第7話、山のトンネル


「ねぇ、もう帰らない?」




夜の舗装された山道を二人の男女が歩いている。


男は山道を軽い足取りで歩いているが、女は乗り気ではないのか、時折、男の服の袖を引っ張る等、男の歩みを止めようとする。




「なんだよー、A子。お前が心霊スポット行きたいっていったんだろ~」




「そうだけど…マジで行くとは思わなかったんだもん」




「ま、ここまで来たんだから!」




「何かあったら守ってね~B雄」




「はいはい」




男はスマホのライトで道を照らしながら、歩いていく。


女はその後ろを歩く。


二人は面白半分で心霊スポットに向かおうとしていた。




「この道で合ってるよな?」




「うん、合ってるよ~」




女はスマホを鞄から取り出し、男に見せてきた。


今いる山の中にトンネルがあり、そこに女の幽霊が出るとありきたりな情報が書かれている。


この場所を選んだ理由なんて家から近かったからなだけだ。


しかし、舗装されている綺麗な道とはいえ、少しは傾斜があり、女は段々疲れてきてしまった。




「大丈夫か?帰るか?」




「んー!でも、もうここまで来ちゃったから!写真だけでも」




「はは、全く」




女を心配し、後ろを軽く振り返った後、すぐに前を向き直した男は何かをカシャンと蹴った。


それは金属のようだった。


男は何だ?とスマホのライトを音の方に向けると、そこには赤錆たハサミが落ちていた。




「うお…」


「え?何?」




男はなんでもないと言い、その気味のわるい物を女に気付かせまいと、すぐに目線を上げ、目的地までの歩みを早めた。




「ここが…そのトンネル?」




「みたい、だね」




男の問いかけに女は答えた。


そのトンネルは大きな口を開けて、二人を待っていた。




男は恐る恐るといった感じでトンネル内を照らし、足を踏み出した。




女はその後をただただ付いていくだけだった。




二人は無言で歩き、反対側の出口まで行き、折り返し、そして…入り口まで帰ってきた。




無言の二人。最初に沈黙を破ったのは女だった。




「なんだあ、なーんも起きなかったね。でも、祟られたりしなくて良かったね~」




女は安心したのか、男に明るく話しかけた。


しかし、反ってきた言葉は予想とは全く異なった言葉だった。




「ふざけんなよ…」




「え?」




「ここが!心霊スポットで!出るっていうから来たんじゃねぇか!」




「え?え?」




「なのに!なあんも出ない!なんなんだよ!」




「あ、ご、ごめん」




「ごめんじゃねぇんだよ!」




「さっきからなんなの!?」




あまりにも理不尽過ぎる男の言い分に女も頭に来たようだ。


男と女はお互いに言い合いを続ける。


二人の罵声をトンネルが反響し、繰り返す。




「もう死ねよ!」




女が怒鳴る。そして、その手にはいつの間にかハサミが握られていた。


怒鳴られ、それを見せつけられた男は怯むことなく女に詰め寄る。殺意を持って。




深夜の山の中。


怒鳴り声と骨が砕く音、肉を刺す音が響いていた。
















「は~こりゃ、凄まじいですね」




明るい昼頃、山の麓にパトカー数台と十数名の警官が男女の遺体を囲んでいた。




「痴話喧嘩からの殺しあいですかね?」




「さあな、わざわざ山の麓でか?殺すつもりで来て、返り討ちにあった線も考えられる」




女は撲殺。男は刺殺だった。




「…なんで二人はこの山に来たんですかね?」




「さあな、わからねぇよ。とりあえず、凶器を見つけないとなぁ、女側の返り血から見て女が刺してたんだろうが…凶器はどこだ?」




「この山…道もないし、通り抜け出来るトンネルすらなにもないのに。絶好のポイントだったのか?でも、なんで麓に?」




二人の警官のボヤきは山の中に木霊することなく、消えていきました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る