第10話 「平成」から「令和」の時代に

 狐と山犬が降り立った日本国の世はちょうど「平成」が終わりに近づいて「令和」の時代を迎えようとしていました。


  日本の国政は、それまで衆・参両議院で第一党を保持し、政権を担っていた自由民主党が、平家物語の〝驕れるもの者は久しからず、盛者必衰の理をあらわす〟という言葉さながらに、平成21年に行われた総選挙で歴史的大敗を喫し、結党以来初めて、第一党から転落、政権を当時の民主党に明け渡すことになりました。

しかし、この政権交代は、日米関係の悪化、円高、赤字財政の加速による経済成長の歩止まり、外交、経済共に悪い流れを断ち切ることができませんでした。

脆弱と化した日米同盟と日本の国力が衰退したと見るや否や、中国が、日本の領海領土とする尖閣諸島を自国の領土と主張し、漁船や艦隊を率いて領海侵犯を繰り返していました。そんな最中、領海侵犯した中国漁船が警告を発する海上自衛隊の船にぶつかってくる、という事件が起き、漁船を操縦していた中国人船長は、逮捕されるも、政府は中国側との領土問題の更なる悪化を懸念して無罪放免で中国に返す、という異例の措置をとります。この事件によって、新政権の日本は弱腰外交であることを諸外国に示した格好となり、経済成長著しい中国を益々勢いづかせることとなってしまったのです。

 以降、中国はアメリカの庇護が薄れた日本の領海領土を奪おうと、虎視眈々、連日挑発行為を繰り返し、その強大な軍事力でもって、軍隊を持たない小さな島国に好戦的な圧力をかけはじめていたのです。政府はただ手をこまねいているだけで、教鞭な姿勢を示せない始末でした。

 そうこうしている間に、東日本大震災が起こり、巨大津波による原発事故の発生、それに伴う大損害と復興予算の捻出、震災発生後の対応措置の遅れに原発事故直後の不手際・・・といった深刻な問題が山積してしまうのです。

 歴史的な政権交代は、日本再生どころか、日本の国益を大きく損ねる事態を招き、この国は衰退の一途を辿ろうとしていたのでした。

 さすがに国民もかつては期待を寄せたこの新しい政党に失望の色を隠さず、見切りをつけ、支持率が過去最悪を更新し不支持率が跳ね上がり続けました。その結果、野党と国民からの批判に晒され続け、平成23年、衆議院解散へと追い込まれます。三年と三か月で民主党政権はようやくその幕を閉じるのです。

そして、平成24年の衆議院選で野党に甘んじていた自由民主党が圧勝。再び第一党の与党に返り咲いたのでした。

 自由民主党の安倍晋三総裁は、第96代内閣総理大臣に就任するや否や、過去の驕りから国民の信を損ねてしまったという猛省により、異例の速さで国力回復に向けての政策を実行しました。まず、経済再生を第一に掲げ、円安を実現し、外交では悪化した日米関係の修復を最優先させ、領土問題に於ける中国と韓国に対しては毅然とした対応で臨み、軍による好戦的な圧力に対しても、その挑発には臆さず、経済再生によって国力を回復し、諸外国からの理解を得て、外交による平和的解決をはかろうとしていました。核実験を繰り返し行っては挑発行為を繰り返す北朝鮮に対しては、アメリカや諸外国ととも密に連携をとり、対話と圧力のバランスを維持していました。この結果、円安により日本経済は上昇し、三年と三か月の間に失われた国力は、徐々に回復の兆しを見せ始めていました。

けれど、日本に好戦的な態度で攻め続ける中国と韓国の軍隊の台頭は常に悩みの種でした。この二国間が協力して歴史問題で日本を貶めようとする悪辣な政治情勢に第二期安倍政権は、「平成」から「令和」へと元号が変わったこのタイミングで、憲法改正という一手でもって国防を基礎から見直そうしていました。


 天皇家では百二十五代目の天皇陛下がご高齢であることから退位され、皇太子殿下が天皇の位を引き継がれるという、異例の生前退位が行われました。これにより元号が変わり「平成」から「令和」という世を迎えたのです。従来ならば、改元というものは天皇陛下が崩御され、新天皇が即位して国中が悲しみと自粛の最中に行われる出来事です。けれど、今回の生前退位では、国民がそのような悲しみの感情を抱かずに、天皇陛下への感謝の念と皇太子殿下の即位を心から喜び寿ぐことが出来るとあって、改元前から日本国中がちょっとしたお祭り騒ぎとなりました。

新時代となる「令和」には国民たちの様々な希望や願いが込められてもいるのです。

「平成」という世は戦争のない平和な時代ではあったけれど、経済の悪化や相次ぐ自然災害によって多大な損失と人口減少をもたらした不遇の世でもあったのです。何より、震災で被災した国民は心身ともに疲弊しきっておりました。こうした中で、平成の天皇・皇后両陛下は幾度となく全国の被災地に赴き、国民にあたたかい励ましのお言葉を述べられ続けてこられました。

 平成の終わりに近づくにつれ、日本を取り巻く国際情勢も徐々に複雑になり、周辺国や同盟国のパワーバランスに変化が訪れようとしています。

核兵器を持たないこの小さな島国は、核を持つ三国と隣接し、領海・領土の覇権争いという深刻な問題を抱えています。戦争のなかった平成が終わり、これまで当たり前に思っていた国の安全神話が覆される事態ともなりかねない、こうした中で「令和」の世を迎えたのです。


 そして、ちょうどその頃、天上界では現在の日本国の在り方に神々が疑問を呈されはじめ、思わぬ事態に発展してゆくことになります。

 そんな神々が混乱する最中、仏門の世界より狐と山犬が下界に降り立ったのです。

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