第9話、ボール


放課後、俺は居残って友達と喋っていた。


家に帰っても母親がうるさいし、今は病気で寝込んでいる姉もいて、少しだけ家の空気が重くて、ついつい同じ帰宅部の友達に話しかけて足を止めさせた。




「そーいや、ユウキ。姉ちゃん先輩大丈夫か?」




「え?あ、あぁ。治りかけだから大事とってるだけで、結構元気だよ」




こいつが姉ちゃん先輩というのは、もちろん俺の姉の事で、姉は同じ学校に通っているので、姉の事を姉ちゃん先輩という。


いつからか体調を崩してしまって、最近は良くなってきたんだが、なんだかぼーとしている事が多くなっている。


そんな姉を母親は心配してまだ2~3日休ませている。




「そっかそっか、ならいいんだ!大好きなお姉ちゃんが元気ないと嫌だもんな!シスコン」




「おい!俺はシスコンじゃねぇよ!シスコンはお前だろ、妹大好き野郎」




「うん。妹すき。超すき。」




「あ、お…おう。」




こんな下らない話を教室でしていたら、ドアが開き、指導の先生が入ってきた。




「おーい、さっさと下校しろ。部活してる奴らも帰ってんだぞ」




「あ、はーい」




「うお、やべ。今日、俺が米炊き当番だったー!」




友達はそう叫んで、じゃあな!と先生と俺に手を振り、走って目の前から消えていった。


俺も帰りますと先生に言ってカバンを持った。




「おう、気をつけて帰れよ。また明日な!」




先生も手を振ってくれて、とぼとぼと校舎を歩き、下駄箱まで降りた。


下駄箱から校庭が見えるのだが、その校庭の真ん中にぽつんとボールが落ちていた。




(なんだ、サッカー部が片付け忘れたのか?)




俺は靴を履き替えてボールの所まで行き、持ち上げた。


白黒の普通のサッカーボールだった。




(どうしよう、倉庫ら辺においときゃいいか?)




ほっといても先生が片付けてくれそうだけど、サッカー部のやつが説教されそうだしなあと悩んでいると、後ろから声をかけられた。




「すいません。それ僕のです。拾ってくれてありがとうございます」




「あ、サッカー部の人?よか…」




俺は後ろを振り向いて固まった。


そいつはサッカー部の格好はしていた、していたが…首から上がないのだ。




「あ、すいません。いただきますね。よいしょっと」




そいつは俺からボールを取ると首の上に置いた。


いや、アンパンマンかよ。




「いや、僕、方向オンチだから片付け忘れられると、一人で倉庫帰れないんですよ~」




知るか。




「ありがとうございました。もう暗いですからね!変なのに気をつけて下さいね!」




もう目の前にいるんですが…。




心の中で突っ込んでもどうしようもなく。


目の前のサッカーボールマンはボール倉庫へ走り出していた。




「帰ろう」




しばらく固まっていたが、夢だと言うことにして帰る事にした。


そういえば、前に指導の先生が怖い話をしてくれた時に聞いた気がする。


独りでに動くボールが校庭にあるって、確か正体は生首とか…いや、あいつ本人からしたら、サッカーボールは生首か。じゃあ、本当だった怖い話って事?




全然怖くないじゃん!!




翌日サッカー部の友達になんとなくボールの数合ってるか確認してもらった。校庭に転がってるの見たと言ってね。


そしたら、一個足りないと言われた。




あいつ、ボール倉庫に向かうの確かに見たのに迷ったのか。


あいつ、今、どこにいるんだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る