25話 専属トレーナー


ぎしっ、ぎしっ、と 音がする。


「……16っ……17ぃ……18」


サンミの所から帰って来たサクラが ベッドの上で腹筋中。


「何やってんの?」


窓からランがひょっこり顔を出した。

どうやらお仕置き部屋から出してもらえたらしい。


「ふっ……きんっ……21ぃ……くっつ///」

″ギシッ″


「22いぃ///っ」

″ギシッ″


「23んつっ///」

″ギシッ″


「中々そそるねー」


「24っ?」

″ギシッ″


ベッドのきしみ、上下するカラダ、熱い息……


「オレが揺さぶってやろうか?」


『ぱーーーーん!!』


サクラの結界がランを弾く


「イテーっっ!なんだよ、弾くなよ!触ってねぇし!あっぶねー、ここ二階だぞ!」


「言葉の暴力」


息をするようにさらっとそんな言葉を吐くな ランよ。

それに、二階ごときから落ちても君はものともしないだろうさ。


「地味に痛てーんだよ、


どうせデコピンなみの威力しかありませんが。


「なぁ」


「なにっ!」


「こっちこいよ」


「いやだ」


「オレが教えてやるから降りてこいよ、痩せたいんだろ?」


「え?」


「オレはサクラの従者だからさ、少しは役に立たないと」





◇◆◇◆◇





ランはキレイな筋肉をしている。

しなやかで、無駄のない身体……猫だから?


「いいか、手っ取り早く落とすには、体の中の太い筋肉を動かすんだ。脚・尻・太もも・胸・背中なんだけど……いっぺんにやったって続かないだろ?」


よくわかってらっしゃる、ランよ。私は三日坊主だ。


「先ずは背中、尻、太もも この3つにする。足は肩幅、力を抜いて 真っ直ぐ立て」


ランはどうやら本当に教えてくれるらしい。


「わざわざイシルの目の届く所でやってやるんだからな、触るけど、弾くなよ」


ランはサクラの背中に手を置く。

肩甲骨の下、背骨を挟んで両手を置く。

ランの手の温もりが伝わる。


「ここを意識しろ」


「意識?」


「体はただ動かせばいいってもんじゃない。ちゃんとんだよ。」


「なるほど」


「両手を曲げて軽く拳を握る」


サクラはジョギングポーズをする


「肘から右手を引き上げ、左手は肘から後ろに引け」


サクラは大振りに腕を振る。


「腕を振ることが目的じゃない。ちゃんと背中が動いてるか意識しろ」


背中に意識を集める。腕を振るたび、むにっと肉が動くのがわかる。肩甲骨あたりの。


「ここだよ」


するっ と ランが サクラの腕の裏側を撫でる。

脇から肘にかけて。

手つきが滑らかすぎて ぞわっ とする。


「っ!」


ランがニヤリと嗤う。


「体で覚えないとね。上にあげる手はこの腕の柔らかいとこを突っ張らせるように 上に引き上げろ。ゆっくりでいい」


10回ほどやる。右、左、右、左……


「次も背中を意識して 今度は右手は左斜め前に伸ばし、左手は肘から斜め後ろに下げろ」


戦隊ものの変身ポーズみたい

イテテ……自然と体がひねられる。背中も捻られる。

これも交互にやる。

10回ほど。右、左、右、左……


「次は背中に手を当てて 手のひらで自分の背中の肉を感じるんだ。 足をもう少し開いて 少し腰を落とし 腰を左右に振る。ゆとくりと 」


やってみる。背中っていうか、ほぼ腰の位置までしか手があがらないけど。


左右に腰を振る。


「真横じゃなくて、少し下に……尻を振り子みたいに」


振り子……時計のか。


振って欲しいなぁ」


これは……人前ではちょっと恥ずかしいかも

でも、手のひらに自分の肉の動きがわかる。まさに手に取るように!

できるだけ滑らかにやってみると、背中の肉が蛇のように蛇行だこうする。


「次は前後にも振って」


ぜ、前後?一応やりますが……

後ろに立っていたランがサクラの腰を掴む。

「!!」


親指を骨盤に引っ掻けると、掌で腰をグッと前に押す。


「こうだよ?」


声がちかい!体が近いいっ!


「ヘソから下を上に引き上げる感じで前に出すんだ」


ランが腰の付け根をさわる。


「後ろは尾てい骨突き出す感じで。前、後ろ、前……骨盤を動かすイメージで。」


耳許でランがささやく。


「回せる?」


ランの両手がサクラの臀部を支える。


「お腹じゃなくて


太腿から腰にかけて手を滑らせ なぞる。


「わかる?」


回す?腰を……まわす?ホントにトレーニング??


「誘うように、ゆとくりと、回して」


前後左右の四点を辿たどるように、

浮き輪の内側を描くつもりでゆっくりまわす。


「いい感じ……上手だよ」


腰もぐるぐるするが、頭もぐるぐるする……


ここまで全て10回ずつ、腰回しは反対回しもやる。それくらいしかやってないのに ちょっと汗ばんできた。


「じゃあ、あと一つくらいにしとこうかな。スクワット、できるか?」


サクラはふるふると首を横にふる


「とりあえず やってみろよ」


たしか、足を軽く開いて平行にし、姿勢真っ直ぐのまま腰をおろす。

膝を足より前に出しちゃいけないから……


『グラッ』「ふわぁ!」


体がよろける。


『ぽふん』


後ろに倒れてきたサクラを ランが抱き止めた。


「あ……ありがとう」


ランはニッコリ笑う。


「嬉しいよ サクラから飛び込んできてくれるなんて」


「いや、ちがくて、だから……」


「違うの?」


「重いでしょ!離して~」


「軽いよ」


耳に息をかけるんじゃないー!!

ランは「ちえっ」と、サクラを放す。


「一人では無理そうだね、少し肉が落ちるまでやり方を変えよう。膝に悪そうだから。」


ランは辺りを見回す。


「それなら……あそこでいいや」


ランはベンチをみつけると、サクラを座らせる。


「足あげ30回 地面につけないで。両足いっぺんにね」


スクワットのかわりだ。これならひざに負担がかからない。


「ちゃんと太腿意識してやること。コレくらいなら部屋でもできるだろ?」


「うん。ありがとう、ラン」


「オレ、役に立った?」


「うん。」


ついっ と ランは 頭をさげる


「?」


頭を下げたまま ちらっ と サクラをみる。


これは……

『ランが頭をなでてほしそうに こっちをみている』

だ!!


サクラはランの頭に手をのばす。


『なでなで』


ランは満足そうに笑う。

心から 嬉しそうに。


「サークラっ!」


がばっとランがとびかかってきた。


「わーっ!」


慌てて逃げようとして 後ろから抱きつかれる


「オレは痩せなくて、今のままでもいいと思うよ」


ランが後ろからサクラのお腹をつまむ。

『むにっ、むにっ』


「っっ、腹を揉むなーー!!」


『すぱーーん!!』


サクラの結界がランを弾く。








「何だか賑やかになってしまいましたね……」


イシルは研究室から そんな二人を眺めていた。




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