第7話「解散」
二週間に渡る全十八ステージが終わった。その間、一度も声の主、俺の影は出て来なかった。影の内側で共に稽古に出席していたので台詞や動線に何も問題はなかったが、発声方法や細かい動きは実際にやってみたことがなかったので影とは異なる雰囲気の芝居となった。それが他の役者たちにも伝わったのか、舞台上の動揺は否めなかった。
しかし不穏な空気が流れたのは初回くらいで残りのステージは全体が俺の存在を許容してくれた。流石は円が選び抜いた役者たちである。これくらいの修正はなんてことはない。そして円は普段稽古期間中は思ったことを率直に口にし、時に厳しくダメ出しをし、時に言葉を尽くして褒めちぎるが、本番期間に入ってからは一切の口出しをせずに黙って見守ることに徹している。全てのステージが終演した後も舞台上でのことについては口にしない。
反省することに意味がないというのではない。公演の評価をするのは最終的には演出や役者ではなく観客自身だ。それを踏まえた上で各自で反省点を炙り出し、欠点だと思った部分を一つずつ潰していく。直らない欠点であればそれが長所になるまで他の部分を伸ばしていく。それができないのであれば役者を続ける意味がないというのが彼の自論であった。もちろん役者側から質問をされればかなり細かく注意点を説明しているが、基本的には終演後の役者陣にはその公演の演出家としてのスタンスでは関わらないようにしている。
今回も同じく舞台上でのことについては何も言わなかった。稽古時と比べて明らかに俺の演技が変わったのにも関わらず、嫌な顔一つしなかった。反省会の時だってそうだ。
「観客の口コミが全てだ。各自情報の取捨選択を自己責任で行うという前提は付くが、ネットでもアンケートでも好きに眺めろ。観客の思う良し悪しが舞台についての全てであって、各自が今回の舞台や自身の振る舞い方を振り返るのは自由にすれば良い。とにかくお疲れ様」こんな話を役者にも俺にも良く話している。
反省会が終わり役者陣とスタッフ陣とも解散して、次の公演の計画を練る段で初めて切り出された。
「解散しよう」
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