第2章 第4話「味方」

 「お前は経済ネタを書きたいんだっけか?」右向け右の体制の中でも左を向いているようなその先輩は少し変わっていた。いや、少しどころではなかったか。どちらにせよ下らない連中の一人ではあったことに変わりはないが。

 「自分を守ってくれる人間をいかにして味方につけるかっていうことが肝心になるんだ」

 「守るっていうのはどういうことなんですか?」

 「記事が炎上したりちょっとしたコンプラ違反をしても、強力なバックアップがついていれば何かとサポートしてくれるもんだ。大学のやっているミスコンなんかも大手のバックアップがなかったら間違いなく成立しない」

 「あれって学生自治で平和にやってるんじゃないんですか?」

 「そういう体にはなっているが、あくまでも体だけだ。根元がどこかは知らないがな、少なくとも大人が一枚も二枚も噛んでいる。女学生や、場合によってはミスコンにエントリーしている奴らとの接待ありきで金を恵んでもらっている。エントリーしている女学生じゃなくても、企業のおっさんはその知り合いのお友達なんかと繋がることができるかもしれないしな。学生と大人のネットワークなんてどこでもそんなもんだし、そういうところに価値を求めるような奴らはごまんといる。ミスコンの運営を守るというよりもそういったネットワークを守るために大人は全力を出してくれる。一部の学生の懐には金が入るし、関係している学生たちは就職に困ることもなくなる。大人は若い女とつるむことができる。ウィンウィンってわけだ」

 「新聞部のスポンサーってそういう側面もあるんですね」わかってはいたけれど、知らなかったフリをして答える。

 「あとはOBOG会っていうのがあるだろう? ミスコンほど華やかではないにせよ、これも似たようなもんだ。そういった繋がりを大人は大事にしてくれる。だから俺らがちょっと世間を騒がせるような記事を書いたところで、他のメディアが取り上げなければ全ては穏便に済む。一応大人がチェックをしてくれてはいるものの、いつどこでどんなものが炎上するかは読めない場合もある。新聞やテレビの報道ですら炎上することがある始末だからな。プロが燃えるようなら、俺たちはもっと燃える」

 「どんなに燃える要素があっても酸素がないと燃えたりはしないということですね」

 「その通りだ。わかってるじゃねぇか。そういう意味で我ら新聞部は大人に手厚く保護されているんだ」

 「そして我々の活動にはそういったバックアップが不可欠だということですね?」

守りがない以上は何をしても自滅する可能性がある。そんなことに気が付いた私は味方を探すことに全力を注いだ。

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