と 言うかもしれない。

オレだって、が欲しい。

優しく撫でてくれた あの手が欲しい。


「サクラがいいんだろ?」


ランは妖しく チロッと唇を舐める。

獲物を狙う獣が 狩を楽しむ前のように。


だと思われなければさ」


その気にさせてしまえばいい。

そう言って 妖しく嗤う。


「邪魔するなと言ったはずだが?」


イシルの言葉にけんが増す。いつもの余裕綽々な態度が崩れるのは愉快だ。


「邪魔なんかしないよ?イシルがの邪魔はね。でも、人の心まではどうにもならないからね」


獲物をもてあそぶ猫のような目つきで

ランがクスクスとたのしげに嗤う


「オレは食べたいものは最後まで残したりしない。誰かにたべられちまうかもしれないからさ」


イシルが何に遠慮してるのかなんて知らない。

愚図々々している間に オレがもらう。


「それとも……」


ランはイシルに すりっ と近づく。

音もなく しなやかに。

そして イシルの耳許で ささやく。


「イシルが一緒に寝てくれてもいいんだけど?」


イシルは鬱陶しそうにランを振り払う。


「お前と遊んでる暇はない」


「あれ?行っちゃうの?」


挑発にのってこないイシルに少々物足りなさを感じたが、遊び足りない分は サクラに楽しませてもらおう。


ランはサクラの部屋の扉に触れた。


『ふにっ』


「?」


『ふにふにっ』


「??」


薄い膜のようなものでさえぎられ、サクラの部屋に入ることができない。


「結……界?」


どうやらイシルが去り際に術を施して行ったようだ。

あっさり引いたと思ったら……


「イシルー!!!」


ランの遠吠えが 闇に 木霊する。

本日、サクラの安眠は イシルによって守られた。






◇◆◇◆◇






『コン、コン』


控え目にドアを叩く音がする。


『コン……コン』


サクラはベッドから出ると 扉に向かった。


「誰?」


返事はない。

ベッドに戻ろうとすると、また、


『コン……コン』


怖いな!幽霊か!?

恐る恐るドアをあけ、隙間から覗く。


「ひっ!」


扉の前に ぼうっ と 小さな人影が……子供?


「お姉ちゃん……」


一見、女の子かと思ったが、発せられた声は男の子のものだった。

かっ、かわいい!!美少年!

小学生くらいの男の子。


「どこから来たの?」


少年はふるふる と 首を横にふる。

かわいすぎる!今すぐ抱きしめたい!!


少年がサクラを見あげる。

あどけなく、うるうるとうるんだ瞳でサクラを見つめる。


「寒い……」


少年は 寒さに震えていた。両手を口にあて、小さな肩が震えている。


「寒いよ……」


少年は両手をサクラにのばす。


「僕を暖めて……」


抱っこをせがむ子供のように サクラを求める。

サクラは その手をとろうと 手をのばす。


「お姉ちゃん……」


少年が嬉しそうにサクラの胸に飛び込む……瞬間 少年の後ろに 別の人影が現れた


「にゃっ!?」


サクラがその手を取ろうとした時、イシルが現れて 少年の襟首を持ちあげたのだ。


「イシルさん!?」


まるで 猫の子を持ち上げるように。


「サクラさん、騙されてはいけません。はランディアです。」


「ラン!?」


ランはイタズラが見つかった仔猫のように 身を竦めている。


は子猫から大人まで、魔力によってどうとでも変化できます。他人にはなれませんが。」


「イシル……余計な事を……はなせっ!」


イシルに捕まれて じたばたしている。

かわいい。


「何にやけてるんですか サクラさん」


あ、おこられた。いや、かわいくて。ランが。


「まったく……」


イシルはランを、ぽいっ と 客室に放り込む。


「いってーな」


ひらりと受け身をとり、首もとをさすりながら 部屋を出ようとする。


『ふにっ』


「?」


何かに身体を押し返された。


『ふにふにっ』


「あれ?あれあれ?イシル?」


ランが部屋から呼びかける。


「出られないんだけど?」


出ようとしても『ぽよん』と 壁がある。


「ええ、結界をはりましたから」


イシルが涼しげな顔で答える。

ランが ぽかん としてる。


「はじめからこうしておけばよかったですね」


なんて、何事もなかったかのように笑顔でサクラに言いながら、ランに背をむける。


「え?ちょっと、寒いんだけど」


イシルは亜空間から を取り出すと、ランに投げて渡した。


「なんだコレ」


「湯タンポですよ?シズエが愛用していました。貸してあげます」


「暖かいですよ」と 扉をしめた。


「ちょっと、イシル?イシルさん?」


スーッとイシルが手をかざすと、ランの声が聞こえなくなった。


「防音をほどこしました。これで眠れますね」


サクラの背をおし、部屋へと促す。


こうして今夜も サクラの安眠は守られた。

そんなこんなの 二日間でした。



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