12話 お昼寝




『はぐはぐ』


じーっ


『もぐもぐ』


じーっ


サクラは黒猫が食べる姿をみつめる


「こういうこと?」


黒猫は美味しそうに飯を食う


『見ていたいんです。貴女が食べているところを』


イシルのあの言葉にどきりとしてしまい、意味を確かめたくなる。でもなんだか聞けない


「世話をやきたくなるってこと?」


たしかに、黒猫が美味しそうに食べているのを見てるのは なんだか心が癒される。

見た目が若いとはいえ、イシルはエルフなんだから サクラよりかなり年上で、サクラなんか赤子同然、庇護の対象なんだろう。


「父性愛……とか?」


なんとか答えの落としどころをみつけないと心が落ち着かない。


『にゃうん?』(ФωФ)?


そんなサクラの悩みをみすかしてか、黒猫がサクラを見てなく。


「かーわーいーい」


思わず顔がにやけてしまう。


「……床に寝そべって なにやってるんですか?サクラさん」


「うおっ!」


イシルが洗濯かごをもって立っていた。

水魔法と風魔法を使って洗濯してくれたのだ。

サクラは風魔法を使えない。

神め……忘れたな……次会ったらつけてもらおう。


「イシルさん!洗濯ですか?私干しますよ」


「お願いいたします」


サクラは洗濯かごを受けとると 庭へと向かった。

今日は絶好の洗濯日和


『ぱんっ!』


洗濯物は伸ばして 叩いて バランスよく干す。

すぐに汚してごめんなさい サンミさん、着替えまで入れといてくれてありがとう!できた嫁だよあんた……


洗濯ものを干し終わると、原っぱの上に黒猫が気持ち良さそうに寝ているのが見えた。


猫って昼寝のいい場所知ってるよね

サクラも昔猫を飼っていた。

上京してからずっと二人でいたのに ある日ふらっといなくなってしまった。

どんなに泣いたか

どんなに探したか


サクラは黒猫の背中をなでる

柔らかい艶やかな毛並みが指に気持ちいい

黒猫は機嫌良さげに ゴロゴロとのどをならす


ふわりと 黒猫の背中に顔をうずめる

あたたかい猫毛が頬をくすぐる

もふもふ独特の匂い……

何年ぶりかに思い出す

一緒にいる間 癒されていたこと、慰められていたこと、分かち合っていたこと……

思い出すと今でも涙が出る。


イシルがサクラを招いてくれたのがわかる気がした。

サクラを見つけたあの場所に足が向いてしまうのも

きっとシズエの姿をさがしている。

いないとわかっているのに。

あのときの自分とかさなる。


孤独の中に突然あらわれた出会いに歓喜し

思い出だけを残して去っていったかけがえのない者。

どんなにさがしてもいない

どんなに願っても会えない

深い悲しみ 虚無感 さらなる孤独を思い知らされる。

神は残酷だ


どんなにがんばってもサクラはシズエにはなれない。

サクラにとってあののかわりなんていないのと同じように。


とろとろと微睡みまどろみながら そんなことを考えていた






◇◆◇◆◇






「サクラさん?」


草原の上に倒れているサクラを見つけてイシルはぎょっとして駆け寄る。

サクラは気持ち良さそうに黒猫と眠っていた。

イシルは安堵して サクラの横に腰を下ろす。


「なんて無防備な」


イシルはサクラの寝顔をみつめた。

やすらかな寝顔…わずかに目元が光っていた。

そっと指でぬぐい、頭をなでる。

ごろん と サクラの隣に横になると 青い空がみえた。


「眩しいな」


白い雲が ゆっくりと流れる

すうっと息を吸い込むと、緑の匂いで胸が満たされた。

こんなに穏やかな気持ちはいつ以来だろう


イシルはサクラの頭に腕を回すと、ふんわりと背中から抱きしめた。


黒猫がうっすらと目をあける


「……邪魔するなよ」


黒猫はイシルのつぶやきに興味なさげに目を閉じる。

イシルも目を閉じて腕の中のぬくもりをかみしめる。

サクラから日向の匂いがする。


「僕は 卑怯だ……」


サクラをはなし、もう一度空をみる。


「僕には眩しすぎるな……」


イシルは自分の腕で目をふさいだ。









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