第22話 アルバ軍の反乱

 何故か、ナントが持ってきた聖霊樹の木の枝を枕元に置いておくと、エレサは悪夢を見ないようだ。そして、一日経つと、葉が一枚枯れて落ちることが分かった。もう、あと数枚しか残っていない。


 私はエレサが寝ているベットに腰掛けて、髪の毛を直してやったり、身繕いをしてやったりしている。眠り続けるエレサ、もう少し待ってて。きっとお父様が何とかしてくれるわ。


 ナントはあの日以来、エレサの部屋で静かに遊んで、時々、エレサの顔を見て、ポツポツを喋っては、また一人遊びをしている。優しい子だ。


トントン

———扉を叩く音———


 メイドの一人がドアを開けて、何やら話し込んでいる。


 そして少し顔色を変えて、

「王妃様、執務室にお越しください。火急の知らせが届いております」

と耳打ちしてくれた。


「火急? 分かったわ」

と聞いて、私室から執務室へ移った。胸騒ぎがする。


 部屋に入ると大臣のベルナンドに、正規軍軍団長のサイモン将軍、それに最高司祭様とミキア、ロキアと錚々たるメンバーが揃っていた。


 私と最高司祭様が着座すると一斉に席についた。そして、何事か聞くためにベルナンドに顔を向けた。


 ベルナンドは少し青い顔をして、

「アルバ、ファリー大公が謀反を起こしました。今、アルバ軍がこちらに向かっております」


 最初は、

「えっ」

としか言葉が出なかった。


 陛下はガル湖駐屯地から、アルバに、ファリー大公の見舞いに行ったはず。


 それが何故。夫のことは心配になったが、

「今、どの辺りにいるのですか。兵の数と、対応できる我が方の兵は? 」

とサイモンに聞いた。


「敵は総勢二千規模、昨日、ガル湖駐屯地で交戦状態に入った模様。王都守備と偽って門を開けさせた様です。なお、王都守備隊五百は既に位置についております。十万の正規軍本体もクラチ平原から移動中です。ただ、二日はかかるかと」


「五百ですか。教会の方は如何ですか? 」

とミキアとロキアに向いて聞いた。


「五十名の聖霊戦士が控えております。聖職者は城下に行き、市民の避難準備を手伝っております」

とミキアがテキパキと答えてくれた。


「有り難う」


「サイモン、誰かにエレサとナントを非難させてほしい。竜の森が良いかと思う」

とサイモンに告げた。


「り、竜の森ですか」

と少しサイモンは驚いた。


「オクタエダル先生が、探しに行っているので、今は、あの森には居ないわ」

と心配するサイモンを宥めるように答えた。


「それでは、弟のサルモスに同行させましょう。まだ将校上がりですが、機転の利く奴です」

と後ろで控えている、若くはないが落ち着いた感じの将校を紹介してくれた。


「ありがとう」


 ここで、最高司祭様が口を開いた。

「ミキアとロキアも同行させて欲しい」「欲しい」

と双子の聖霊師には机が高すぎるのか、頭の辺りから上しか見えない。


「ミキア、ロキア、良いな。姫君と若君をしっかりお守りするのじゃ」「するのじゃ」

と後ろに控えている二人に命じた。


「分かりました」

「了解しました」

と二人が答えた。


 聖教会最高司祭の次の候補であるミキアとロキアは、エレサ、ナント同様に次代を担う大切な後継者。きちんと自分の置かれた使命について、分かっているようね。


 私は、

「エレサ、ナントを頼みます」

と頭を少しさげてお願いした。


 そして、

「王からの連絡はないのですね」

と皆に尋ねた。


 もし、生死に関わる重大事になっていれば、最高司祭様が感知されて教えてくれるだろう。それがないと言うことは、取りあえずは無事と思う。


「今だ、消息は不明です。ですが ……」

とサイモンは最高司祭様を見た。


「生命の歌は聞こえておる。少し御難に遭ったようじゃが、大丈夫じゃ」「じゃ」

と目を瞑って答えてくれた。一安心である。

「では、皆さん、持ち場に。私は謁見の間で指揮を執ります。サイモンは迎撃の用意を。敵は人属ですから、聖霊魔法は利きません。聖霊戦士の方々は見方の回復に専念してください。ベルナンドは、城外の食料を徴発するように。証書を渡すことを忘れずに。一旦散会、半刻後に謁見の間に作戦本部を置きます」

と宣言した。


   ◇ ◇ ◇


「陛下、ガル駐屯地から伝令です」

と将校がやって来て報告してくれた。明日にはガル湖駐屯地に到着するが、伝令が来たと聞いて、少し悪い予感がする。


「通せ」

と短く伝えた。


 伝令によると、昨日未明にアルバ軍が到着して門を開けると突入を受けた。その後は乱戦状態となり、私に知らせるために伝令としてきたと言う事だ。


「分かった。誰かこの兵士に水と食料を出してやれ」

と伝令を労ったあと、ガル駐屯地に急行することとした。

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