第4話 いざ、修行の旅へ
狐と山犬が観音菩薩のもとで修業を行いはじめ、もう数百年かの月日が経とうとしていました。
そんなある日のこと、狐は観音菩薩にこんな提案をしました。
「観音様、私と山犬はこれまであなたに従事して地上界のあらゆる人々の悩みを聞き、苦難から救うことを学んできました。いつの日にか人間の姿かたちとなって人間界に降り立ちたい、と願っていたからです。しかしながら、獣が人間界に入るにはまず、人々の喜びや悲しみ、苦しみといったものを理解する必要があると教えられてきました。そのためには人々の暮らしに寄り添わなければならない、と。この辺りで私たちも、観音様が行うように、修行僧と成って人々の悩みを聞き、経を唱え、癒しを与えるための修行を行わせてもらうことをお許しいただけないでしょうか? 」
狐のこの言葉に観音菩薩は少し驚かれた表情をなさいました。が、やがて落ち着いた口調で
「狐と山犬、あなたたちが人間に成るにはまだまだ修行が足りません」
と仰いました。しかし賢い狐は、このような師からの答えが返ってくるのを予想していたかのように、
「いくら私たちが悩める人々を癒し、救済したいと願って経を唱えたとしても、姿かたちが狐と山犬のままでは、誰が真剣に耳を傾けてくれるでしょう? 経を唱える真似事をする珍獣が二匹いる、と見世物にされるのがオチでしょう。終日とは申しません、せめて人前に出る日中だけでも人間の姿に成ることをお許しいただき、修業の旅に出させてはいただけませんか? 」
こう観音菩薩に訴えたのです。これには観音菩薩も少しお考えになり、やがて
「ふむ、狐の言い分にも一理あります」
と理解を示されたのでした。
「よろしい。それでは狐と山犬には、陽が昇っている日中のみ、人間に変化することを特別に許可しましょう」
こうして狐と山犬は人間界に降り立ち、修行の旅に出ることとなったのです。
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