第18話、窮鼠
僕の思い出の中に奇妙な思い出がある。
ただ、その奇妙な、という表現はあくまで第三者から見てだと思う。
僕にとっては大切な大切な初恋の思い出だから。
僕が小学校高学年の頃のお話。
僕や僕の友達には、ちょっと変わった友達がいた。
その子は、日中外に出歩けない子だった。
学校帰りに俺はその子と近所だったので、プリントを渡したりする関係だった。
その子の家のインターホンを鳴らして少し待つと、母親が出てきた。
「ごめんねぇ、いつも悪いわねぇ」
「気にしないでください!うさこは元気?」
僕がそういうか言い終わらない内に、うさこは母親の後ろからぴょこりと顔を出した。
「プリントありがとう!」
「おう!気にすんな!」
うさこはアルビノと呼ばれる子だった。
昔は気味悪がられたりしたらしいけど、ネットが普及している現代でアルビノの事なんてすぐ調べられたので、僕の学校の同級生も僕自身もうさこを気味悪がったりしなかった。
今の世の中なんて、髪の毛をまっピンクやオレンジ・緑に染め上げてる大人がいるから、うさこも街を歩いていても、少し見られるだけで変な目には会ってないみたいだ。
ちなみにうさこというのはあだ名だ。眼が少し赤く、肌も白かったのでそう付けた。
うさこは可愛いから・・・ぴったりなあだ名だ。
うさこは、昼間は出歩くのが難しい体質なので、一番家が近い俺が学校のプリントを届けている。
この時の俺は、凄く興奮していた。なぜならば、俺はこの日、うさこをデートに誘おうと思っていたからだ。
三日後に花火大会があるんだ。それにうさこを誘うつもりだ。
夜なら出歩けるはずだし・・・。
「あ、あのさ。うさこ・・・」
「なぁに?」
「あ・・・あのさ、花火大会いかない?」
「明々後日の?」
「そ、そう!嫌なら無理にとは言わないんだけど・・・」
「あらあら、今夜はお赤飯かしら」
うさこのお母さんがくすくす笑い出して、俺は顔から火が出そうだった。
うさこも白いほっぺたが赤くなっていた。そして、何度も首を横に振っていた。
「いいの?」
「う・・・うん、私でよければ・・・あ!お母さん、お出かけしてもいい?」
「えぇ、夜だし。肌は焼けないでしょう。一応、日焼け止めクリームは塗ってね。」
「うん!うん!!」
うさこは白い顔をさらに真っ赤にして、本当に兎のようにぴょこぴょこ飛んで喜んでいた。
俺は花火大会の待ち合わせ場所と時間を決めて別れた。
凄くドキドキしたのを今でも覚えている。
花火大会の当日、待ち合わせ場所に一時間も前に俺はいた。
約束の時間まで、いてもたってもいられなかったのだ。
そわそわと待っているとクラスの何人かと会った。
「あ、お前。うさことデートか?」
「やるじゃん」
「ひゅーひゅー」
とクラスメイトがはやし立ててきた。
「おう!緊張しすぎて約束の一時間前にきたぜ!」
「お前それ、うさこが知ってたらうさこが自分責めるやつだろ!?早く来なくてごめんって」
「本当に男子ってアホね、早くくるにしても15分ぐらいで押しとどめなさいよ!」
「うさこがいい子だからって甘えるんじゃないわよ!」
「うさこ好きすぎるのもいい加減にしろよ!ショタロリのほんわか恋愛大好きです」
「お前らなんなんだよ、あと最後のは本当に何なんだよ」
ギャーギャーうるさい友達と話をして少し待つことにした。
「にしても、お前本当にうさこ好きだよなぁ」
「可愛いからな」
「うわっ、見た目?きしょ・・・」
「これだから男子は・・・」
「な・・・!ちゃんと中身も好きです!」
「はいはい。でも、良かった。うさこ、めちゃくちゃ元気になって。最初、転校してきた時暗かったじゃない?うさこ、前の学校で虐められて転校してきたらしいんだよね」
「え?あんな可愛いのに?」
「ほんとにね、何でもネズミと人間の間に生まれた子とか言われてたらしいよ」
「ネズミぃ?」
「ほら、目が赤くて白いネズミ・・・ハツカネズミだっけ?あれでいじられてたみたい」
「そんなひどい事言われてたのか!うさこ」
「まぁ、転校して正解よね。なんてったて、転校初日で挨拶したら兎みたいで可愛いって絶叫されるんだもんね」
「正直、あんたの絶叫のおかげで壁なくなった所あるしぃ、末永くお付き合いしてねぇ」
「おう!幸せいっぱいにする!」
宣言をしたところで、そろそろ約束の時間が近づいてきた。
友人たちは気を遣って、バイバイとお別れしてくれた。
約束の時間に遅れることなく、淡いピンクの浴衣を着たうさこがやってきた。
この瞬間ほど、神に感謝した事はなかった。
「ごめんね、待った?」
「ううん!全然!い、行こうか!あ、浴衣めちゃくちゃ可愛いね!」
「本当?ありがとう!」
この時の俺の顔は多分、溶けていたと思う。
俺はうさこと出店を回り、花火大会を楽しんだ。
「花火、凄かったね!」
「おう、でかくて音も凄かったよなぁ!また、来年もこような!」
「また、来年・・・」
「ん?どうした?」
「ううん、来年もこようね!」
やけに寂しそうなうさこを見て、変だなと思いながらも俺はうさこの事を家に送り届けてわかれた。
もし、あの時もっと話を聞いていれば、うさこは俺の隣に今もいてくれたのだろうか。
翌日、学校の放課後のHRも終わり、先生にうさこに持っていくプリントがないか尋ねたんだ。
すると
「え・・・と、うさこちゃんって誰かな?」
俺の中で時が止まった気がした。
何を言ってるんだろ?先生は。
「うさこってあの・・・アルビノの」
「アルビノって・・・難しい言葉を知ってるのね」
俺は花火大会であった友達の所に駆け寄った。
「な・・・なぁ。お前らうさこ知ってるよな?」
俺の質問にたいして、みんな首を傾げた。
おかしい、そんなはずはない。
俺は学校から駆け出して、うさこの家に向かった。
きっと、何か、そうこれはドッキリだ。みんなが俺を驚かそうとしているのだ。
息も切らしながら、うさこの家に向かった。
うさこの家は、空き地になっていた。
「なんで・・・?」
意味が分からなかった。
ただ、うさこの事は俺しか覚えていなかった。
うさこの思い出は夢だったのだろうか。イマジナリーフレンドだったのか。
ただ、俺はあの思い出を忘れない。
赤い瞳を、白い肌を。
俺は忘れない。
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