23話 豚冷しゃぶ

「イシルさん イシルさん 応答願います」


林の中、魔方陣の上でイシルを呼ぶサクラ


『しーん』


あれ?これじゃダメ?

前回は必死だったから、よく覚えていない。

どうしよう。たしか……


『魔方陣の上で僕の事を考えてください』


『僕への想いが強ければ強いだけいいですよ』


無茶ぶりしますねイシルさん。想いて……

よし、感謝しよう。昨日助けてもらったし。


サクラは昨日のことを思い出す。

イシルが助けてくれたこと。


イシルさんが来てくれてほっとしました。

(うんうん、いいぞ。)


剣を構えたイシルさんは五割増しカッコよくて……

(いつも物腰柔らかだからギャップ萌えですね。)


肩を抱いて守ってくれて……

(吊り橋効果のせいかドキドキしましたよ。)


引き寄せる腕は頼もしかったなぁ……ぎゅっ、と

(あれ?もしやこれ 恥ずかしいやつ?)


見上げたらすぐそこにイシルさんの顔が……


サクラは赤紫の光につつまれる。


イシルさんが下向いたら……

そのまま………キス……できちゃう……


光の粒が散っていくと 目の前にイシルがいた。


「おかえりなさい」


「…………」


「どうしました?」


下をむいているサクラをイシルが覗き込む。

そして、クスリと笑う。


「顔、真っ赤ですよ?」


顔があげらない、

……これ、毎回やるの?


「おかえり!サクラ」


ドアから ランが ひょい と 顔を出す。


「イシルがさ、サクラがいいって言えば 一冬ひとふゆだけ置いてくれるってしてくれたんだよ」


「え?」


「すみません、サクラさん。嫌なら 追い出します」


ニコニコ顔のランとは対照的に 珍しくげんなり顔のイシル。

一体何があったんだ?


「あー、私も居候の身なので イシルさんがいいなら……」


「本当!?」


ランの顔がぱーっと輝く。


「サクラさん、よく考えてからでいいんですよ」


ん?イシルさん、やっぱりイヤなの?

今 チッ と ランが舌打ちしたような……


「いいよ、オレ、サクラがいいって言うまで待ってるからさ」


ランが にっ と わらう。

なんか急に殊勝しゅしょうになってコワイな……ラン





結論から言うと ランは決して 殊勝になどなっていなかった。

子猫になったランの攻撃が始まる。


サクラが後ろを振り返ると ドアから半分のぞいて……

『にゃっ』


サクラが洗濯物をたたんでいると 洗濯物の間から……

『にゃん?』


サクラが 食器をしまおうとすれば 狭い棚に挟まり……

『にゃうん』


猫は自分がどうすれば可愛いか知っている。


サクラのリュックの中に入り、手だけを出して

『カシャカシャカシャ』


ひたすらカワイイ攻撃を受けて サクラはその日のうちに陥落した。





◇◆◇◆◇





今日の晩御飯は 豚冷しゃぶ と モヤシのナムル です。


テーブルの上には茹でた豚バラ モヤシのナムル サンチュ キムチ、つけタレとして 味噌 ゴマだれ ポン酢


まずはシンプルに 豚バラとモヤシを一緒に食べる。

あ、今日はキャベツのかわりにモヤシですよ。


『もぐっ……もりっ』


口に入れた瞬間、口の中に胡麻油の風味がひろがる。

シンプルに 塩コショウと胡麻油で控え目に味付けされたモヤシのナムル。

茹でたことで 少しさっぱりとなった 豚バラに 装いをつけてくれている。

そして この歯ごたえ!

モヤシは茹ですぎると残念な感じになっちゃいますよね……

余熱でしんなりなるから、さっ とでOK

サスガイシルさん、茹で加減ビンゴです!


「ふふっ」


幸せの笑みがでる。


「サクラさん、サンチュに巻いてみてください」


次は サンチュに豚バラと味噌を巻く。

慣れないと上手く巻けないよね、コレ。


『あぐっ』


口いっぱいになるけど


「くふふっ」


美味しい!料理的にはシンプルだけど、最高にうまい!

今回は普通のお味噌だけど、コチュジャンでもいいなぁ……

ニンニクも美味しそう。


今度はキムチと一緒に 肉を巻く


『はぐっ』


このキムチは浅漬けだな!さっぱりしてる。


「んー///」


あれだ!ポッサムだ!韓国料理のポッサムみたい!!

あれは蒸し豚だっけ?

そうか……ブロック肉でもいけるのか

生姜とネギとかと一緒に茹でて……


「サクラ 旨そうに食うな」


ランがぽけ~っとサクラを見ている。


「だって美味しいし」


テーブルを挟んでイシルが満足げに微笑んでる。


「やっぱオマエ、旨そうだ」


「え?私?」


「うん。欲情する」


「「 !!? 」」


笑顔で言う言葉じゃないだろ!ランよ。


イシルはランを『がしっ』と 掴むと ずるずるとひきずって玄関まで行く。


「娼館に行ってきなさい」


笑顔で。

ポイっ と。


大丈夫か!?私

あんな節操のないの従者になんかして



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