第5話、幕間


お話を聞かせて頂きありがとうございます。




静かな喫茶店の中、中年の男が若い男に頭を下げていた。




「いえ、こちらも話が出来て少し楽になりました。


あいつは結局、見つからないままですし。」




「もしかしたら、またご連絡するかもしれません。


もし、aさんから何かありましたら、こちらに」




中年の男はaと呼んだ若い男に名刺を渡し、伝票を持ってレジに向かう。




aの会計も一緒に済ませた後、男は喫茶店から出てため息をついた。




なんで俺がこんな事を調べなくてはいけないんだ




男はしがない記者だった。


三流雑誌でオカルトの記事を書いている。


先ほどの男の呟きから分かるに、彼が座っている席は不本意なものらしい。




男はとある夫婦から大学生の息子が自殺した理由を調べて欲しいと依頼を受けたのだ。


様々な所に依頼し、足蹴にされ、三流記事の三流記者まで依頼が来たのだ。




男は事務所まで帰り、デスクに座り、パソコンを開く。


開くとすぐにパソコンがつき、ユーチューブが表示された。


動画の内容は、年の若いユーチューバーが幽霊が映ったと騒いでいる動画だ。


この動画のユーチューバーは自殺しており、この子の親が今回の依頼主だ。




たしかに顔だよなぁ




動画を拡大して見ると、確かに顔なのだ。はっきりと色白で黒髪の女が映っている。




生きてたら美人だろうな




ふざけて笑う男は手帳を取り出し、パラパラめくる。先ほどの証言を読んでいく。


aという男は、このユーチューブ以前より前にこの女にあっている。


大学生時代、友人の携帯の写真の中にこの女はいたらしい。




移動してるな。




男は女を睨みつける。


最初はスマホの写真に、次はユーチューブの動画に


では、次は?




まるでリングの貞子だな




男は女から目を逸らし、パソコンを閉じる。




もし、もしこれが怨霊、というより呪いなら


みたものを呪うなら




明確にわかっている被害者は大学生の男だけ


自分は安全だろうか、まだ男には何も分からなかった。




真っ暗な部屋の中、いやテレビの明かりだけがついた部屋の中




ぷつ




ぷつ




ぷつ




と糸を切る音が響く、


人影が一つ、鼻歌混じりで何かをしている。




ふいに人影はテレビの方をみる。




足りないか




誰に言ったわけでもなく、声は闇に溶けていく。




もう少し必要かな




付いていたテレビに砂嵐が入り始め、次第にそれは激しくなり、とうとうテレビは消え、部屋は静寂に包まれた。




男は知らない。


そして、私たちも知らない。何が起きるのかを。

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