第23話 忠犬



「うちの犬、変なタイミングでうんこするんだわ」


学校の昼休み、飯を食う前にとんでもない爆弾を落としてきた友人A。

なんでも普通の犬みたく端に寄ってとかでも、決まった場所にするでもなく法則性なしに致すんだとか。


「とりあえず、お前も話すタイミング悪すぎるし。やっぱ、飼い主に似るって本当なんだな」

「おいおいおい、俺は有益な情報を共有しただけですが?」

「どこに有益なんだよ、そのクソ情報」

「うんこだけにってか、うまいなお前」

「ぶん殴るぞ」


その後、こいつのペット談義が昼休み中続き、ちょっと会いたくなってきた。

放課後、犬に合わせてくれよと頼んでみるとあっさりOKされた。


「帰ったら速攻散歩だから、付き合ってくれよー」

「おう、いいよ。楽しみだ」

「もふ男は人懐っこいからはしゃぎそうだなー」

「・・・もふ男って、名前じゃないよな?」

「え?名前だけど?」


強く生きろよ、もふ男。


「あ、ちなみにメスね」

「せめてもふ子だろうが!」


そいつの家についてリードをつけて家から飛び出してきたのが、真っ白くてふわふわした犬だった。スピッツとか言ったか?多分、それ。


「よし、行こうぜー」

「おう」


俺はもふ男ちゃんの頭を数回撫でて歩き出した。

舌を出し、しっぽをふりふりと飛び跳ねるように歩いていく姿はとても可愛らしかった。



「いいなぁ、俺も飼いたいなぁ。もふもふ」

「いいだろぉ、うらやまし・・・おわ!あぶね」


友人の言葉の途中でいきなりもふ男がもよしたのか、立ち止まり気張り始めた。

危うく友人がもふ男を蹴りそうになっていた。


「あー、こんないきなり始まるんだ」

「そうんだよ、小便の時は電柱の匂い嗅いだりとかすんのに。これだけは」


友人がかがんでもふ男のそれを片づけている最中だった。

自分たちの目の前には横断歩道があったのだが、そこに赤信号を無視したトラックが猛スピードで駆け抜けていった。


「おー、めっちゃスピード出すじゃん」

「ん?何が」

「今、トラックが信号無視で走り抜けたわ」

「マジかよ、超危ないじゃん」

「もふ男がトイレタイムに入ってなかったら俺らひかれてたかもな」

「あはは、じゃあもふ男はいつも守ってくれてるのかもな!」


友人はそういって笑った。

だが、この言葉が本当にそうだと俺はこいつの散歩に付き合って分かった。

もふ男が催して止まる度、俺らの少し先で鳥のフンが落ちてきたり、子供のキャッチボールで遊んでいたボールがこちらに飛んできたり、様々な事が起きた。

ふと思ったのが、学校にいる時は普通なのだ。

こういう目に合わない。

散歩だけ、こんな目に合いそうなのは、もふ男が何か呼んでいるのだろうか。そして、それに主人を付き合わせないように守っているのだろうか。

まぁ、俺の推測、というより妄想だ。きっとそんな事はないだろうが。


「この散歩ルート、人通りあまりないなぁ」

「あぁ、ここ?ここら辺、昔から事故とか殺人もあった所らしくてさぁ。心霊スポット通りって言われてるんだよね」

「え?」

「まぁ、変な目にあったことないから気にすんな!」


うん、恐らくもふ男はこいつを守っている。そしてこいつがなんか引き寄せてるんだろう。不幸を。

がんばれ、もふ男。恐らくこいつは気づかない。

とりあえず、俺は散歩ルートを変える事をおすすめしておいた。



犬をもふりたいのもあって、散歩に同行する事に。


犬がフンをするのが、飼い主がこのまま進むと不幸になりそうなタイミングだけ。


逆にここまで不幸に見舞われる可能性がある飼い主に引く友人


名前はAという。

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榊原夢の怪談 榊原 夢 @yumechandayo

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