第22話 声真似
私にはお父さんがいない。
数年前に強盗に殺されてしまった。犯人はすぐ逮捕されたけど。
私は学校。お母さんが買い物に出かけていた。
お仕事がお休みだったお父さんは家にいたらしい。そして、お母さんが帰ってきた時には、お父さんは殺されていたみたい。
お母さんも私も最初は抜け殻のように生活していた。
でも、周りの協力もあった徐々に今までの生活に戻っていった。
私を元気づけてくれたのは、もちろん友達の力もあるけど、私はこの子のおかげで元気を取り戻せた。
「おはよ、ピィちゃん」
「オハヨ、ピィチャン」
昔から飼っている鳥のピィちゃんのおかげだ。
返事はオウム返しだけど、元気がないときは肩に乗って寄り添ってくれていた。
私の親友だ。
お母さんはそれを見て悲しい顔をしていたけど、今はピィチャンのおかげで学校に通えるまでになった。
お父さんが死んでしまってからは、お母さんと二人、狭いアパート暮らしだけど、ピイちゃんのおかげでお母さんが働きに出かけて夜遅くなっても、寂しくないのだ。
「おやすみ、ぴぃちゃん」
「オヤスミ、ピイチャン」
今日もお母さんは帰りが遅い。
私は先にいつも寝ている。
もう慣れているし、ぴぃちゃんもいるので寂しくない。
ウトウト、ウトウトと意識が深く遠くにいきかけて、もう寝ているのか起きているのか分からないぐらいになった頃。
どこからか悲鳴がかすかに聞こえ、なんだが熱くなってきた。
「んあ?」
目を覚ますと真っ暗だ。当たり前か、夜だもの。私は寝ぼけながら起き上がろうと上半身を起こした。
「ゲホ・・・ゲホッ!?」
体を起こした瞬間、何かを吸い込んだ。途端にむせて、息苦しくなった。パニックになった。
パチパチという音が耳につく。そして、肌が焼けるように熱い。火事だ。
それに気づいてからは、さらにパニックになった。
ハンカチで口を覆わなくちゃ、ハンカチなんて持ってない、どうすればいい?どうすればいい?
「オハヨ、ピイチャン」
何かが燃える音に紛れて、かすかにぴいちゃんの声が聞こえてきた。
「ぴいちゃ・・・」
ぴいちゃんの鳥かごの方を見ると、そこにはもう煙しか見えなかった。
絶望という言葉しか思いつかなかった。もういいかなと思えた。生きることを放棄し始めていた。
しかし、ぴいちゃんがいる方向から声がまた聞こえてきた。
「ろ・・・に・・・ろ」
「え?」
「逃げろ」
聞こえてきた声は正しくお父さんの声だった。そうだ、逃げよう。逃げなきゃ。私まで死んだら、お母さんはどうなるの?
「・・・ごめん、ぴいちゃんっ!」
私はぴいちゃんを見捨てて逃げた。体勢を低くして、煙から熱から必死に逃げた。
外になんとか出ると、人だかりができていた。
救助の人が私の所に駆けつけてきて、抱きかかえられた。
救急車に近づくと、人だかりの中からお母さんが飛び出してきた。
「よかった・・・!よかった!」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらお母さんは抱きしめてくれた。
その時ようやく死んでいないんだと実感して、私も大声をあげて泣いた。
火事は隣の部屋から出火したらしい。救急車に運ばれながらお母さんにぴいちゃんの事を謝った。
お母さんは、いいのよ。と安心しきった顔で言った。
私はここで安心したのか意識を手放した。
良かった。この子が無事で良かった。
そして、あの不気味な鳥が処分出来たのも良かった。
引っ越しの時、あの鳥を捨てたかったが、この子が泣いて嫌がるから捨てれなかったけれど・・・。まさかこんな形で処分出来るとは思わなかった。
主人が殺された日、私が買い物から帰ると家の鍵が開いていた。
あの人が買い物に出かけて鍵をかけ忘れたのかと思ったが、扉を開けて家の中に入って驚愕した。
匂いだ。
血なまぐさい匂いが充満していた。
「パパ・・・?パパ!?」
私は靴も脱がずにまずはリビングに入った。荒らされた部屋を見て恐怖が襲ってくる。
私はそのまま主人の部屋のドアを開けた。そこには手足を切り落とされた主人がいた。
そして、その主人を啄んでいるあの鳥。
「ろ・・・げ・・・ろ」
「え?」
「逃げろ」
その時、まだ主人は生きていました。
私は急いで救急車を呼びました。しかし、間に合いませんでした。
救急車を呼んで必死に死なないでと叫んでいる私を見下し、主人の肉を口ばしにはさみながら首を傾げていたあの鳥。死んでくれて良かった。
これからは二人で支えあって生きていこうと思います。
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