午後10時47分
二週間も続く鬼畜テストに嫌気が差して、ある日の夜、外に繰り出した。
最初はただの逃避だった。
しかし次第にそれは、俺の趣味になっていった。
明るい世界から一瞬で暗い世界に転移したような、目新しさという魅力がそこにはあった。
それに加えて夜は暑くないし中々汗もかかないという非常に快適な時間だった。
道で急に立ち止まっても人通りが少ない夜ならば、人の目を気にして臆病になる必要も無い。
自分を精一杯、最大限、大きく見せられる、自分だけのためにあるようにすら思えてくる時間だった。
住宅街という名の迷路に嵌ってしまい若干の恐怖を覚えた時も。
帰路のことを考えずに一時間も真っ直ぐ歩いてしまった時も。
自販機に置いてある美味そうな飲み物に金を使い一晩で千円溶かした時ですら。
それは新鮮で、それは綺麗で、それは愉快な思い出となっていた。
ただひとつだけ、心残りを述べるとしたら。
両親に迷惑を掛けてしまったということ、なのだろう。
だから俺は今、ここにいる。
丁度今、くらいの時間。
満月が夜空に神々しく輝いている、丁度これくらいの時間。
両親が道端で泣いている、丁度これくらいの時間に。
轢かれて、死んだ。
なんともまあ呆気ない終わりだった。
(終わりではなくて、始まりですよ?)
しんみりした回想中に入ってこないで欲しいのですが……
実は話していなかったが俺が死んだ後すぐ、ある人に、いやある神に会っていた。
後々ちゃんと話そうと思ってたんだよ? 本当だよ?
まあ所謂、異世界転移というやつだ。
そして今、両親が俺の事故現場に来ている。
(転移前に姿だけでも見ておきなさい)
という神からの粋な計らいの最中だった。
お父さん、お母さん、悪い。
これから先がちょっと楽しみでニヤニヤが抑えられない自分がいる。
(じゃあそろそろ行きましょうか)
うん、そうだな。もう行こう。
さらば地球、さらば日本、さらば両親。
お前たちのことはこれからも忘れないぜ。
掌編集 聖火 @SeinaruHi
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