第13話、スイカ


もうすぐ夏がくる

夏がくると俺は田舎のじいちゃんばあちゃんちに行くんだ。

もう大人になってからは、親父やお袋とだけじゃなく、一人で行ったりもしていた。


じいちゃんばあちゃんちは、まさしく田舎!という感じで開けた田畑の真ん中くらいにデカイ平屋の家がぽつんと立っていた。


小さい頃は、田舎にくるのはワクワクしていた。

でも、大人になった今は癒しや休息を求めて行っている。

いや、行っていた。去年までは。

今年は、やめようと思う。


去年の夏、俺は出会った。あれに。

もう怖くて怖くて。

俺は帰れない。


去年の夏、お盆から少しずれた時期、会社から休みをようやくもぎ取って、俺は田舎にいく事にした。

親父やお袋たちはお盆の時期に帰郷していたようで、今年は俺一人で帰ることにした。


夕方、田舎のじいちゃんばあちゃんちにつくと、ニコニコがおのばあちゃんが迎えてくれた。その後ろにおくれて仏頂面のじいちゃん。


「東京からご苦労様だねぇ。今、つめたーい麦茶とスイカ用意するからね、座ってなさいね」


「あ、うん。ありがとう、縁側にいてもいい?」


「うんうん、わかったよ。そっちに持ってくね」


少し背中が丸まったばあちゃんは、台所へ消えていく。

じいちゃんは俺に一言。


「スイカはちゃんと残すんだぞ」


そう言って、テレビのある居間に入っていく。

俺ははいはい、と言いながらじいちゃんと同じ居間に入り、居間から続いている縁側に出た。


昔から、俺が小さい頃から言われていた「スイカは残す」というルール。

ようは皮の付近、青い所まで食べるなよ、と言われてきた。孫に甘くない味のしない所を食べさせたくないじじばば心だろうか。


縁側でほっと一息をつく。

縁側は夕日に照らされ、少し手入れされた草木が風に揺られていた。


明日は草むしりでもしようかなと思っていると、ばあちゃんがお盆にのせて麦茶と綺麗に切れたスイカを一切れ持ってきてくれた。


「赤いとこ、残して食べてね」


ばあちゃんは俺に優しくいって、また台所に行った。これから、夕飯の準備なんだろう。

スイカ、食べたら夕飯食べれるかなと思いつつも、田舎に帰らなきゃなかなか食べないスイカを口にしてみたら、一気に食べてしまった。


「うーん」


一気に食べた、と言っても赤い部分は残っている。

子供の時は盛大に残していたが、大人になった今、残すのは何だか忍びない気がしてきた。

俺はそのまま、綺麗に食べてみることにした。

セミの音も静かになり、スイカを綺麗に食べ終わる頃には、日が落ちていた。


赤い部分がなくなったスイカを皿に置いて風に当たっている時だった。


「ん?」


庭の茂みからがさり、がさり、と音がする。

何だと暗闇に目を凝らして、俺は息をのんだ。


それは蠢く球体だった。

大きさは人の頭ぐらい。しかし、綺麗な球体からは何か筒状のものが伸び縮みを繰り返してうねうねと蠢いていた。


俺が声をあげれずにいると、それは転がりながら少しずつ俺の方へと近づいてきた。

じいちゃんに知らせたいが声はでなかった。


徐々に徐々に近づいてくる不気味な球体。

俺はもう恐怖で駄目だと思った瞬間だった。

居間から


「ほれ」


とじいちゃんが庭に赤いスイカを一切投げ入れた。

グシャリと小さく音を立てて、身は崩れた。すると、球体はそのスイカにスピードを上げて近づき、球体から形を変え覆い被さった。

俺は呆然とそれを見ているとじいちゃんが俺の襟を引っ張り上げ、居間にずるずると引きずり入れて、手早く窓に雨戸にと締め切ってしまった。


「じ…じいちゃん、あれ…」


「ばあさんが」


「え?」


「ばあさんが飯運ぶの手伝ってやれ」


「…わ、わかった」


なんとなく、あれについては聞いていけない事なんだろうか。

俺はそそくさと居間から台所に向かおうとして、祖父の俺に向かって言ったのではない…恐らく独り言が聞こえてしまった。


「本当は…肉が食いたいんだろうなぁ…」


俺は聞かなかった事にして、ばあちゃんのいる台所へ向かいました。

ごめん、じいちゃんばあちゃん。

やっぱり俺、今年はそっちに行くのやめるよ…。

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