第2章 第20話「地球規模」

 彼らの成功は目に見張るものがある。アジアと東欧での全ステージを満席にし、その成果を日本でも見事に再現した。この活躍に世界中が注目しないわけがない。どこまででも進んでいけそうな彼らの勢いは地球全体を沸かせることになる。

 その後、彼らはアフリカと南米にそれぞれ移動し、各地で役者を集めた。小劇場というスタイルを貫きたかったようだが、世界はそれを許さなかった。彼らの次なる目標はウエスト・エンドとブロードウェイの小劇場での上演ではあったが、それぞれの大ホールからお声が掛かることになった。

 「君たちの企画ならばどんなものでも成功するだろう。だからこそ我が劇場を提供したい」という申し出があったそうだ。そこで彼らは小劇場と言う枠組みを外して考え、大ホールでの公演に切り替えることにした。何にしてもまずは役者集めが肝要になるが、イギリスもアメリカもこなれた役者が揃っているのでもう少し演劇文化に馴染みのない地域から選出したいと考えるようになった。そこで彼らは二手に分かれてアフリカ大陸と南米大陸に飛んだ。そこでいくつかの国に行き、全部で二十名の役者を選び抜いた。

 今回については劇場サイドで一流のスタッフを手配してくれるとのことだったのでスタッフの選出はしなかった。ただし制作だけは本居が全ての指揮を取った。どんな場所で公演を打つことになろうとも、きちんと自身の眼で見届けたいというのが彼の方針なのだと言う。


 あらゆる地域から人を呼ぶことになったので流石に今回は英語を話せる人物のみ採用することにし、脚本も英語で仕上げた。地域にばらつきがありすぎた為、全ての言語で説明をすることに無理があった。翻訳者を付けるという案もあったが、二十人近くの異なる言語の翻訳を連れ回すとなるとそれだけで大所帯になってしまう。そこで共通言語として英語を採用することにしたとのことだ。


 まずはイギリス、次にアメリカ、そして最後に日本の全国ツアーという大掛かりな公演をすることになり、準備期間は丸々一年半掛かった。現地の下見と文化の習得に半年、人材の確保と脚本の執筆に半年、稽古に三ヶ月、舞台自体の準備に残りの期間を当てはめた。各国の移動と舞台作りに関しては同時進行で行った。幸いなことにスタッフの掛け持ちは本居だけで済んだので現地スタッフへの指示出しは画像や動画でのやり取りに終始して本番期間中は別の会場の様子を直に観ることはなかったそうだが、そこは一流のスタッフが揃っていたので問題なく舞台が作り上げられた。


 スタイルとしてはウエストエンドとブロードウェイで好みが異なるものの、全て日本風で通すことにした。どちらかに合わせてみてもきっとバランスが悪くなる。それならばと日本での王道を通すことに専念した。役者に日本人がいなかったのでちぐはぐになってしまうという懸念もあったようだが、どこかで受けるものは別の場所でも大抵受ける。現地の好みをしっかり調査し、どちらでも外さないようにしつつ、日本受けするものを貫いた辺りに本居の大胆さを感じずにはいられない。彼らは上手くやり遂げた。

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