第10話、サトルくん


みなさんは都市伝説のサトルくんって知ってますか?


さとるくんは公衆電話で呼び出すことができ、サトルくんに質問すればどんなことでも答えてくれる。


そんな都市伝説だ。




夜8時ごろ、公園で1人の女性が公衆電話の前に立っている。


彼女は怯えたように恐る恐る扉にてを伸ばし、中に入っていく。




震える手で10円を入れ、番号を押していく。


友人から教えられた番号。


肝だめしだと言われて一人でやる事になった。馬鹿馬鹿しいが、ここまできたらやるしかない。




…ぷるる




かかった?




かかるとは思わなかったので、体が硬直する。




ぷるる ぷるる ぷるる 「はい?もしもし」




「え?は!?さ、さとるくんですか?」




出るなんて思ってなかったので、声が上ずって思わず問いかけてしまった。




「…はい、サトルですが」




「え…え、嘘?本当に…?」




イタズラだろうか、電話をかけた張本人は恐怖もあり、パニックになっている。




「あー落ち着いてください。僕は実際に存在するただのサトルです。


貴方は今、都市伝説のサトルくんに電話をかけたんですよね?それで僕が出て慌ててる、というところですか?」




「え…あ、はい」




「すいません、久しぶりのネタだったので名乗ってしまいました。余計混乱させましたよね、すいません。」




「えっと、どういう事でしょうか?」




女性が聞くとサトルと名乗る男性は話し始めた。


自分が子供だったころ、都市伝説が流行った。


もちろん、サトルくんの話も。


タチの悪い悪友が、自分の連絡先をサトルくんの番号だとバラまいたのだ。


それからは、ひっきりなしにかかってきて、自分も最初はノリノリでサトルくんを演じてたが、年が経てば馬鹿らしくなり、電話自体もかからなくなり、今は半年に一回かかってくるかどうか。




「いつもは知らない番号に出ないようにしてたんですが、仕事の関係で電話を待っていたんですよ」




「す、すいません!そんな…本当にごめんなさい、何かお詫びを」




「あーいいですよいいですよ。若い頃のバカな事ですし、意外と懐かしさに浸れるから番号変えてませんですしね!」




「で、でも…あ、私、幸子って言います!何か必ずお詫びしますから!」




「あはは、大丈夫ですよ。じゃあ、すいません。仕事に戻るので切りますねー」




サトルはそういって通話を切った。


同僚がどうしたーと聞いてきたので今あった事を話すと笑われて番号いい加減に変えろと言われた。


面倒だしなぁ、サトルは取引先からの電話を待った後、10時に退社した。




サトルが住んでいるマンションのエントランスホールを抜け、エレベーターに乗る。


明日はようやく休みだ。


もうすぐ自分の部屋に着くのではぁと口から空気を盛大に出した。


体が少しだけ軽くなった気がした。


エレベーターがサトルの部屋のある階につき、鍵をカバンから出しながら、自分の部屋のドアを見ると




ドアノブになにかかかっている。




なんだ?




サトルはそれに近づいた。


可愛らしい紙袋が部屋にかかっていた。




お袋が何か置いてったのか?


連絡してくれよ




悲しいかなサトルには彼女はいなかった。


自分の母親が度々、部屋に押し掛けてくる事があったので、きっと母親が煮物か何か持ってきたのだろうと、紙袋を持って部屋に入った。




部屋に入り、電気を着けて紙袋を漁りながら1Rに置いてあるベッドに腰かける。


紙袋の中にはタッパーに入った煮物が入っていた。そして、可愛らしいメモ用紙。




お袋、ありがとうなー




そう思いながらサトルがメモにかかれた字を読む。


とたんに震え出す。




「なん…で?」




メモにはこう書いてあった。




今日は本当にすいませんでした!


お詫びになるか分かりませんが、私の得意な煮物をお渡しします!


お部屋、綺麗にされてるんですね!


でも1Rだと2人で住むなら不便ですかね?今度一緒に不動産巡りしましょうか!




幸子




コンコンコンコン




サトルがメモを読んでいる間、そして読み終わった後も


ずっと背後の窓からノックする音が止むことはなかった。

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